心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理「心の闇と光」/神戸


子供を死刑や終身刑にはできません(投稿1)


 島根県警のホームページに神戸の事件を扱った「異界に住む子どもたち」があります。その中に、掲示板があり、私も何回か投稿したことがあります。今回、この掲示板に以下のように3回にわたって投稿いたしました。

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子供を死刑や終身刑にはできません(Re291)

 米村さん(投稿291「今後の少年法の方向」)から、私の投稿(177)とホームページ(犯罪心理学:心の闇と光)に関して、いくつかご質問がございました。それにお答えしながら、私の考えを再度述べたいと思います。まずその前に、米村さんは少年法の基本的精神をよしとし、また犯罪が減ることを願っていらっしゃいますよね。私も同意見です。いくつかの点で意見の違いはあったとしても、建設的な議論を行い、犯罪防止のために協力しあえることを心から願っています。

少年犯罪は、増加しているか。

 碓井(177)について、85年から95年の減少期だけをみて「あたかも一貫して減少傾向にあるように印象づけようとするのは正しい態度とは言えません」と述べておられます。

 碓井(177)は、以下の朝日新聞の記事を引用しました。

「犯罪白書によると、1995年に検挙された少年の刑法犯は14万9137人で、10年前に比べて10万人以上減った。また、少年法が施行された49年に殺人を犯した少年は344人、強盗 は2866人いたが、95年はそれぞれ80人、873人で4分の1程度になっている。」

 過去10年だけの変化だけではなく、50年前の少年法施行当時と現在とを比較し、殺人や強盗が4分の1になったことを示しています。もちろん、少年犯罪が一貫して減り続けているわけではありませんよね。戦後、3回のピークがあったことは、「心の闇と光」にも載せていますが、米村さんのおっしゃるとおりです。そしてここ数年、第三のピークからの減少が止まり、再び増加に向かっているように見えます。

 ところで、「客観的に凶悪化は、事実ではないでしょうか」とおっしゃっていますが、統計の数字は客観的なものでも、それをどう解釈するかは、その人によって違います。どんな内容の犯罪を、どの時点とどの時点とで比較するかによって、解釈は変わるのです。

 そこで、同じ資料を使っても、様々な意見が出ますし、「少年犯罪の増加、凶悪化、だから少年法を改正せよ!」という意見に対しては、「少年犯罪の凶悪化というが、どこにそんな事実があるのか」という専門家からの反論も出るわけです。

 単純な「少年犯罪の増加、凶悪化」というご意見には賛成しかねますが、しかし、近年の少年犯罪の変質化は、私も感じます。

 そして、少年法自体の大きな変化はないのに、この50年間少年犯罪は、増減を繰り返してきました。「異界に住む子供たち」の「非行原因に関する総合的調査研究」にもあるように、「家庭的状況、友人関係、教育との関係、地域や社会との関係などと、本人の人格的側面」の複雑な絡み合いの中で、発生件数も変化しているようです。

再犯による凶悪犯罪

 投稿291では、「少年非行Q&A」から「凶悪な犯罪ほど、それが初犯ではなく、再犯である確率が高い(40%以上)」ことを引用し、現在の少年法による教育、更生に疑問を投げかけています。

 さて、上の数字ですが、逆に言うと凶悪犯罪の半分以上が初犯ということで、世間ではむしろこの方に注目し、「いきなり型」の(凶悪な)非行が増えたと問題にしているように思えます。

 再犯率については、残念ながら0%にはなかなかなりません。少年より厳しい刑罰を受ける大人の場合も同様です。それでも、少年の場合、凶悪犯が再び凶悪犯罪を犯すことは少ないようです。

 全体の再犯率に対しても、いろいろな解釈があると思いますが、「再犯率の低さといった観点から見れば、日本の少年法の効果は世界的にも群を抜いているといえよう」という意見もあります。(「神戸事件でわかったニッポン」p.140)

