新潟青陵大学:碓井真史-心理学総合案内こころの散歩道/ニュース/FIFAワールドカップサッカーで学ぶ心理学

FIFAワールドカップサッカーで学ぶ心理学


2002.6.18

盛り上がりましたねえ、ワールドカップ。(あ、まだ終わってないか)
日本、決勝トーナメント進出おめでとう! (トルコには残念ながら負けちゃったけど)......9年後の2011年日本女子サッカーなでしこジャパンがワールドカップで初優勝!

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ニッポン、チャチャチャ! あなたも私も(応援の心理・集団凝集性)

 普段は「日本」など意識しない人まで、ニッポン、チャチャチャ。ニッポン、ガンバレ。スタジアムで、大きなスクリーンが置かれた会場で、みんなが一緒に大応援。肩を組み、声を合わせ、サポーターたちは一つになって声援を送ります。 どうしてなのでしょう。

 人々のまとまりが良くなることを心理学では、「集団の凝集性(ぎょうしゅうせい)が高まる」と言います。

 集団の凝集性を高めるのに手っ取り早い方法が、「敵を作る」ということです。

 昔から、国民に不満がたまり、国が乱れかけると、王様は外に敵を作り、戦争をはじめました。外に悪い敵がいると思うと、中はまとまるのです。

 現代のアメリカでも、湾岸戦争のときや、同時多発テロのときは、大統領の支持率が普通では考えられないほど高まりました。

 戦争は困りますが、スポーツは「敵」「ライバル」を作るのに、良い方法です。

 国家間の摩擦の場合には、どちらが悪いのかは微妙ですが、スポーツは、簡単明白に、敵味方に分けることができます。主義主張を超えて、相手を負かすことで一致できます。

 集団凝集性が高まると、動機づけが高まり、互いが魅力的に思え、能率が上がり、一体感を感じることができます。

 最初はあまり気乗りしなかった人たちも、スタジアムの口吻をテレビ観戦し、周囲の人が少しずつ盛り上がっていく中で、自分もその高まりの中へ入っていったのでしょう。

 スタジアムや、特別な会場だけではなく、職場や学校や、家庭においてさえ、いつもよりたくさんの人が集まりました。

 人が集まり、集団になると、感情が伝染します。興奮が興奮を呼び、喜びも悔しさも倍増します。(一人でビデオを見るより、みんなで映画館で見たほうが、笑いも涙も多くなります。)

 マスメディアを通し、また自分の身近な体験も通して、私たちは、「ニッポン、チャチャチャ」の世界に入っていったのです。


「ニッポン、チャチャチャ」の副作用フーリガン・国家間の争い

 日本を応援することがもちろん悪いわけではありません(妙な国粋主義にならなければ)。けれども、グループの凝集性が高まると、その副作用が出てしまうことがあります。

 まず、グループのやる気が高まるのは良いのですが、考え方や行動に柔軟さがなくなったり、危険な考えや行動が生まれることがあります。集団になると、一人一人が「匿名」になり、無責任な行動に走ってしまうこともあります。

 フーリガンに先導されて、暴徒と化してしまう場合もあるのです。
 また、凝集性が高まると、仲間内は仲良くなるのですが、グループ同士の仲が悪くなることがあります。ワールドカップから国家紛争に発展したこともあるそうですね。
 でも、これでは何のためのスポーツかわからなくなってしまいます。もちろん、スポーツは勝利を目指してするものですが、スポーツには勝っても、国際情勢が不安定になってしまうのでは、国際スポーツの意味がありません。
 それから、凝集性が高まり、能率や成績がよくなるのは良いのですが、グループ内の弱者や失敗者を激しく責めてしまうことも怒ります。
 ワールドカップでも、オウンゴールを入れてしまった選手が帰国後に殺される事件がありました(これはギャンブルがらみでしたが)。
 日本のオリンピックでも、集団競技で失敗した選手がずいぶん辛い思いをしたこともありました。
 スポーツは勝つためにします(少なくとも勝つことをめざします)。でも、それだけではありませんよね。

トルコと日本

 トルコは、世界の中でも最も対日感情の良い国の一つです。昔、露土戦争(ロシアとトルコの戦争)でロシアに負けた後で、日露戦争で日本がロシアを負かしてくれたことを、とても喜んでくれて、それ以来現在まで、対日感情がとても良いのです。

 私もテレビを見ながら、日本を応援しましたが(学生食堂で大勢の学生たちと一緒に)、負けてことは残念ですが、トラブルが起きないで試合が終わったことをほっとしています。

