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大阪池田小学児童殺傷事件の犯罪心理

死刑判決(大阪地裁)

判決を聞いて・宅間守の人生


2003.9.2

死刑判決

 2003.8.28、大阪地方裁判所の判決が下りました。「主文、被告人を死刑に処す。」

 彼に責任能力があり、有罪ならば、現在の法律では死刑しか考えられません。判決では「我が国の犯罪史上例をみない常軌を逸した極めて異常な犯行」と断罪しました。
 これが、日本の刑法ができる最高刑です。これが、日本の刑法の限界です。

 子どもと同じように苦しませてほしいと願うお親もいるようです。しかし、その願いはかなえられません。日本国憲法は、残酷な刑罰を禁じているからです。

 死刑が確定すれば、彼は閉じ込められますが、3食が与えられ、健康が管理され、処刑の日を待ちます。そしてできるだけ苦しまないように、刑は執行されます。
 弁護士もずいぶん努力したようですが、最後まで、本人からの謝罪はありませんでした。
 よく少年法は少年を甘やかしているなどと言われますが、実は加害者を反省させるためには少年法に基づく処遇の方が優れていると、私は思います。

 本来ならば、彼が自分のしたことをきちんと認め、命の大切さを知り、悔恨の涙を流しながらご遺族にお詫びすることが、必要なのではないでしょうか。
 事件で亡くなった被害者8人の子どもの親は、判決後に「判決を迎えた『8人の天使たち』の親の想い」というコメントを出しています。

 ご両親のみなさんは次のように述べています。

 「死刑判決は、犯した罪の残虐さから至極当然のことと受け止めており、死刑をもってしても私たちには不十分であると言わざるを得ません。亡くなった子どもたちは戻ってきません。宅間被告は判決を真摯に受け止め、死の恐怖を感じ、罪の大きさを自覚してほしい。被害者全員に対する謝罪の気持ちをもってほしい。」

宅間守の心の病

 大阪地裁は、弁護側が主張するような、精神病による心身喪失、心神耗弱状態にはなかったと結論づけました。

 ただし、かれがかなりの人格障害者であることは認めました。彼は、情勢が欠如し(良心や心の痛みを感じず)、妄想性人格障害者です。
 妄想性人格障害者は、何の根拠もないのに、自分が意地悪をされているとか、妻が浮気をしているといった妄想的な思いを持ちます。人を信じることができず、ささいなことでも過剰に反応してしまいます。

 彼らは、他人が自分を利用したり、危害を加えたり、だましているなどと疑いを持ち、友人の親切、誠実さを疑い、侮辱されたり、傷つけられたり、軽蔑)されたことを恨み続けます。

 まさに、宅間被告の人生を言い表しているようです。
 人格障害は、ことの善悪がわからなくなるわけではありません。自分が違法なことをしているという自覚はあります。ですから、法的に言えば、責任能力があり、違法なことをすれば、罰せられます。

 でも、心理学や精神医学的に見れば、やはり治療が必要な心の病ではあるのですが。
当サイト内の関連ページ:妄想性人格障害(大阪小学児童殺傷)

宅間守の人生

 こんな男ですから、トラブル続きです。幼いころからおかしな子でした。三輪車で車道の真中を走り、車を止めてしまい、渋滞を起こしてしまったこともあります。こんな息子に対して、父親は激しい体罰で臨みます。

 小学校時代には、じっとしていることが苦手で、同級生へのいじめ、動物虐待がはじまります。学校卒業後は、公務員にもなりますが、退職することになります。

 事件の直接のきっかけは、3人目の妻に対する恨みが社会への恨みになったようです。この女性は、宅間からのドメスティックバイオレンスにさらされ、離婚後も嫌がらせを受け続けていました。

 追い詰められた彼は、ながらく連絡をとっていなかった父親に助けを求めますが冷たくされ、とうとう長年創造してきた「大量殺人」を実行にうつしました。
 判決では、被告は「極端に独善的で自分の非を認めることができず、およそ理解できない論理で責任を転化し、八つ当たり的に他者を攻撃する」人間だとしています。
 これだけの人間です。人に嫌われて当然です。

当サイト内の関連ページ:連続殺人と大量殺人、通り魔事件 の犯罪心理


宅間守の心 そして犯罪予防

 宅間被告は、判決の日、もっと何かをいいたかったようです。それは遺族を苦しめ、社会を攻撃する言葉だったようです。本当にひどい話です。
 彼はおそらく、まだ足らないのでしょう。まだ社会に十分な復讐を成し遂げたとは思えていないのでしょう。
 さて、これだけの加害者です。安易に同情することも弁護することもできません。
 しかし同時に、彼も苦しんでいたのは事実でしょう。
 彼は「自分と同じ苦しみを他人にも味あわせてやろう」と思っていました。(もちろんそれは歪んだ心の結果ですが)

 裁判官は言います。彼は「自己中心的で他人の痛みを顧みない著しく偏った人格」。
 彼のこの性格と妄想性人格障害。人間関係が上手くいかないのは当然です。孤独になっていくのは当然です。
 でも彼の人生のどこかで、誰かが、彼の孤独を癒すことができていたならば、この残虐な事件は起きてはいなかったでしょう。
 孤独と絶望に押しつぶされた人々の犯行を止めるためには、刑罰だけではあまりにも力が足りません。
 彼の性格はそう簡単には変わらなかったでしょう。それでも、誰かの心が、少しでも彼に届いていたならば、この事件は起きなかったと思うのです。
どうぞ、ご遺族の心が癒されますように。
どうか、宅間被告が死刑の日までに少しでも謝罪の心がでますように。
 

ウェブマスター碓井が出演:NHKテレビ視点論点 「犯罪心理学・心の闇」
碓井真史著『ふつうの 家庭から生まれる 犯罪者』主婦の友社



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