心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/心理学トピックス/成人年齢引き下げ・18歳成人の心理学
政治参加・少年法・世界標準・権利義務・心理学的成人・生物学的成人・青年期とは・欧米では
2009.7.30
成人となる年齢を現在の20歳から18歳に引き下げる民法改正についての検討をしてきた法制審議会の民法成年年齢部会は2009年7月29日、成人年齢を18歳に引き下げるのが適当とする最終報告書を取りまとめました。
報告書では、18歳から可能にするものとして、投票、親の同意なしの結婚・契約、馬券などの購入などをあげ、扱いを別途検討するものとして、飲酒、喫煙、国民年金強制加入、少年法適用などの年齢をあげています。
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今回成人年齢引き下げ議論が始まったきっかけは、新しく成立した「国民投票法」で投票年齢を18歳以上に定めたことにあります。それにともなって、成人年齢を18歳にしようとする考えがでてきました。
成人年齢が18歳になれば、選挙権も18歳からになり、少年法の適用も18歳からは成人として適用されなくなるでしょう。成人年齢の引き下げは、社会のあり方を大きく変えることです。関係する法律、政令なども300を超えます。これは、簡単に結論が出せる問題ではなく、国民全体の大きな議論が必要であると言えるでしょう。
今回は、どれほどの国民的議論が高まっているでしょうか。
若者の政治参加
成人年齢引き下げの一つの論点は、選挙権を18歳に引き下げることで、若者の政治参観を促そうとするものです。近年、若者の政治離れが進み、20代の投票率も下がっています。ここで、選挙権を引き下げて若者の政治への意識を呼び戻そうとする考えです。
若者が政治に関心を持ち、若者の投票率が上がるとすれば、それはとても良いことでしょう。
少年犯罪への厳罰化
もう一つの論点は、少年犯罪への厳罰化としての成人年齢引き下げです。現在の少年法では、20歳未満を少年として保護の対象としています。逮捕された容疑者が20歳未満の未成年であれば、「少年A」というわけですが、これが18歳未満に引き下げることになります。
少年法の問題を含めて、現在は18〜19歳の人が法的に保護されています。この保護をなくしてしまうことには、様々な問題があるといえるでしょう。
日本では長く20歳を成人としてきました。法的には、明治29年に制定された民法で「満20歳をもって成年とす」と定められています。すでに100年以上前に定められた法律であり、否定的な意味で「古い」法律ともいえますが、それだけ20歳成人は国民に広く浸透しているとも言えるでしょう。
ただ、現在の法体系でも、結婚の年齢、運転免許の年齢、飲酒や喫煙の年齢、選挙権、被選挙権の年齢など、統一されているわけではありません。
新たに18歳を成人とするとしても、必ずしもすべての法律で成人年齢を引き下げ18歳に統一しなければならないわけではないでしょう。様々な議論が必要だと思います。
いろいろな法律で、何歳から成人とするかは、様々な議論が必要だとしても、一方で「18歳は大人だから少年法で保護するな」として、もう一方で「18歳は子どもだから選挙権は与えるな」というわにはいかないと思います。
法的な権利義務は、どちらか一方だけを進めることはできず、18歳を成人とするのであれば、様々な側面で成人として権利を持ち、同時に成人として義務も負うことになるでしょう。
18歳が成人であり少年法で保護から外れるというのであれば、同様に18歳は大人であり選挙権も持つことになります。18歳が成人であるとするのは、18歳は成人としての判断力をもっていると、社会が認めると言うことです。
世界の189の国と地域の中で、168の国と地域が18歳(16、17歳を含む)を成人としています。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、欧米諸国を始め、ロシア、中国などの主要国も18歳を成人としています。
サミット参加国で20歳を成人としているのは、日本だけで、他のサミット諸国は18歳を成人としています。OECD(経済協力機構)に加盟する30ヵ国の中でも、20歳を成人とするのは日本だけで、韓国の19歳を除けば、他の国は18歳を成人と定めています。