 試合中は、「敵」。激しくぶつかり合います。ケガをさせることもあります。しかし、試合が終われば、同じサッカーを愛する仲間です。ユニホームを交換し、抱き合います。

 大変な労力をかけた国際的イベント。そうじゃなくちゃね。両国の絆がさらに強まりますように。


イングランドのフーリガン

 今のところ、悪名高きイングランドのフーリガン達も騒ぎを起こしていません。国外に出られなかった人も多いようです。関係者一同の努力の賜物です。
 フーリガンが騒ぎを起こさなかった理由について、イギリスの新聞は、日本がとてもフレンドリーにイングランドの選手とサポーターを迎え入れてくれたことをあげています。
 日本人の多くは、イギリスに親しみを感じています。スタジアムでも、大勢の日本人がイングランドを応援しました。街の中でも、とても温かく迎えました。
 イギリスの新聞は、「こんなにフレンドリーに迎え入れられたら騒げない」と書いていました。日本は、人にルールを守らせるのが最高に上手い国だとほめていました。
 心理学的に言って、人は人から期待(予想)されたように行動するものです。

 もちろん、準備や用心は必要でしょうが、人は犯罪者扱いされ、疑われることで、本当に犯罪者になってしまうことがあるのです。

バンザーイ!ヤッター!

 日本代表チームが勝った、勝った! ウレシー! でも、なぜ? あなたがスタッフとして関わったわけでもなく、あなたが特別ボーナスをもらえるわけでもないのに。
 それでも、うれしですよね。それは、心理学的に言うと「同一視」が起きているからです。他人のことなんだけど、まるで自分のことにように感じるのが同一視です。
 自分の高校が甲子園に出場。あなたの努力の賜物ではなくても、自分のことのようにうれしい。他人なのだけれども、「私の学校」のチームと思えることで、選手が感じるような、誇りや優越感を一緒に感じて、良い気分になれるわけです。
 子どもが学校に合格すれば、親は自分のことのようにうれしい。子どもを愛しているので、子どもを同一視して、まるで自分のことのようにうれしいのです。

 恋人同士でも同じですね。愛しているならば、相手の成功に劣等感を感じることはなく、まるで自分のことのようにうれしく感じるのです。

サッカーはなぜ盛り上がるのか

 サッカーは「世界の標準語」だとか。世界で最も多くの人が楽しんでいます。日本でも、(私含め)大勢のにわかサッカーファンができました。
 サッカーのルールは、とても簡単です。たった17条しかルールがありません。オフサイドとか、ちょっとわかりにくい部分もありますが、まあ細かいことを言わなければ、ボールをゴールを蹴りいれたら一点です。
 サッカーはとてもわかりやすいスポーツなのです。だから、すぐに試合が楽しめるわけですね。
 サッカーはとてもわかりやすいのですが、なにしろ手を使ってはいけないので、思うようにボールが転がってくれません。見ているほうはイライラします。
 観客は、グラウンドの全体が見えています。「ほら、そこがあいているぞ」「ほら、そっちにパスだ」と、グランド内の選手以上にわかります。それでますますイライラします。
イライラ、イライラ、イライラ、もっとイライラ。そしてイライラが頂点に達したころ、ついにゴーーーーール!!!。ああ、すっきり、さわやか。というわけ。

コリア・ジャパン

 朝鮮半島の人々は、歴史的文化的に言えば、日本の先生にあたるでしょう。多くの文化が中国大陸から朝鮮半島を通ってやってきました。
 2002年FIFAワールドカップは、日韓共催です。共催ではなくて、これでは「競催」だなんて言っている人もいました。上手くいかなかった部分もあるようです。でも、コリア・ジャパンとして成功しなくてはなりません。
 私の町新潟でも、ワールドカップの試合が行われました。大勢の外国からのサポーターがやってきました。街のあちこちで、とても楽しい交流が見られました。私の息子もイングランドからやってきた「小さなベッカー」(ヘアスタイルを真似してベッカーのユニホームを着た幼児)と一緒にミニサッカーを楽しみました。
 ただ外国人が大勢来たたわけではありません。どの国のサポーターたちとも、見ず知らずの外国人同士なのに、とてもフレンドリーに、にぎやかに、交流ができました。一緒に笑い、肩を組み、ちょっとしたプレゼントを交換したり(娘は国旗のシールを服に張ってもらいました)。まるで、夢をみているようでした。
 さて、2002年ワールドカップの成功は、盛り上がりでも、開催国の成績でもないと思います。コリア・ジャパン。本当に、コリアとジャパンで共催し、後の歴史家が見て、この共催ワールドカップをきっかけに日韓関係が大きく改善されたと、そう言ってもらえたとしたら、それこそが大成功と言えるのではないでしょうか。
アイ ラブ ジャパン。アイ ラブ コリア。
I love Japan. I love Korea.


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