「心理学総合案内心の散歩道」/自殺の心理/ネット
愛知県内のホテルで昨年8月、女性(38)がインターネットを通じて入手した筋弛緩(しかん)系の薬品を飲み、一時意識不明の重体となった事件で、無職の女(32)が自殺ほう助未遂の疑いで逮捕されました(2000.1.6)。
薬品を受け取った女性は、自殺を扱ったホームページに「死ねる薬をください」との電子メールを送っていました。これに返信した容疑者の女性は昨年8月、筋弛緩系の薬品100錠を入れた小包を郵送していました。
(事件の詳細はまだよくわかりません)
「まさかあれ、飲んだんじゃないでしょうね。あれは非常に純度の高い青酸カリなんですよ。その人が死んだら、私も死にまます」
インターネット上でドクターキリコと名乗って自殺希望者にクスリの解説などを行ってた男性が、医師の問い合わせに答えた言葉です。1998年の年末に起きた毒物宅配事件です。
事件は、インターネットを使った毒物宅配自殺事件という前例のない事件であり、大きく報道されました。マスコミは、ドクターキリコはホームページを通して毒物を販売する悪質な人間と報道しました。さらに、インターネットの闇の部分が歪んだ形でクローズアップされていきました。
しかし、マスコミはいくつもの誤解をしていたようです。その後、事件の詳細を調査した優れたルポルタージュも出版されています(相田くひを『インターネット自殺毒本』マイクロデザイン出版局)。
それによると、彼はたった一度ある掲示板に「シアン化カリウム(青酸カリ)売ります」と書き込んだだけで、自分のホームページで不特定多数に積極的に薬品を販売していたわけではありません。彼をとおして、結局7名が青酸カリを購入していますが、いずれも、口コミや電話、電子メールなどを通して個人的に購入したものでした。
ドクターキリコ事件に関しては、事件の関係者や関連本の著者などが、今もインターネット上で発言を続けています。
ドクターキリコ事件後の報道で、自殺に関するホームページが2万件以上ある、インタネットは得体のしれない世界だといった報道がありました。しかし実際は、この2万件というのは、自殺ということばが1ヶ所でも出てくるページをサーチエンジンを使って機械的に集めたら、2万ページになったという意味でしかありません。
ヤフージャパンでは、この事件前には自殺のカテゴリーには16件のホームページが登楼されているだけでした。事件発生により、自主的にページを閉じたものや、ヤフーが見直しをはかったために(たぶん)、事件後の登録数は3件だけでした。現在は、5件のホームページと、日本各地の「いのちの電話」のホームページが登録されています。
ただし、これまでのインターネットが、アンダーグラウンドな(オタクっぽい)内容が多かったことは否定できません。1997年ごろ、自殺予防に関するページを探すために「自殺」をキーワードにして、検索をかけたのですが、出てくるのは、「自殺のやり方」といったページばかりでした。そこで、私自身がこのページを開くことにしました。
しかし、インターネットの世界は、わずか数年で、大きく変わっています。現在のインターネットは、もうマニアやオタクだけのものではなく、一般市民のものです。アンダーグランドな情報も価値があるものですが、同時にオーソドックスな内容も、豊富にそろい始めています。
もっとも、自殺をテーマにしたホームページがいつも悪者扱いされるのも間違っていると思います。自殺志願者たちが集まって、コミュニケーションすることで、結果的に自殺予防になることもあるでしょう。もちろん、場合によっては自殺を促してしまう危険も確かにあるでしょう。今回のように違法なことをするのは、言うまでもなく論外です。
インターネットが犯罪にからんだりすると、マスコミは大きく報道します。しかし、これからは他のメディアと同じように、犯罪に利用されることもあれば、その一方で犯罪防止や自殺防止のために大きく利用されることもきっと増えていくことでしょう。
(今回の事件をマスコミはどう報道するでしょうか)
毒物自殺は、自殺志願者にとってとても魅力的なようです。有名な「完全自殺マニュアル」でも、多くのページを割いています。
でも、物語のように、楽に、確実に、きれいに死ねるクスリなんて、そう簡単にありません。苦しいです。辛いです。後遺症が残るかもしれません。たいしたことなくても、胃洗浄だけでも、とっても苦しいですよ。(私はやられたことはないが、胃洗浄の手伝いはしたこはある)
死ぬのはいつでもできるのですから、死ぬ前に、だれかにあなたの気持ちを話して下さい。
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ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
『インターネット自殺毒本』ドクターキリコ
『ネット心中 (生活人新書)』
『青少年のための自殺予防マニュアル』
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