諸外国との比較

 投稿291は、以下のように述べています。

「欧米において、保護主義を後退させ、厳罰主義へ向かう傾向が指摘されています。これは、ある意味で、従来の保護主義による対策が限界に達していることを示しています。」

 これも、前半の事実に対する解釈は様々でしょう。積極的に刑罰を加えるようにしたのではなく、経済事情(一般的に「教育」の方がお金がかかる)とする解釈もあります。また、欧米のようにしようという意見もあれば、そうしても結局少年犯罪は減っていないのだから真似をしてもダメだとする意見もあるようです。

 ところで、この件ではイギリスの「バルガー事件」がよく例に出されます。(http://www3.justnet.ne.jp/~matudasy/ikai/bulger/index.htm)

「イギリスでは、殺人(重罪)の場合には、10歳でもおとなと同じ陪審による刑事裁判が行われ、責任を問えるということを検察官が証明すれば、刑罰を科すことが出来る」ということで、日本でも子供に重い刑罰を与えようと言う意見の資料になったりしています。

 しかし、この事件を扱った「子供を殺す子供達」を読むと、単純に重罪には重罰というわけではないことがわかります(一般の人達は応報だと考えたかもしれませんが)。10才の子供に刑罰(不定期刑)を加えるために、どれほどの教育的サポートがされたか、「刑罰」を「教育」にするためにどれだけの努力がされたか、日本ではあまり報道されなかったようです。(「少年犯罪と少年法」)

少年法の改正とその他の方法

 投稿291は、「少年法を改正しても抜本的な問題解決にはならないという考え(177)(碓井)は、あまりに無責任」と述べています。米村さんは、投稿109で「法律をより適切なものとしても、それで全てが解決するとは到底思えません」と述べていらっしゃいますが、私の177の発言も主旨は同じつもりです。

 投稿291は、「すこしでも解決に近づけるのなら、小さなことでも地道にやっていかなくてはならないのです」と述べていますが、同感です。投稿117(碓井)で「犯罪防止の特効薬はありません。だとしたら、少しでも良い家庭、学校、社会を作るために努力し続けるしかないと思うのです」と述べているとおりです。

 投稿291は、少年法の基本的精神をよしとしながらも少年法の改正を主張しています。投稿177(碓井)では、「もしも問題点があるのならば、少年法の精神を尊重した上で、必要な改正を行うべきだと思います」と述べています。総論としては、違いはないと言うことでしょうか。

 神戸の事件に関して言えば、このような殺人そのものを目的とした快楽殺人(純粋殺人)への処遇としては、現在の少年法では不十分だと小田晋も述べておりまして、私も再考すべきかと思います。

子供の死刑、終身刑

 投稿291は、「終身刑 というのもいいのかな」「極めて凶悪な犯罪の場合、 少年でも死刑の適用を可能にしてよい」と述べています。この掲示板全体でも、決して少数意見ではありません。感情的には、わからないでもありません。しかし、「今後の少年法の方向」という点からは、現実的なお考えとは思えません。

 「子供の権利条約」によれば、18才未満の者への死刑や終身刑は禁止されています。日本も数年前に批准しましたので、これに反するような法律は作れません。また、刑法も責任能力のない者は罰しないのが大原則です。子供や精神障害者は、責任能力が低いとされ、14才未満の行為は罰しない、重い精神障害者の行為も罰しないという規定があります(少年法では16歳以下に刑罰を与えないとしています)。

 子供に刑罰を与え、死刑などにすることは、国際条約に違反し、刑法の大原則を崩すことになってしまいます。

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 ご質問へのお答えはまだ続くのですが、あまり長文になってしまうので、今日は、ひとまずここまでにさせていただきます。ところで、私は法律に関することは本当に疎いのですが、今回初めて法律関係の本を購入して読みました。付け焼き刃の知識ですので、間違っているところがあるかもしれません。読者のみなさま、お気づきの点がございましたら、どうぞご指摘下さい。

碓井真史


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