心理学総合案内こころの散歩道」/自殺の心理/どうして


どうして生きることを勧めるのですか
(メールに答えて)


2003.6.6(6.9改)

ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
自殺といのちについて考える全てのひとのために

 ある日、当サイトの掲示板に、「江藤淳さん自殺:形骸を断ずる」に関するページへの意見が投稿されました。その方は、うつで苦しみ、様々な悩みを抱え、大変辛い状況にあり、そのページを見て、かえって死にたくなってしまったという内容でした。
 正直申し上げて、私にとっても苦しい内容の投稿でした。
 その後、その方から、個人的にメールをいただきました。「形骸を断ずる」のページを見たときの苦しさは変わらない、死にたい思いも変わらない、でも、管理者の碓井に聞いてみたいことがあるというのです。
どうして、(自殺を止めようとし)生きることを勧めるのですか。
 下記の文章は、その方との交換したメールの内容です。当初は、このページに私からの返信だけを載せ、さらに一部を伏字にしていたですが、ご本人のご好意により、メールの全文を掲載するご許可をいただきました。優しく、勇気あるお申し出に、深く感謝いたします。(ただし、本名と愛称の部分は伏字です。またホームページに掲載にあたり、一部を太い文字にしました。)

 どうぞこのページが、苦しんでいる方々にとって、少しでも良いからお役に立ちますように。
6.9
***
いただいたメール
Subject:
HP見ました。ゆうです。
Date:
Tue, 27 May 2003 03:59:18 +0900
From:
○○@○○.ne.jp>
To:
碓井 真史 <usui@n-seiryo.ac.jp>


前略

碓井先生の番組を見逃してしまいました。見ていたら少しは生きる希望も
沸いてきたのかもしれません。

以前、「形骸を断ずる」の文章表現について抗議したゆうです。
変えてくださらないんですね。
今も手元にありますが、死への思いが強い人間にとっては、読むたびに
のどに物が詰まったように息苦しく感じます。

生きたいのが本心です。
けれども生きるエネルギーがもう足りなくなってきました。
人への思いやる気力もなくなってきました。

命を大切にしたい。
生きていきたい。
でも限界はあります。

そんな時はどうやって生きる気力を取り戻すのですか?

私は自分の勉強、それに続く夢などよりも、確固とした愛情をこの世で
感じたかったのですが、親からは虐待され、夫の愛情も信じられず、
抗うつ薬やもろもろの薬でごまかしてきた日常が崩れ始めています。

あるMLで二人の自殺者がでました。
メール上で名や文章を目にしたくらいの人たちですが、立て続けに
人の死を知らされると、希死念慮の強い私はふらふらとしてしまいます。

私が死ねば同じように夫を初めとした周りの人は傷つくでしょう。
けれどももう思いやりの気持ちを持つエネルギーも絶えました。

自殺を希望する人へ先生の掲示板で生きる価値もあるなどといった事を
書いたこともありますが、それも結局は死にたい自分を押しとどめたい
からで、自分勝手な書き込みでした。

しばらくは生きていると思います。
日々衰弱していますが、メールを打てるうちに碓井先生に一度
どうして生きることを勧めるのか聞いておきたかったのでメールを書きました。
突然のメールですいませんでした。
                                    早々

  碓井真史様
                                      
ゆう

***

碓井からの返信

Subject:
Re: HP見ました。ゆうです。ありがとう
Date:
Tue, 27 May 2003 18:56:23 +0900
From:
USUI Mafumi <usui@n-seiryo.ac.jp>
To: ○○@○○.ne.jp>


ゆう 様

とても丁寧で、誠実なメールを
どうもありがとうございます。

ホームページの方は、多忙のために
他のページも含めて、なかなか更新ができない状態です。

形骸を断ずるのページも、現在熟考ですが、
できるだけ早く手を加えたいと思っています。

すいませんが、もう少しお持ちください。
私の考え自体は、変わりませんけれども、
表現は一部手直ししたいと思っています。

> 生きたいのが本心です。

そうですよね。

> けれども生きるエネルギーがもう足りなくなってきました。
> 人への思いやる気力もなくなってきました。

はい。
でも、いただいたこのメールは、
私にはとても思いやりのあるメールに感じられました。

> 命を大切にしたい。
> 生きていきたい。

そうですよね。

> でも限界はあります。
>
> そんな時はどうやって生きる気力を取り戻すのですか?

