「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞から思う命の心理学(新潟青陵大学大学院碓井真史)
心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/心理学入門/いのちの心理学2
「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞から思う
|
ご遺体・遺骨・物は壊れ、人は死ぬ・命は誰のもの
「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞:: 命と死と人生の心理学 1
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える心理学エッセー
映画「おくりびと」は、納棺師の物語です。その納棺の様子は、まるでお茶の作法のような様式美の世界です。
***
欧米の埋葬シーンでは、もちろん参列者はみな悲しみますが、埋葬用の穴が掘られ、棺が穴に納められ、花が投げ込まれ、そうすると参列者たちが泣きながらその場を立ち去っていくような場面が見られます。
これは、日本人にはどうも理解できません。日本の埋葬、納骨であれば、最後まできちんと全員で見守ることでしょう。
***
御巣鷹山にジャンボジェットが墜落した時のことです。すさまじい勢いで墜落した飛行機、そしてご遺体。きれいな状態のご遺体もありましたが、長く身元がわからないご遺体もありました。ばらばらになってしまったご遺体や、はげしい衝撃のためにお二人のご遺体の骨が一つになってしまっているものまでありました。
ある関係者が語っていたのですが、多くの遺族が遺体がきちんとそろうことを強く願ったそうです。ご遺体の一部がなかなか見つからず、関係者もご遺族もとても苦しまれた例も少なくありませんでした。
ところが、ご遺族の中のクリスチャンの方の中には、あまりご遺体自体には強く執着されない方々もいらっしゃったそうです。魂はすでに肉体を離れ、自由になっていると信じているからかもしれません。このような発想が欧米キリスト教文化の中には、あるのかもしれません。
もちろん、どちらが良いとか悪いとかという問題ではありません。遺体に対するそれぞれの思い、それぞれの文化です。
当サイト内の関連ページ
ヒューマンンエラー、飛行機事故の心理学
***
*欧米では死期の近づいた病人のもとへ牧師(プロテスタント)や神父(カトリック)が訪れるのは、普通のことです。デス・エデュケーション(死の準備教育)が子どもにも行われたりします。
日本では病院にお坊さんが袈裟(けさ)を着て現れたら、みんなびっくりするでしょう。日本には、死をタブー視する文化があるようです。特に子どもから死を遠ざけようとする面があるかもしれません。このような日本人の死生観の中で、どのように子どもの死生観を健全に育てていくのかを考える必要があると思います。今回のアカデミー賞「おくりびと」と「つみきのいえ」は一つの良いきっかけだと思うのです。
小学生中学年ぐらいで、人は死を理解し始めますが、思春期青年期になって、さらに死に意味を深く知ることになります。そして、中高年になってようやく死を実感をもって語れるようになるのかもしれません。
私事で恐縮ですが、新潟市に在住していていて、直接の被害は受けなかったものの新潟県中越地震と中越沖地震を体験しました。その後で、母の死を体験しました。
日本は地震大国です。親の死はみんなが体験することです。しかし、なぜか人はそんなことが自分の身には起こらないような気がしています。(死の普遍性を人は理屈ではわかっていても実感しようとしないことがあるでしょう。)
地震と親の死を体験し、どんなに大きく頑丈な物もいつか壊れる、どんなに大切な人もいつかはみんな死ぬと、実感しました。
ああ、すべて物は壊れ、人は死ぬのだと。
しかし、それでも人生は素晴らしいのだと思います。「あの幸せだったころはもう戻らない」のではなく、たしかにあの幸せな時があったのです。
そして、
「変化するって自然なこと」なのです。(『葉っぱのフレディ―いのちの旅 』より)
「主は与え主は取られる。主はほむべきかな」(旧約聖書ヨブ記1章21節)
