心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/心理学トピックス/精神鑑定の問題と難しさ
精神鑑定の問題と難しさ |
法律関係者が事件に関して法律以外の専門家の援助を求める作業を「鑑定」といい、精神医学や心理学による鑑定を、精神鑑定と呼んでいます。精神鑑定では、心理テスト、面接、脳の検査などを行います。 →詳しくは、精神鑑定とは何か(こころの散歩道)
1 作病の可能性(容疑者が精神障害者のふりをしている仮病の可能性がある)。
2 精神鑑定を行っている現在の状態ではなく、過去の、犯行時の精神状態を推測しなければならない。
3 「典型的」ではない、珍しい症例の場合も多い。
普通、病院では患者はウソをつきません。また、もちろん今の状態を診断します。そして、たとえば統合失調症の典型的なものであれば、すぐに診断が下せます。しかし、簡単には判断できないからこそ、精神鑑定になっています。ただし、数カ月にわたって専門家をだまし続けることは、実際上は難しいようです。
精神鑑定は、もちろん科学的に行われますが、しかし鑑定人の力量が問われる、いわば「アート」としての側面を持っています。それは、外科手術も、天気予報もそうでしょう。同じ学問の土台に立っていても、人によって判断や結果が変わってしまいます。
1988〜1989にかけて、埼玉、東京で4人の幼女が誘拐され殺されました。犯行後、遺骨を家族に送りつけたり、「今田勇子」の名前で犯行宣言の手紙が出された事件です
逮捕後、犯人が被害者の遺骨を食べるなど、さらに異常な行動が明らかになりました。
マスコミは、ビデオでいっぱいの犯人の部屋をうつし、「オタク」という言葉が流行ったりもしました。
この事件では3回の精神鑑定が行われたが、3つの異なる鑑定結果が出されました
精神鑑定の結果、犯行当時は善悪の判断がつかない精神異常状態だった(心神喪失)と裁判所が認めれば、無罪になります。また、その判断力が弱くなっていたことになれば(心神耗弱)、刑は軽くなります。
この事件では、3種類の精神鑑定結果が出てしまいました。
1「犯行時は精神病ではなく、人格障害だった。」
2「解離症状(多重人格)を主体とする反応性精神病だった」
3「精神分裂病だった。」
1なら責任能力があるので有罪、3なら責任能力がないので無罪、2の場合は有罪無罪の判断は難しいでしょう。。
裁判所は、1を採用し、有罪、死刑としました。
鑑定は、あくまでも裁判での参考です。筆跡鑑定人が、「この人の字だ」と証言したからと言って自動的に有罪や無罪が決まるわけではありませせん。
精神鑑定の結果で、もっとも大きいのは、要するに責任能力があったかなかったかです。この判断は、本来裁判官が行うべきものでしょう。しかし、近年の精神鑑定では、鑑定人に責任能力の有無に関する意見が求められてしまうようです。
こんなにひどい犯罪を犯したのに、精神鑑定で心神喪失状態、責任能力なしと判断されると無罪になってしまうというのでは、当然被害者は納得しないでしょう。ましてや、鑑定人によって鑑定結果が異なるとなれば、なおさらです。
被害者の物心両面での保護は、とても重要です。
ただ、「責任のない者は罰しない」というのは、刑法の大前提でもあります。
本当に責任のない人が罰せられることがないように。本当は責任があるのに不当に逃れる人がでないように。精神鑑定人も、間違えることはあります。裁判官も間違えることはあります。(後に冤罪とわかった被告人に「代償性小児性愛者」 という精神鑑定結果が出ていたこともあります。)
裁判員制度が始まった今、私たちみんなで考えていきたいと思います。
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