生きる気力がなくなることって、あると思います。

悩みや、挫折のために、あるいは、うつのために。
いろんな理由で、エネルギーがなくなることって、
あると思います。

そんなときに、やたらと元気なだけの励ましや説教を受けたとしても、
あまり効果がないどころか、かえって苦しくなることでしょう。

そうして、日本でも毎年、何十万人、何百万人の人が、
自殺を本気で考えます。

しかし、それでも、そのうちの多くの人々が、何とか、
実行することを免れて生きています。

一番苦しいときを、なんとか、ごまかしでも、小さな理由でもいいから、
とにかく、通り過ぎることができれば、そのあとに、
不思議なことに、生きる気力が、生きるエネルギーが、自然に復活してくるので
す。

自殺未遂者が、毎年30万人いますけれども、
そのうちの多くが、後に、自殺を考えなくなり、
寿命をまっとうするまで生きています。

自殺を止められた人は、そのときは、死にたかったと思っても、
後になれば、あのとき死ななくて良かったと思っています。

死ぬことはいつでもできますが、死んでしまったら、
取り返しがつきません。やり直しができません。

だから私は、死を考えている人たちに、
結論を早く出さないでと、訴えているのです。

何とか、今日、生きていこう。
明日の朝を迎えようと。

うつの問題も、感情には波があるもので、
今は落ち込んでいても、いつか必ず、また心地よい感情がやってきます。

うつの時には、死ぬしかないと思っていた人が、
あとになれば、
あのときの自分は、なんて恐ろしいことを考えていたのだろう、
あのとき、死なないで良かったと、語っています。

うつの時には、退職や、離婚や、退学などという
人生の重大事を決定するには、状態がふさわしくありません。

重大な決定は、うつが回復してから、
ゆっくり冷静に考えても遅くありません。
こういうことは後になってからでもできるからです。

自分の生き死にに関することなどは、なおさら、もちろんのことです。

70、80まで生きることは、なかなか想像しにくいかもしれませんが、
ともかく、今日、生きていくことを考えて欲しい、というのが、
私の願いです。

> 〜、確固とした愛情をこの世で
> 感じたかったのですが、親からは虐待され、夫の愛情も信じられず、

親の愛を実感できず、ましてや虐待されてきたのは、
本当に、どれほど辛いことでしょう。

その結果、心に深い傷を負ったとしても、当然です。
生きるのが苦しくなったとしても、当然です。

そして、

うつをはじめ、
心身の調子が悪いときこそ、苦しいときこそ、
夫の愛、家族の支えが必要なのに、
それを信じることができないのは、どんなに辛いことでしょう。

たぶん、私の想像を越えた苦しみだと思います。

うつの苦しみと重なれば、それはもう、たいへんな辛さだと思います。

けれども、

私は、癒されない心の傷はないと、信じています。
もしも仮に夫に愛されなかったとしても、
それでも人は幸せいなれると、信じています。

時間がかかるとしても、きっとそうなると、信じています。

うつも、これは医学的心理学的にみてもそうですが、
きっと回復します。
また、生きる意欲が回復します。

今は、苦しくて、生きる意欲がないとしてもです。
今は、苦しくて、休みたいと感じていてもです。

休みたいという思いは、心身からのサインです。
良くなるために、今は休息が必要だと、心と体が教えてくれているのです。

休息は大切です。

ゆっくりと休んでください。
自分をいたわってください。

どうぞ、ゆっくりと、リラックスして、
心と身体を休めてください。

> 自殺を希望する人へ先生の掲示板で生きる価値もあるなどといった事を
> 書いたこともありますが、それも結局は死にたい自分を押しとどめたい
> からで、自分勝手な書き込みでした。

すてきな書き込みだと思いました。自分勝手などではないと思いました。
多くの方々が、他の人に語りかける形をとって、自分自身に語っているのだと思
います。

自分自身を慰め、自分自身にエールを送っているのです。
私にもそういう部分があります。

> しばらくは生きていると思います。

「しばらくは、」その思いが大切だと思います。
そう思えるゆうさんはすばらしいと思います。

今日は生きていこう。明日は生きていこう。そして、あさっても。

> 日々衰弱していますが、

調子には波がありますから、だんだん下がるときもあれば、
だんだん上がるときもあると思います。

>メールを打てるうちに碓井先生に一度

どこにでも、だれにでも、自分の気持ちを話すことは、とても大切だと思いま
す。
苦しい中メールを下さり、ありがとうございました。

> どうして生きることを勧めるのか聞いておきたかったのでメールを書きました。

心理学的に考えれば、死にたいという人は、ゆうさんがおっしゃっているとおり
に、心の底では生きたいと考えているからです。

心の底の思いにこそ、従えるようにと、願っているからです。

心理学や医学的に見れば、
自殺志願者も、みんな、あとになれば死ななくて良かったと思うからです。

医学的に見れば、
うつ状態のときの思いは、その後になってみれば、自分でも普通ではなかったと
感じるからです。

もっと私の個人的なことを言わせてもらえれば、
あなたが死んでしまったりしたら、私は悲しい。

私の個人的信条を言わせてもらえれば、
神様があなたを愛しているからです。

あなたは幸せになるために生まれ、
今は苦しくても、きっとすばらしい人生が待っていると、
私は信じているからです。

今現在のゆうさんの状態がわかりかねるのですが、
多くのうつの人が言っています。

うつ状態のときには、誰のどんな言葉も耳に入らなかった。

どんな話を聞いたり、文章を読んでも、
肯定的な部分は心に届かず、否定的な部分ばかりが心に突き刺さったと。

私の文章は稚拙なものですけれども、
でも、もしも、今うつの状態であるとしたら、
また少し状態が変化したときに、もういちど読んでいただけたらと思います。

感情には波があります。落ち込んでいても、また必ず上向きになります。
そのときまで、ぜひ生きていてください。
そのあいだ、どうぞ、どこにでもいいですから、思いを語ってください。

