2013.5.7 アメリカで10年ぶりの救出:長期監禁事件の犯罪心理学:加害者の心理、被害者の心
人間にとって、「自由」は食物や空気のように必要不可欠なものかもしれない。その自由が奪われ監禁されたときには、様々な心身の問題が生じる。模擬監獄を使った心理学の実験では、囚人役にされた人々わずか数日で、自尊心が低下し、心身の不調を訴えるようになったと報告されている。
実際の刑務所では、反応性精神障害のひとつである「拘禁反応」が生じることがある。特に孤独な時間が多い独居房では、幻覚妄想状態や、「監獄爆発」と呼ばれる興奮状態に陥ることもある。
逆に雑居房では、一人になることができないことが大きなストレスになることもある。また、刑務所(プリゾン)という環境に過剰適応した結果として、無気力状態「プリゾニゼーション」になることもある。
戦時中の捕虜収容所ではさらに過酷な監禁が行われた。フランクルは、ユダヤ人としての自らの収容体験をもとに、監禁被害者の心理をまとめている。普通の生活から突然、人権を奪われ、収容所に監禁された人々は、まず収容ショックともいうべき心理状態となる。激しい恐怖や不安が津波のように押し寄せて、取り乱す。
同時に、これが悪夢であってほしいと願い、非現実的な開放を夢見る。しかし、想像以上の過酷な現実にさらされ、彼らの感情は麻痺してくる。希望を失い、残酷な場面に接しても、無関心、無感覚になってくる。このような形で異常な環境に適応しているのである。
しかし、すべての人がこのようになるわけではない。強い精神力を持ち、人間としての尊厳を失わなかった例もフランクルは紹介している。
さて、長い監禁から開放されたあとは、しばらくは現実感がわかず、戸惑いや脱力感を感じる時期がある。そして、その後になってようやく自然な感情をもてるようになるのである。
ハイジャック事件や、強盗監禁事件などの場合、ときには解放後に被害者が加害者を弁護する不思議な現象が見られることがある。ストックホルムでの銀行強盗事件から、この現象を「ストックホルム症候群」と呼ばれている。
監禁後に、犯人が紳士的に振舞うこと、また警察官に取り囲まれいつ踏み込まれるかわからない状況で、犯人と被害者の間で奇妙な運命共同体意識が生まれた結果である。
監禁によって、マインドコントロールが行われることもある。アメリカでは、ある過激な政治グループに誘拐監禁された富豪の娘が、解放後にその政治グループに入会してしまう事件もあった。
誘拐、監禁という激しい不安の中、犯人たちは被害者の予想に反し親切な対応を取り、そのなかで、外からの情報を遮断し、自分たちに都合のよい情報だけを被害者に与えつづけたのである。
監禁被害者に対して、チャンスはあったはずなのに、なぜ逃げなかったかと世間が責めることもある。しかし、被害者は体が鎖につながれていなかったとしても、様々な心理的作用により、逃げることができなくなっていたのである。脱出の努力が何度も無駄になるうちに、「学習性無力感」に陥ることもあるだろう。
監禁が長期にわたるほど、被害者の心の傷は深く、また社会から好奇の目で見られることもあるだろう。しかし、被害者に与えられるべきなのは、保護と援助である。
ジュディス・ハーマン著『心的外傷と回復 』 の第4章 「監禁状態」 によれば、監禁犯人は、被害者を奴隷化する。
実際の暴力だけでなく、言葉の脅し、言葉の暴力で支配する。行動を支配し、恥辱を与える。殺されそうな不安を与える。
そして、些細な恩恵を与え、被害者をむしろ加害者に依存させるようにする。こうして、被害者の心の傷は深くなっていく。
戦時中は、捕虜たちは常に脱走計画を練るようにすすめられたという。脱走によって敵を混乱させる目的もあるが、脱走計画を考え努力すること自体が、心の健康のもとになるからある。
しかし、一般の人が兵士の様な考えや行動がいつもとれるわけではない。それでも、監禁被害者は、必死に努力いている。
大人しく静かにしているというのも、生き延びるための方策である。
従順に見せて、犯人のすきをついて逃げてきた被害者もいる。
誘拐監禁された子どもの中には、圧倒的な力の差のある犯人に逆らうことはできなかったが、ノートに家族の名前を書き続けた子どももいる。
監禁被害者は、惨めな生活を強いられる。それでも、被害者たち負けない。解放の望みを持ち、解放後は新しい人生を歩みだす。
新潟女性監禁事件の犯罪心理学(新潟少女監禁事件の犯罪心理学)
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