心理学 総合案内 こころの散歩道(新潟青陵大・碓井真史)/犯罪心理学「心の闇と光」/足立少女監禁事件
事件から考える溺愛と過保護の親子心理
2005.5.14(補足5.15「侵入する母」)
容疑者である24歳無職の男性。青森市五所川原出身。実家は、税理士事務所と2つの保育園を経営する資産家。裕福な家庭です。祖父は警察署長でした。
「父親は、金を与えるだけの人。子どものときの小遣いも10万円以上」と語る近所の人もいます(産経新聞5.14)。
母親は教育熱心。息子を溺愛していたと語る人もいます。
塾などにもベンツで送り迎えをしてもらっていました。成績は優秀でした。
読売新聞(5.14)によると、「修学旅行で泊まった部屋で千円札をばらまいていた」「当時まだ珍しかった携帯電話を学校へ持ってきて自慢していた」そうです。
あだ名は「王子」。しかし、友人は少なかったようです。高校は中退。そして、母親が亡くなります。
「彼は母親っ子で甘やかされていた。母親の死にはショックを受けていた」と地元の人は語ります。
弁護士によると(産経新聞5.14)、
「母が死んでから人生が狂い始めた」
「母親が唯一の理解者だった」と男性が話していたといいます。
そして、この男性を、
「自己中心的なマザコン、過保護」と評します。
*
北海道の事件の後、父親は1200万円の示談金を支払います。
裁判では、「将来は保育園の園長につかせる予定。更生に力を尽くす」と息子をかばっています。
執行猶予となった男性は、いったん実家に戻りますが、父親を嫌い、離れの祖父母と暮らします。
その後男性は、北海道大学医学部の受験準備のためのうそを言い、上京。家賃12万円の2LDKのマンションに住み、家賃以外に20万円以上の仕送りを受けつつ、今回の監禁事件を起こします。
昨年少女が逃げたあと、近所から騒音の苦情が出たため転居しますが、親には、部屋が狭く予備校にも遠いと言って、新たに世田谷のマンションを借りています。
そこで、さらに女性を監禁します。
「ハーレムが作りたかった」
「母親役の人がいないと生きていけない」
「自分の自殺願望を止めてくれる人がほしい」
事件の舞台となったマンションの机には、母親の写真が飾ってありました。
親は子どもを愛しているのですが、不健康な愛し方が、過保護です。過保護な生活の中で、子どもは人間関係能力が育たず、我慢することや、協力し合うこと、強い心をもつことができないまま、育ちます。
それでも、小学生ぐらいまでであれば、親が全部面倒を見て、かばって、何とかやっていけます。
しかし、思春期になるころになると、親がすべてをカバーすることはできなくなります。
上手くいかない人間関係。子どもは悩み、挫折します。
苦しい外の社会から逃げて、親にべったりと近づくこともありますが、同時に、こんな自分にしてしまった親への激しい憎しみや棒暴力が出ることもあります。
お金を与えること自体は、もちろん悪いことではありません。しかし、適切な愛の与え方がわからないとき、その代わりとして、金を与えすぎることがあります。
子どもを決して愛していないわけではないのですが、金を与え、甘やかし、すべての困難を取り除けようとし、将来を準備しようとします。
子どもを愛し楽をさせたいと思っていますが、同時に自分のようにがんばれない子どもを歯痒くも思います。
マザーコンプレックス。母親との愛情関係に、心の底で満足できない部分を持ちます。成人しても母親に甘えつづける人もいます。あるいは、他の女性に「母親」を求めてしまう人もいます。
母のように、自分を完全に愛して欲しい。
母のように、自分のすべてを受け入れ、どんなわがままも、認めて欲しい。
時には、非常に男尊女卑的な態度をとる人もいます。
恋人が妻が正当な理由で怒っていても、逆切れして怒り出します。
恋人や妻が病気のときに、非常に不快感を示す人もいます。
報道によると、容疑者の男性が高校生のころ、恋愛感情を持つ女子生徒と二人になる段取りを、母親が取っています。恋人にしてあげたかったのでしょう。
そのときも、女子生徒が言うことを聞かないと、男は乱暴な言動を取っています。
逃げ帰る女性性を母親が呼び止め、「息子は悪くない」と、かばっていたと言います。
(こんなことをしても、恋愛心理学的に言って不幸になる恋愛しかできないのですが。)
高校性の息子のために避妊具を用意し、置いてやっていると、にこやかに話していたという証言もあります。
*
子ども達は、思春期になると、親から離れようとします。親の中には子離れできず、子どもを抱きしめつづけようとする親もいますが、子どもが親の手を跳ね除けよとするのが普通です。
家族との外出よりも、友達との約束を大事にするなど、親としてははらはらしますが、人はみなこのようにして成長します。友人、仲間との人間関係を育てます。
*
性的な事がら、異性とのことであれば、なおさら秘め事です。思春期、青年期は親に対して秘密を持つ時期なのです。
親から心理的にはなれ、体と心の性的な面が成長し、仲間との交流、異性との人間関係を少しずつ深めることで、傷つきながらも、だんだん大人になっていくのです。
それが、いつまでも親とべったりと一緒では、同姓との人間関係も学べず、異性にどのようにアプローチすればよいのかも学べず、時には心の中の性的な部分や、異性観が、歪んでしまうこともあります。
*
すべての面倒を見てくれていた母の突然の事故死(自殺という報道もあります)。
女性を求める心。
特に彼の場合は、心理的な「母」を探して女性を求める心。
母のような「完璧な女性」を求める心。
しかし、そのような「母」になる女性などは存在せず、また、女性と健康的に親しくなる訓練もできないまま育った男性。
彼には、もう違法で暴力的な方法で女性を身近に置いておくということしか、考えつかなかったのかもしれません。
大金持ちの父。何でも与えてくれる父。しかし、真実の、心が温まるような愛情表現は苦手な父。心のどこかで息子である自分をバカにしているように感じられる父。自分を支配しよう、人生にレールををしこうとしている父。
こんな父親を息子は嫌います。
では、そんなに嫌いであれば、親から精神低にも経済的にも自立すればよいのですが、そのような精神的経済的力はない。親を嫌いつつ、親に頼るしか生きていけない。また、そんな自分自身を嫌っています。
***
本当は、たっぷりの親の愛を実感し、親も子どもを健康的に愛することで、愛と「適切な困難」を子どもに与えることが大切です。
子どもは、愛されている安心感を土台とし、成長に伴い強さも身に着け、親を愛し、そして自立していくのです。
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