すでに世界では18歳成人が標準であり、その点からも、日本で18歳成人問題が理論されるのは当然のこととも言えるでしょう。
イランは15歳で成人、、韓国は19歳、タイは20歳、マレーシアは21歳など、18歳成人が世界標準だとしても、多様な考え方があるといえます。
また先進諸国では18歳成人の制度は、選挙権年齢の引き下げとしての意味合いが強いのですが、アジア、アフリカの中には、若者を兵士として活用するために、18歳を成人としている面もあり、何歳を成人とするかは、多様な問題を含んでいます。
日本ではこの100年20歳成人が定着しているとは言え、それ以前は様々な考え方がありました。
江戸時代の武士社会では、数えで15歳になれば「元服」を行い、成人でした。この元服は、古く奈良時代から行われており、江戸時代には庶民の間でも行われていたようです。年齢も、15歳と明確に定められていたわけではなく、12歳から16歳の時期に行われていたようです。
女性の場合も、江戸時代には元服も成人の儀式として行われる場合もあったようですが、元服とは別に「髪上げ」の儀式が女性用の成人となる儀式として存在していました。これは、12歳から15歳頃に行われていた様です。
日本以外でも、歴史的に見れば、人々の合意、社会の通年としての成人年齢は数百年の年を経て引き上げられてきた訳ですが、近年になって再び引き下げようとされてきていると言えるでしょう。
生物学的に言えば、成熟して生殖機能を持ったもの(つまり、父、母になれる肉体をもったもの)が大人です。
子孫を残せるまでに体が成熟すれば、成体つまり大人です。かつて女性が12から13歳で成人とされたのは、妊娠可能な年齢から来たものでしょう。
身体的な面で言えば、人間の場合は第二次性徴が早く出現する「発達加速現象」が起きています(以前よりも、早く男らしく女らしくなります)。かつてより早期に大人になっているわけです。
しかし、複雑な社会の中で生きる現代人にとっては、他の動物とは異なり、体が成熟して生殖能力をもてば成人だとは考えられていません。
身体的に生殖能力を持つことに加えて、社会的にも子どもを産み育てることができる総合的な能力を持てた段階で、はじめて成人として認められるといえるでしょう。(病気等で不妊の人は成人ではないという意味ではありませんよ。念のため。)
そして、身体的には生殖能力を持った成人だが、他の社会的な面でまだ責任をもって自立できない状態というのが、青年期です。人は、子どもから青年になり、青年期が終わることで大人になっていくます。
動物の世界には、青年期はありません。哺乳類はまず子どもとして親とともに生きます。そして成熟した段階で、親から離れ、その日から自分で食物を探し、敵から身を守り、そしてパートナーを見つけて出産子育ての仕事を担っていきます。
人間社会でも、かつては青年期は存在せず、子ども時代の次は大人であった。元服、髪上げの時までは子どもですが、、その後は、大人としての権利と義務が発生するのです。青年期は、人間社会の発達の中で生まれてきたと言えるでしょう。
そして、社会が高度複雑化するにつれて.青年期は伸びています。女性は現在の法律でも16歳で結婚が認められますが、現代の日本社会で16歳で結婚する女性はごく少数でしょう。
以前であれば、中学を卒業した15歳で仕事に就く人もたくさんいました。しかし現在では約98パーセントの生徒が高校へ進学しています。さらに高校卒業後に半数以上が大学短大に進学し、専門学校等を含めると全体の75パーセントが高等教育機関へ進学しています。
現代日本の18歳の中で75パーセントが、学校に所属する生徒学生であるわけです。社会が豊かになり、複雑化するほど、就職する年齢は上がっていきます。
社会が進むにつれて大人になる年齢は上がってきました。現在18歳成人の制度を持つ欧米諸国も、当初から18歳を成人としたわけではありません。
1960年代から1970年代にかけて起こった青年たちの政治への意識と活動の高まりの中から生まれてきた成人年齢引き下げなのです。
日本でもこの時代若者の政治意識は非常に高まりました。しかし、日本ではこのときに成人年齢(選挙権が与えられる年齢)の引き下げは行われませんでした。
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成人年齢引き下げを心理学的に考える2:青年期の心理的特徴
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