こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / 春奈ちゃん殺害事件

春奈ちゃん殺害事件

動機は口では表せない」「悪者探しを続けても」
「180度の変化と"ねばならない"」

2000.1.15

(このページは、DAY by DAY 日記エッセイで作成された文章の再掲載です)

 180度の変化と「ねばならない」
(論理療法の考えから)1.15

 2000.1.15の報道によると、被告の女性は、最初は被害者である春奈ちゃんの母親を殺そうとしていたことがわかりました。しかし、大人を殺すことは難しいと考え、その娘の春奈ちゃんを殺害したと供述しています。

 事件の直後は、「お受験」にからむ問題や、生活レベルに関する劣等感などが、犯行の動機と報道されていましたが、どうやら違っていたようです。

 被告は、春奈ちゃんの幼稚園への最終的な合否については知らなかったことが判明しています。また、被告の家庭の月収は手取りベースで、被害者宅より四、五万円多かったということです。

 内気な性格の被告にとって、春奈ちゃんの母親は、引っ越して初めて心を許した「親友」でした。被告が妊娠したとき、そのことを身内以外に最初に話したのは、春菜ちゃんの母親でした。

 ところが、ささいな行き違いから、仲が悪くなってきました。それでも、被告は仲の良いふりをし続けなければならないと感じ、しだいに自分の心をしめつけていきました。

 表面上は友人関係を続けながら、心のなかで、もう会いたくない、つきあいたくないと強く思っていたのです。そしてその思いは、ついに幼児殺人にまで進んでしまいました。

 娘が死ねば、もう母親ともつきあわなくても良いと考えたのです。その時の被告は、冷静な判断力を失っていたのでしょう。(法的に言うところの善悪の判断はついていたでしょうが)

***

 人間は、以外とがらりと変われるものです。ヤクザが牧師になることもあります。そうかと思うと、「優等生」が売春で補導されたり、親を殺すこともあります。酒が大嫌いで一滴も飲まなかった人が、アルコール依存症になることもあります。「良妻賢母」が児童虐待をすることもあります。

 もちろん、良い変化ならすばらしいことです。そういうこともあります。でも、無理をして現状を維持している人が、その緊張の糸が切れると、破滅的な行動に走ってしまうこともあるのです。

 良い子でなければならない、酒は一滴も飲んではなならない、子どもは絶対に殴ってはならない、あの人とは仲良くしなければならない、そんなことをあまりにも無理をして思い込みすぎると、かえって上手く行かないのです。

 世の中のほとんどは、「ねばならない」ではなくて「〜の方が良い」です。ある価値観に立ったとしても、「良い子のほうが良い」「飲まないほうが良い」「殴らないほうが良い」と考えるべきです。いえ、そのように考えたほうが良いのです。

 そう考えるほうが現実的だし、効果的な方法が取れるし、少しぐらい失敗しても、すぐにやり直しができるのです。(論理療法の考え方より)

 もしも被告が、あの母親とは仲良くしなければならないとは考えずに、仲良くしたほうが良い、そのためにはどうしたら良いだろうか、そして努力してもだめだったときにはしかたがないと思えていれば、こんな悲しい事件は起きずにすんだことでしょう。


