こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / バスジャック/1

バス乗っ取り事件(バスジャック事件)の犯罪心理
第一報を聞いて (2000.5.5)


 2000.5.3.福岡県で高速バスが刃物を持った若い男に乗っ取られ、乗客1人が死亡した。広島県警は停車中のバスに捜査員を突入させ、無職の少年(17)を現行犯逮捕した。人質になっていた小学1年の女の子(6つ)ら乗客の女性9人と運転手(57)は、事件発生以来、約15時間半ぶりに救出された。少年は動機については「言いたくない」と供述している。


人物

 少年は、中学までは「勉強がよくできる優等生」だったという。だが、いじめを受けていたとか、時々キレて何をするか分からない生徒だったと言う人もいる。

 中3の時、他の生徒とのトラブル(いじめ?)によって校舎から飛び降り、大けがをする。県内一の進学高校を希望していたが、第二希望の高校へ進学。10日登校しただけで不登校となり、1年で退学。自室に引きこもり、家族との対話も途絶える。家庭内暴力もあたようだ。家族は問題の解決のために努力し、カウンセラーも利用したが、成果はあがらなかった。

 今年3月、少年は刃物をもって自室に閉じこもる。家族は警察とも相談の上、少年を精神科に入院させる。事件は、病院の許可をもらい外泊していたときに起こってしまった。


事件の原因と責任

 犯罪がおきてしまうときには、いくつかの不幸な原因が重なっておきてしまうのだと思います。いじめがあり、不本意進学があり、不登校があり、引きこもりがあり、彼の性格的な問題もあったかもしれません。心の病もあったのでしょう。(病名は不明)

 だから、どこかでだれかが彼を救うことができていれば、今回の事件は起きることもなく、被害者がでることもなかったでしょう。これは、決して容疑者の少年の責任を軽視することではなく、事実だと思うのです。

 犯罪がおきたときに、原因を考えることは、犯人の量刑を考えるためにも、今後の犯罪防止にも必要なことですが、単純に誰かの責任追及で終わってしまっては行けないと思います。(もちろん、誰も悪くなかったと言うのでも困りますが)

 まず、外泊を許可した病院を責める声があるでしょうか。たしかに結果論としてはそうですが、こんな犯罪行為を予測することは不可能だったでしょう。私は軽々しく病院を責める気にはなれません。自傷他害のおそれがあって入院してくる人は少なからずいますが、状態が落ち着けば退院していきます。何年も入院させたままではいられません。

 もちろん、市民の安全を守ることはとても重要です。でも、たとえば自動車で人をひき殺し、免許取消になった人も、また免許を取得することはできますよね。危険性があるからといって、一生免許を取らせないとは、私たちの社会は考えないわけです。

 それでは、彼は考えられる限りの最高の医療を受けていたのかといえば、それはよく分かりません。彼も心の病を癒し、彼自身と市民を守るために、事件発生以前にもっと何かできたのではないかと思います。

 カウンセラーたちとは、どんな話をしたのでしょうか。カウンセラーがどのような関わりをしたのかは今はまったく分かりません。良心的なカウンセラーであれば、(それが正しいかどうかは別として)良心の呵責を感じているでしょう。

 私自身、カウンセリングが専門ではないとはいえ、週に一度だけ、不登校生徒と関わっています。何十人もリストアップされる中で、生徒とも保護者とも親しくなったケースもあれば、とても気になっているのですが残念ながら本人と直接会うことさえできていない生徒もいます。

 万が一、その中から事件が発生したら、私はその無力さのゆえに、やはり責任が問われるべきでしょうか。そうかもしれません。しかし、私が責められ、辞職したとしても、問題は解決しません。

 少年たちに関わる様々なプロが、能力を高め、責務を果たすべきなのは当然です。法整備も必要でしょう。けれども、少年自身の努力では解決できず、親だけでも、教師だけでも、友人だけでも、カウンセラーだけでも、医師だけでも警察だけでも解決できないとすれば、誰かを責めるだけではなく、協力しあうことしかありません。

 私たちが協力しあい、少年たちの心の問題、精神保健の問題を考えていくしかないと思うのです。


人質になっていた6歳の女の子

 よくがんばったね。ほんとにえらかったね。がんばった。がんばった。もしも取り乱して騒いでいたら、またどうなっていたかわからないよ。よくがんばりました。

 報道によると、この少女はバスの中のことは「覚えていない」といっているそうです。激しい恐怖や興奮のために記憶が混乱することは良くあることです。実際にある部分を忘れてしまったのかもしれませんし、話したくないという意味かもしれません。

 いずれにせよ、そっとしておいてあげましょうよ。

(ただ、長い時間の後、彼女の心の傷を癒すために、この事件をもう一度思い出し、この出来事に心の中でうち勝つ必要はあるかもしれません。でも、まだそれは先の話です)

 病院では、この子と母親のためにカウンセリングが行われているそうです。(欧米では以前からこのような体制がとられていましたが、日本も変わったものです)


容疑者の情報とネット

 事件発生直後から、容疑者に関する情報がネット上を飛び交いかました。いい加減な情報もあれば、容疑者の顔写真もありました。3年前の神戸の事件のときと同じですね。3年前と比べて、私たちのネット社会はどれほど成熟したのでしょうか。

 私は、個人的には、おバカでナンセンスなことは好きだし、ブラックユーモアも大好きですよ(このぺーじではやらないけど)。でも、自分は匿名で少年のプライベート情報を垂れ流すなんて、ポリシーもユーモアもないじゃないか。

 顔写真や実名があるからといってアクセス殺到なんてことはやめましょうしょ。マスコミの皆さんも、過剰な報道は逆効果だと思います。愉快犯を愉快がらせてはいけません。

つづく

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