心理学総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/ニュース/ 新型インフルエンザ(H1N1)対策のリスク心理学・健康心理学 (新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科:碓井真史)

新型インフルエンザ(H1N1)対策の
リスク心理学・健康心理学 2

ウイルスから逃げ遅れないために

2009.5.7

パニックが起きる条件・逃げ遅れる条件・正常性バイアス・リスク認知・リスクコミュニケーション・効果的メッセージ・免疫力アップの心の力

新型インフルエンザとパニック報道

マスコミの皆さんは、「パニック」が好きなようです(楽しんでいるという意味ではありませんが)。
何かが起こると、記者さんたちは上司に尻をたたかれ、「パニックが発生していないか、街中探して来い!」などと言われるそうです。(今回の新型インフルエンザ報道でもそうでしょうか)
地震が発生すれば、1週間たってスーパーが営業していても、そこにはカメラを向けず、避難所の様子を映します。余震に特別怯えている人には、記者がインタビューのために行列を作ったりします(新潟中越地震の際に実際にあった話)。
もちろん、そのおかげで、寄付金がたくさん集まったり、政府が動いたりするのですから、そのような報道が間違っているとはいいません。
しかし、実はパニックが起きる状況は限られていて、それほどいつもパニックが起きているわけではありません。

パニックが起きる条件

1緊迫した状況で危険が目前に迫っていると多くの人々が感じている。

2危険から脱出する方法があると、みんなが思っている。

3脱出する方法はあるが、自分が脱出できる保障はないとみんなが思い、強い不安を持っている。

4人びとの中で、相談や協力ができるような普通のコミュニケーションがとれなくなっている。
(映画「感染列島 ] 」であったように、ウイルス感染者が目の前で血を吹いて倒れたりすれば、パニック状態となって人々は我先に逃げ出すでしょう。)


逃げ遅れ

火災などの災害の時に、パニックが発生して犠牲者が増えることもあります。一方、もっと急いで逃げればよかったのに、逃げ遅れて犠牲者が増えることもたくさんあります。
目の前に炎があったり、建物が崩れてきたり、火山が爆発すれば、だれでもすぐに逃げようと思うでしょう。
しかし、ただ非常ベルが鳴っていたり、洪水警報が出ていたりするだけですと、危険が目に見えないために、逃げ遅れることも多いのです。
新型インフルエンザのウイルスも、目に見えません。

逃げ遅れる条件

  1. 異常発生に気づくのが遅れる。
  2. 異常発生に気づいても、切迫した危険な状況だという判断が遅れる。
  3. 逃げるのに、コストが大きい(逃げるのが大変)。

    そして
  4. 正常性バイアス

正常性バイアスと新型インフルエンザ

人は、不安な状態では何でもない情報に過剰に対応して、パニック的な行動を起こすこともあります。
一方、人は自分の心を落ち着けようとします。
危険が迫っているという情報を得ても、たぶん大丈夫だろうと思ってしまうのです。
これは、異常な事態ではない、たいしたことのない正常な範囲内だと、偏って考えてしまう人間の傾向が、正常性バイアスです。
たしかに、たいてのことはたいしことのないことです。気象の「警報」は何度となく私も体験していますが、実際に被害にあったことは一度もありません。
(ただし、同じ県内、市内に住む友人たちの中には、被害にあっている人もいます。もっと早く非難していれば、被害はもっと小さくなっていました。)
正常性バイアスが働くと、異常を示す情報にはあまり触れたくなくなります。危険を示す情報に触れてしまったときも、できるだけ安全なのだと解釈してしまいます。
(もちろん、人は心配しすぎて失敗することもありますから、大丈夫と思えることもとても大切なのですが。)
本当は、不安なのに、そして実際に危険が差し迫っているのに、大丈夫だと自分に言い聞かせて、結局被害を受けてしまうとすれば、とても残念です。
目に見えない新型インフルエンザウイルスに対しては、正常性バイアスが働きやすくなることもあるでしょう。
逃げ遅れの心理学(こころの散歩道)