当サイト内の関連ページ
災害心理学:あなたも生き残るために、被災者のために(中越地震等)
キリスト教と心理学:科学と宗教
私が子どものころ、母の友人の子どもである小学生の女の子が脳腫瘍にかかりました。死期が近づき、大人たちも動揺していたようです。この子は、キリスト教会の日曜学校に通っていました。ある日、牧師夫妻が見舞に来たそうです。本人も死が近いことはうすうす感じていたものの、大人たちはその問題をどう扱ったらよいのか、考えあぐねている時でした。そんなとき、牧師がやさしく語ったそうです。
「○○ちゃん。天国でイエス様が待っているからね。」
その場にいあわせた母は、本当にびっくりしたと言っていました。けれども、「イエス様がまっているからね」と言われた小さな女の子は、穏やかな表情で、でも力強く、うなずいていたそうです。
「天国」といったことは、信じていない人が気休めに語っても効果がありません。時には逆効果になることさえ考えられます。しかし、信じている人にとっては、大きな力になるでしょう。
後日談です。
女の子はなくなりました。とても、とても良い子でした。すばらしい葬儀になりました。告別式が終わり、遺体は火葬場にいきました。火葬場で火葬にする時にも、実は料金によって差があります。火葬にする温度などが違うわけもありませんが、装飾などが違うようです。
女の子は、一番安い場所で火葬されることになっていました。火葬のために棺が運ばれてきて、今まさに火葬されようとしたとき、ずっとお世話してくださっていた葬儀屋さんが、
「ちょっと、待った!」 と声をかけました。
「この子を、ここで火葬にはできない。私が責任を持つから」といって、一番高い火葬場所へと女の子を運んで行ったそうです。 お仕事で行なっている葬儀屋さんが、こんなことをするなんて、ちょっと信じがたいことですが、母から聞いた話です。
後日談その2
母は72歳でなくなりました。亡くなる数日前に、クリスチャンになりました。末期のガンでしたが、一番そばで見ていた妹が、妹はクリスチャンではないのですが、信仰をもったあとの母は、前から元気でユーモアたっぷりの母でしたが、死を前にしてもう一段おだやかになったような気がすると、言っていました。
この前後の母の様子と、教会で行われた葬儀を通して、クリスチャンではない父は出棺の時、「さようなら」ではなくて「いってらっしゃい」だなと語り、「いってらっしゃい」の声で母を送り出しました。夫と子どもたちと孫たちと親戚たちの「いってらっしゃい」の見送りの声の中、母は旅立っていきました。
今、生きている実感がないと語る青年たちが増えています。若者たちの間に「死にたい気分」が蔓延しています。別に死んでもいいし、長生きしなくてもよいと語る青年たちです。
自殺者は10年前から3万人を超え、様々な努力にもかかわらず、減る気配がありません。命の輝きと命のつながりが、消えかかっています。
しかし、若者も年よりも、本当は命を輝かせたいし、命をつないでいきたいと願っています。
私は、心理学の研究テーマとして「内発的動機づけ」を扱ってきました。人は、本来なまけものではなく、知的好奇心に満ち、人々の協力しながら高い目標を成し遂げようとする存在です。結果として、発明発見や生産性の向上がるわけですが、それは結果であり、そのプロセスの中で、人は幸福感を感じるのです。
心理学的に言って、やる気のない人は存在しません。今、やる気がないように見えるのは一時的に心が弱って、やる気にベールがかぶさっているだけです。
家族が崩壊し、地域コミュニティーはなくなり、100年に一度の大不況が襲ってきていると言われています。しかしそれでも、人は愛を求めやりがいを求めているはずです。
この複雑な現代社会の中で、もう一度私たちが夢と希望を持ち、命を輝かせ、命をつないでいく方法を、皆さんと共に考えていきたいと願っています。
私は地元新潟ローカルのテレビラジオのいくつかの番組に出ていますが、その一つ、新潟県民FM(FM PORT)の番組「NIGHT i 」の中で、「愛の保健室」という人生相談オーナーを担当しています。
そこに寄せられた、男子中学生からの質問です。
Q.僕の命は僕のものなんだから、僕が僕の命をどうしようと、僕の勝手ですよね?