ゆうさんの心身の状態や、心の思いを、ぜひ医師にもそのまま話して下さい。
医師も、話してもらえないと、状態がつかめません。

あなたの話を聞いてくれる人、助けてくれる人が、きっといるはずです。

ゆうさんの癒しと、幸せを、信じ、祈っています。
ゆっくり休息がとれるように、祈っています。

こころの散歩道
碓井真史
(著者注:今にして思うと、もっと冷静に書いても良かったかとも思います。文章も長すぎるかもしれません。でも、メールを拝見し、心揺り動かされ、その時の気持ちで書いたものです。その時にしか書けなかった文章かもしれません。)
***
***
再返信
Subject:
ゆうです。ありがとうございました。
Date:
Thu, 29 May 2003 10:23:47 +0900
From:
○○@○○.ne.jp>>
To:
"USUI Mafumi" <usui@n-seiryo.ac.jp>


碓井真史先生

ご多忙の中、暖かい言葉あふれた心からのメールを下さって
ありがとうございました。

昨夜拝読し、この世に生きていこう、そう思いました。

> 私の個人的信条を言わせてもらえれば、
> 神様があなたを愛しているからです。

この力強い言葉、勇気が出ました。
私は特別な神を信仰しているわけではありませんが、
私たち人間の力を超えた「神」が見ているような気がします。

五月の連休にもうつ夫婦の私たちを見ているかのような事が
神社に参拝した際あり、不思議に思っていました。
けれどもそれは確信に変わりつつあります。
私は、そして主人も、生きていけば必ず光が見えてくる、
そう思います。

インターネットはその害をよく問われていますが、私はむしろ
逆で、このように先生との出会いにより命を再びいただく人が
たくさんいるのだろうと思います。
要は情報をどうやって選び取ってゆくか、情報を選び抜く力を、
思考力を身につけるべきだと思いました。

先生の朝日新聞に掲載された発言、読みましたよ。
「あ、碓井先生だ」と朝から嬉しく、その内容にもうなずきました。
ネット=悪、そう捉える前に、ネットについてもっと深く皆に
考えて欲しいものです。

私は火曜日の夜まで本気で死ぬ気でした。
けれどもその夜、たまたま遠方に(北海道)に住む友人から
電話があり、「弱っていても○○(小さい頃からの愛称です)は
○○だよ。声を聞けてよかった。自殺だけはしないでよ」と
言われ、ありのままの私を受け入れてくれる人がいる有難さ、
それに泣けて嬉しくて、その日は死を忘れるようにして床に
就きました。

そしてその翌日に、碓井先生のメールを読み、
生きる力が段々と強く、よみがえって来ました。

自分の勉強も出来ず、未来にあるはずの夢も見えませんでした。
けれどもいまは、少しずつでもいいからうつと付き合う気持ちで
足元にあることをしっかり見つめてゆきたいです。

ちょうど、大学に(通信制ですが)復学したところで、哲学専攻
なのですが、進みようによっては心理学の方面に進むかも
しれません。もともとの専攻は国文学でその際、心理学や
現代哲学を学んでいたので、どちらにも興味があり、ともに
学びたいと思っているのです。

碓井先生の御著書も読んでみたいと思っています。


またこころの散歩道にお邪魔させていただきます。m(。-_-。)m
こころが躓いたときは碓井先生のメールを読み返し、掲示板にも
書き込ませていただき、生きていきますね。
いのちを、ありがとうございました。

ゆう(○○○○) (*^ー^*)

***


朝日新聞2003.5.26朝刊

「ネットは本音が出やすい場所。今は自殺の呼びかけなどに悪用されているが、逆に本音を聞くことで自殺防止にもなる。ネット上の相談で自殺を思いとどまった人もいる。ただ、ネット上の自殺予防のサポート体制は立ち遅れており、社会全体でそうしたサイトを育てていかなくてはならない」

碓井真史のツイッター 碓井真史のフェイスブック

東京いのちの電話  (03)3264-4343
NPO 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター (06)6251−4343
***
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もうだめだ!(絶望からの癒し)
今のあなたの力で:インナーチャイルド(傷ついた子ども時代からの癒し)


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ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
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