春奈ちゃん殺害事件

動機は、「言葉では言い表せない」

99.11.29


 1999.11.25.行方不明だった2歳の女の子が遺体で発見されました。逮捕された容疑者は、近所に住む主婦でした。

 犯行の動機については、「春奈ちゃんのお母さんと長い間心理的なぶつかり合いがあり、言葉では言い表せない」と供述しています。

 また、関係者は、この主婦について「ごく普通の地味で平凡な人。他人といさかいが あったという話も聞いたことがない」と語っています。

 悲しい事件ですね。むごい事件です。無抵抗の小さな子どもを殺すなんて。ご遺族は胸の張り裂けるような思いをしていることでしょう。

 さて、容疑者は、「長年の心理的ぶつかり合い」と述べています。2人の間に何があったのか、容疑者の心に何があったのか、わかりません。

 ただ人の心は、一つの大きな出来事よりも、長年の少しずつの出来事に影響を受けることが多いように思います。

 「言葉では言い表せない」......心の中の悲しみや憎しみやねたみや怒りや、うずまく激しい感情を、言葉で表すことが必要です。

 言葉で表すことで、自分の感情を客観的に見ることもできますし、言葉で表すことで、感情やストレスを発散させることができるのです。

 感情を小出しにすることもできず、理性で自分の感情を管理することもできないまま、犯行に走ってしまったのでしょうか。

 被害者のご冥福と、そして、被害者側、加害者側を含めてすべての関係者の癒しを、願わずにはいられません。

11.26



春奈ちゃん殺害事件 2

〜 悪者探しをしてみても 〜


この事件の報道が続いています。

「経済的な劣等感などに加え、相次ぐ長男、長女の受験失敗で、一層心理的に追い込まれた可能性が強いとみている」( 捜査本部)

「親同士が職業や学歴で見えを張り合う状況があった。おとなしい性格の山田容疑者は肩身が狭そうだったという」(関係者)

「精神的なストレスがたまっていた。春奈ちゃんの家族と仲が良いと周囲に思われていたが、本当はそうではない」(容疑者)

 いくつかの不運が重なって、心の傷が大きくなっていきます。心の傷をカバーするために、社会的強者の一部は、学歴や家柄や経済力を誇示します。

 社会的力などなくても、もっと健全な方法で心の痛みを和らげればよいのですが、力がないことで、さらに心の傷が広がることがあります。何かで、この傷を被いたいと思ったとき、犯罪的な行動に走ることもあります。

 心の傷が広がっているのに、仲の良いふりをしなければならなかった(自分でそう思い込んだ)のは、さらに傷を深くしていったでしょう。

「妻はいろいろ思い悩んでいてナーバスな状態だった」(容疑者の夫)

 家族は異変に気づくのですが、まさか殺人まで犯すとは、予想できなくて当然といえるでしょう。

「山田容疑者は普段から周囲の母親たちから無視されるなど疎外されていたといい、抑圧された気持ちが子供の受験失敗で爆発した可能性があるという」 (関係者)

「常にいじめられる対象が必要で、だれがそうなるのか皆がおびえていた。彼女もその対象に度々なっていた。幼稚園の中でつらい立場にあったようで、そのストレスがわが子の不合格で一気に吹き出したのではないか」(関係者)

 こんな報道がなされると、うっかりすると今度は 周囲の人間が悪者にされてしまいます。事実関係を知る必要はあるのでしょうが、悪者探しになってしまい、さらに多くの人を傷つけるだけにならないように気をつけなくてはなりません。

 もちろん悪いのは、加害者です。でも、加害者を責めるだけでは不十分だと思います。また他の「悪者」探しを無節操にするだけでもいけないと思うのです。

「私の身勝手な感情から何の罪もない春奈ちゃんを殺したことを深く反省している」(容疑者)

 むごい事件が起きると、もっと刑罰を厳しくしろという意見も出ます。でも、この事件も、仮にもっと日本の刑法が厳しいものであっても起きてしまった事件でしょう。

 事前に準備していた犯行ではありますが、冷静に計算された犯罪ではありません。容疑者は、自首しています。

 子どものことがきっかけになった事件ですが、こんなことをすれば自分の子どもがどれだけ傷つくかを考えれだけの心の余裕がもう少しあれば、殺人など犯さずに済んだことでしょう。

11.29

***


犯罪心理学:心の闇と光へ戻る
一般的な犯罪の心理、殺人の心理はこちら
通り魔事件・毒物事件・神戸小学生殺害事件など。



「こころの散歩道(心理学総合案内)」
トップページへ戻る

心理学入門社会心理学心のいやし・臨床心理やる気マインドコントロール | ニュース解説自殺予防犯罪心理学宗教と科学プロフィール心療内科リンクDAY :日記ホーム