私は、こんなふうに答えました。
A.たとえば、私が一つの種を持っていたとしましょう。私の種です。この種をどうしようかと思っていたら、友人が「僕の家の庭に植えたらいいよ」と言ってくれたので、その人の家の庭に植えることにしました。
その話を聞いた別の友人が、「それじゃあ、私は良い肥料を持っているので、この肥料をやろう」と言って、肥料をくれました。
種は小さな芽を出し、少しずつ育っていきます。そんなある日、嵐がきました。そのとき、また別の友人が心配して見に来てくれました。彼が、嵐から植物を守ってくれました。
この他にも、いろんな人たちがかかわり、虫を取ってくれたり、水をやったりしてくれました。そうして、ついに大きくてきれいな花が咲きました。
さて、この花は誰のものでしょうか。
「私の種から育ったのだから私のものだ、だからこの花をむしり取ろうが何をしようが、私の勝手だ」
そんなふうに言えるでしょうか。いいえ、この花はもう私だけの花ではないでしょう。
私たち人間も、祖父母がいて父母がいて生まれてきました。多くの人々がかかわり、努力し、時に涙して支えてくれました。さあ、この命は僕だけのものでしょうか。
この話は、まじめに生きろというお説教のつもりはありません。
命はつながっていると感じると、命(人生)を粗末にできません。どんな花も、小さくても色は何でも、大切な大切な花です。命のつながりを感じつつ(人々の感謝しつつ)、命を輝かせる(活躍する)ことができるのです。それは、親のためや社会のためではなく、そうしていくことが幸福感を作り出していくのです。
フロイトは言っています。「健康な人とは働くことと愛することができる人だ」。それは、言葉をかえて言えば、誰かを必要とし、誰かに必要とされながら、命を輝かせて生きていることではないでしょうか。
「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞から思う 命と死と人生の心理学1へ戻る
(子どもの死生観、思春期と祖父母の死、人生の宿題・発達課題)
自殺と自殺予防の心理学
癒し:心の病と悩みのための臨床心理学入門
心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)へ戻る
アクセス数3000万の心理学定番サイト
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
『葉っぱのフレディ―いのちの旅 』(41) 私の大好きな絵本の一つ。時々学生の前で朗読します。
春に生まれた葉っぱのフレディが、自分という存在に気づき、成長し、「葉っぱに生まれてよかったな」と思い、「葉っぱの仕事」を終えて冬に土へとかえっていくまでの物語。死を怖がるフレディに親友のダニエルが答える。「変化するって自然な事なんだ…死ぬというのも 変わることの1つなのだよ」。(商品説明より)『納棺夫日記』 (文春文庫) アカデミー賞映画『おくりびと』のもとになった本(8)
"死"と向い合うことは、"生"を考えること。長年、納棺の仕事に取り組んだ筆者が育んできた詩心と哲学を澄明な文で綴る"生命の本"(出版社/著者からの内容紹介)
『定本納棺夫日記 2版 』(2)『おくりびと [DVD] 』2009年3月18日発売(予約受付中)(18)アカデミー賞受賞作品
納棺師─それは、悲しいはずのお別れを、やさしい愛情で満たしてくれるひと。 (商品説明より)『つみきのいえ [DVD] 』アカデミー賞受賞作品
〜泣けて、切なくて、優しいショートストーリー。〜ハートウォーミングアニメ。上へ上へと建て増しを続けてきた“積み木”のような家に住むおじいさんの家族との思い出の物語。『マイ・ライフ [DVD] 』
末期ガンで死の近づいた主人公が、まだ見ぬ我が子へのビデオレターを作りながら、妻とともに父親との葛藤を解決し、輝くような死を迎えます。オススメです。買うまでもないなら、
ad. 宅配DVDレンタルサービス【TSUTAYA DISCAS】
☆月額2,079円でDVD&CDが借り放題!!☆
★無料お試しキャンペーン実施中!!★
***
BOOKS:マックス・ルケード著 『たいせつなきみ 』(絵本) いのちのことば社
優れた人には金のシール、だめな人には灰色シールをくっつけあって暮らしている世界。ダメ印シールばかりだった主人公が、本当の自分の価値に気付きます。君もかけがえのない存在なのだとわかる絵本です。私はあちこちの講演会で朗読しています。
ウェブマスター碓井真史著 『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
秋葉原通り魔事件の青年は、県下一の高校出身でした。学力を高めるだけでなく、愛される親になるための方法について考えます。親を愛せることが、子どもにとっても何よりの幸せだからです。
ウェブマスター碓井真史著 『人間関係がうまくいく 図解 正しい嘘の使い』
愛の押し売りは子どもを苦しめます。理屈だけでは、子どもは納得しません。あなたのことが一番好きだと、上手に子どもに伝える方法について考えましょう。
***
ウェブマスターの本
心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)
アクセス数3000万の心理学定番サイト
心理学入門| 社会心理学(対人心理学)| 心の癒し(いやし)・臨床心理学| やる気の心理学| マインドコントロール| ニュースの心理学的解説| 自殺と自殺予防の心理学| 犯罪心理学・ 少年犯罪の心理学(非行の心理)| 宗教と科学(心理学)| プロフィール・ 講演| 心療内科| 心理学リンク| 今日の心理学(エッセイ) | 心理学掲示板|ホーム・心理学|