こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / バスジャック/精神鑑定
簡易精神鑑定の担当医は「責任能力があったか、速断できない」と結論(6.1)、本格的な鑑定が行われる見通し(6.2)。
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法律関係者が事件に関して法律以外の専門家の援助を求めることを「鑑定」といいます。たとえば、医学的な鑑定などがあります。その中で、精神医学や心理学によるものを「精神鑑定」といいます。
日本で最も多い精神鑑定は、取り調べの段階で行われるものです。これには、簡単な面接で結論を出す「簡易検定」と、2〜3ヶ月をかける「本鑑定」があります。
精神鑑定の結果、「責任能力」がなかったと検察官が判断すれば、起訴されないことになります。
(起訴された後で裁判所、弁護士、検察官、いずれかの要求で精神鑑定が行われることもあります。)
普通、簡易鑑定は一回の面接で行われますが、今回は、慎重に3回にわたって行われました。その結果、担当した鑑定医は、次のように言っています。
「(少年の語っていることが本当であれば)精神分裂病以外にはあり得ないが、(少年が)真実を答えているか保証できない。即断できない」
「責任能力の有無は、短期間では判断できなかった」
* 少年が入院していた病院の医師は、行為障害(人格障害)と判断して次のように言っています。
「何らかの 心因(ストレスや悩みなど心の原因)により、憤まんのはけ口として、驚かせてやろうとして、やり すぎた。その結果、後戻りができず、犯行がエスカレートした」
鑑定医も、この見方を「否定できない」と言っています。
* マスコミを通して、何人かの専門家のコメントを聞けましたが、意見は分かれています。
ある人は、「緊張型の精神分裂病」の初期だと言っていました。ある人は、「妄想型の精神分裂病」だと言っていました。ある人は、そのような精神病のレベルではなく、「人格の障害」だと語っていました。
* 一般的には、精神分裂病だとされると責任能力がないとされ、人格障害であれば責任能力があるとされます。ただし、そのように決まっているわけではありません。精神鑑定の結果、精神病だとされても、有罪となる場合もあります。
広島地検は、犯行当時、少年が落ち着いて行動していたことを重視して、その冷静さや周到さから、「少年には責任能力が あり、刑事責任を問うべき」と判断しています。
精神分裂病は、血液検査やCTスキャンやレントゲンや脳波検査をしてもわからないものです。それでも、典型的な精神分裂病の患者さんを病院で見れば、簡単に精神分裂病だと結論することはできますが。
* 刑事事件の容疑者の場合は、ウソをつくこともあります。精神分裂病のふりをすることがあるわけです。巧みにウソをつかれた場合には、それを見破るのに時間がかかることもあります。
精神分裂病にもいろいろなパターンがあり、様々な症状があります。精神医学の教科書に出てくるような典型的な症例ではなく、誰にも気がつかれないうちに発病した場合など、精神分裂病だと診断することは、かなりのベテラン鑑定医でないと難しくなります。
病院の診断は、今現在の病気の診断です。精神鑑定の方は、現在ではなく、犯行当時の状態を推測しなくてはなりません。
このようなわけで、専門家であっても意見が分かれてしまうことがあります。東京埼玉で起きた連続幼女殺害事件でも、何通りもの鑑定結果が出ました。
補足
一般的には、精神分裂病の患者さんが、犯罪を起こしやすいとか、危険であると言ったことはありません。むしろ、多くの患者さんは、善良であるか、悪事をはたらくほどのエネルギーのない人たちです。偏見に満ちた冷たい社会の中でおびえているのは、患者さんの方なのです。
* 精神病だからといって刑罰を受けないのはおかしいとお思いの方もいらっしゃるでしょう。でも、私たちの社会は「責任能力」のない人間は罰しないと考えています。
赤ん坊が部屋に置いてあったピストルの引き金を引いても、責任は問えず罰することはありません。江戸時代でも、精神障害者の行為は罰せられません。「ご乱心でござる」ということで、刑罰は受けないのです。
(座しき牢には、入れられたかもしれませんね。現在でも責任能力はないが、「自傷他害」の恐れがあるとなれば強制的に入院させられます)
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