新型インフルエンザ、リスクの認知(危険性のとらえ方)と情報の与え方

週刊医学界新聞 2559号で、公衆衛生対策に求められる「コミュニケーション・ストラテジー」という記事が掲載されています。
この記事によると、「人というのは自分がコントロールできないようなものに遭遇した時には,とてもリスクが大きいと感じるのですが,自分がコントロールできること,たとえば煙草をやめるとか,お酒を飲まないなど,自分自身でコントロールできることであれば,そのようなリスクには相対的に心配が小さいのです。 」とあります。
未知のものは怖いのです。
新型インフルエンザのウイルスが、まったく得体の知れないものであった時には、不安も大きく、リスク(危険性)を大きく感じるでしょう。
ところが、多少知識がつきてきたときには、リスクが少ないと感じてしまうようになるかもしれません。実際のリスクは変わらないのですが。
またこの記事では、「「肯定的」でかつ「個人的」なメッセージ」が有効だとしています。
たとえば、「○○しなかったら新型インフルエンザで死んでしまうぞ」、というメッセージよりも、「○○すれば新型インフルエンザを予防できる」、というメッセージに人は耳を傾けるわけです(リスク・コミュニケーションが伝わります)。
また、統計や客観的な科学データの話よりも、番組のコメンテーターや、コマーシャルでよく使われるように、具体的な家族や個人の話としてメッセージを伝えた方が、感染症予防にも効果的だと述べています。

コスト:健康心理学、災害心理学から考える新型インフルエンザ

逃げたり、対策をとったりすることにコスト(時間やお金など)がかかると、人は何もしないで今まのままでいようとします。
タイタニック号が沈没する時、まだ危険が目にめない時には、明るく温かな豪華客船から離れて暗い寒い海の中へ小さなボートで出ていくことは、大変なコストですから、人々は救命ボートに乗りたがりませんでした。
(ところが、危険が目前に迫り、ボートの数が足らないとわかると、今度はパニックが起きたわけです。)
洪水警報が出ているからと言って、大雨の夜に避難所まで行くのは、コストが高い行動です。特に赤ん坊を連れていたり、高齢者にとっては、コストが高くなります。
だから、災害時には、災害弱者が逃げ遅れやすくなるのです。
***
健康心理学の研究によれば、病気を防ぐための保険行動をとることができるためにも、本人の性格などだけではなく、「コスト」が重要だとされています。
健康診断に多額の費用がかかり、会社を有給をとって休まなければならないとしたら、みなさん必要性はわかっていても健康診断を受けたがらないでしょう。
経済的コスト、時間的コスト、心理的コストなどを下げる必要があるわけです。
マスクは高いし、遠くに買いに行くのはめんどうだし、マスクをするのは恥ずかしいと思ってしまえば、人はマスクをしません。
新型インフルエンザに対する予防に関しても、コストが低ければ、動機が小さなうちから、正しい行動をとることができます。

免疫力を高める心の力:新型インフルエンザと戦うために

とてもがっかりした時、何か大きな仕事が終わりほっとした時、熱を出して寝込んだ経験はありませんか。
人は、精神的に充実していると、免疫力が高まり、病原菌を跳ね返す力が強くなるのです。インフルエンザも発病しにくくなります。
逆に落ち込んだ時や、心の力が抜けた時には、免疫力が下がることがわかっています。インフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるのです。
ずいぶん苦労して、無理をして、それでも良い結果が得られなかった時など、肉体的な疲労に加えて、精神的な疲労によっても免疫力が下がり、風邪やインフルエンザが発病しやすくなると言えるでしょう。
実際の免疫力を高めるためにも、情報を正しく解釈してパニックにも逃げ遅れにもならず、新型ウイルスと闘っていくためにも、ぜひみんなで協力し合いながら、心の健康を保ちましょう。
***
・・・今回の新型インフルエンザは、世界では100人を超す死者が出てはいるものの、日本では大きな被害が出ずに終わるのでしょうか。
 しかし、半年後には冬が来ます。鳥インフルエンザの問題は今も変わらず大きな問題です。
日本政府は、「新型インフルエンザ対策行動計画」を昨年10月に改定強化しています。
厚生労働省は伝染性と毒性の強い「新型インフルエンザ」が日本で発生した場合、3200万人が感染、64万人が死亡するという推計を出しています。

アメリカでは、鳥インフルエンザなど毒性の強い感染症の国内パンデミック(感染爆発)が確認された場合、大学を含むすべての教育機関を3カ月間、閉鎖することが決まっています。
未知のウイルスを前にして、パニックも困りますが、こんなものかとの油断も困ります。
私たちが安全に生きていけるのは、多くの人々の懸命な努力の結果なのですから。
 

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