インターネットの普及に伴い、出会い系サイトで知り合った男女間のトラブルが急増している。
被害者の9割が女性だという。最初から犯罪目的の男性もいるだろうが、ネット上で「メル友」となり、片方だけが恋心を募らせ、実際に出会って二人の関係が破綻し、障害や殺人に発達するケースもある。
男女のトラブルは、大昔からある。男女をつなぐメディアも、手紙や電話は以前からある。しかし、ネット上ではこれまでになく急激に人間関係が親密化していく。それはなぜだろうか。
私たちは人を判断するとき、多くの情報を使用する。
肩書き、容姿、服装、表情、声の調子、身振り手振り。また言葉を解釈するときも、実際に会っているときには、言葉の内容事態よりも、それ以外の情報を使っている。
本気なのか、冗談なのか、信用できるのか。電話で話すときも、声の質や調子は大きなヒントになる。手紙でも、筆跡、便箋や封筒のセンスなど、ヒントになるものはある。
ところが、ネット上のメールには、ヒントになるものがない。画面上の無機質な文字だけである。あとは、人が想像するしかない。
そして人は、物事をあるがままに見ているのではなく、自分の見たいものを見ている。
自分を理解してくれる人、愛してくれる人、理想の恋人を捜し求めている人は、メールの向こうに自分の理想像を見てしまう。
恋愛感情でなくても、ネットで知り合った人がすばらしい人に思えることは、私も個人的に経験している。
またメールは、電話よりも手紙よりも、回数が多くなる。毎日手紙を書いたり、日に何度も電話をしたりするのは、特別な場合だけだが、メールでは珍しいことではない。恋愛心理学的に考えると、頻繁に接触を持つほど、恋愛感情は高まりやすい。
理想像を見始めている相手と、一日に何度も感情の交換を行う。二人の親密度は急激に増すだろう。
私が実際に異性に会って、交際をするためには、相手が求める容姿が必要だし、センスのいい洋服や、しゃれたデートコース、経済力なども必要だろう。
だが、メールでなら必要はない。文字だけで十分である。最初から相手をだますのも、メーでは容易だろう。
現実世界ではほとんど異性との交際経験がない人でも、メル友ならできる。しかし、実際に出会ってみて、期待はずれのこともある。ネット上でとても魅力的な人も、実際に会ってみると、想像とはずいぶん違うものである。
理想像を描いているほど、理想が崩れたときのショックは大きい。
私たちは主観的にはいつも正しく人を見て判断していると感じるわけだが、私たちの人をみる目は常に歪んでいる。特にネット上ではゆがみが大きくなるのである。(2002.3.1)
BOOKS
『インターネットの心理学 』 パトリシア ウォレス NTT出版
『インターネット広場の仲間たち―ネットワークの中の、ディープな本音の世界』 石山文彦 他 NECクリエイティブ
『オオカミなんかコワクない! (ネット恋愛安全成就マニュアル)』 いちばゆみ ソフトバンクパブリッシング
『インターネット事件簿』 高松 敏郎 NECメディアプロダク
『「出会い系」時代の恋愛社会学―ケータイ&ネットの性と「もてたい男」 (ベスト新書)』 今一生 kkベストセラーズ
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