新潟青陵大学大学院(碓井真史) /心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座) /犯罪心理学/取手駅通り魔事件:茨城・取手市無差別刺傷事件




犯罪心理学:心の闇と光

茨城・取手市無差別刺傷事件の犯罪心理学 2

「殺すつもりはなかった」

2010.12.17(20:00)


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ウェブマスターの本
あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
いのちについて考える全てのひとのために
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
  秋葉原通り魔事件、八王子通り魔事件などから考える現代の問題

取手駅通り魔事件(取手市無差別殺傷事件)の犯罪心理学 「自分の人生を終わりにしたかった」 :第一報を聞いて
事件の概要・通り魔大量殺人の心理・拡大自殺・通り魔事件の犯人像・なぜ朝のバスか・被害者の心身の傷・犯罪を防ぐ社会



取手市無差別殺傷事件 容疑者男性 殺す気はなかった?

逮捕された容疑者は、住所不定、無職の27歳男性でした。取り調べによると、「殺す気はなかった」と殺意を否定しています。
この供述が本当だとして、彼がもっと柔軟性のある人物あったり、もっとワルだったら、包丁のような刃物は使わなかったことでしょう。
イライラしている人はたくさんいます。社会に腹を立てている人はたくさんいます。元気そうな人を見て不機嫌になる人もたくさんいます。(報道によれば、近所の人は「おとなしくていい子」だったと語っています。
ストレスがたまっている人はたくさんいますが、でも、たいていは仲間内で愚痴を話すか、街の人にすごんで見せたり、店の看板をけっ飛ばすなどして、ストレスを発散します。
彼は殺意はなかったと語っていますが、誰かが死んでもおかしくない状況でした。器用な人、計算できる人は、殺意がないのに、殺してしまうかもしれないような行動はとりません。
殺意がないのに、こんな事件を起こしてしまったのは、彼がプロの犯罪者でもないし、計算高い人物でもなかったからでしょう。
犯罪のプロではなく素人が、しばしば不用意に刃物を振り回し、大きな事件を起こしてしまうことがあります。

取手市無差別殺傷事件 容疑者男性 数日前に家を出て路上生活

現在のところ、詳しい事情はわかりません。ただ、以前からのホームレスではありませんでした。路上生活にも慣れてくれば、それなりの生活ができていたかもしれません。どこに行けば寒くないか、どこに行けば食べ物があるかが、わかったことでしょう。
しかし、彼は路上生活を始めたばかりでした。寒くて空腹だったでしょうか。とても心細かったでしょうか。寒空で良く眠れず、睡眠不足状態だったでしょうか。
彼の追い詰められた心は、この数日の路上生活で完全に壊れてしまったのでしょうか。
路上生活にまでなってしまった自分の人生を、もう終わりにしたいと思ったのでしょうか。

若者たちの絶望感と現代社会の閉塞感と新宿西口バス放火事件

前のページ(取手市無差別殺傷事件の犯罪心理学 :第一報を聞いて:「自分の人生を終わりにしたかった」:)でも述べたように、無差別事件は絶望感からう安れる犯罪です。そして、駅前のバスでの無差別事件というと、1980年に発生した新宿西口バス放火事件 を思い出します。6人が死亡する大きな事件でした。犯人の男は当時38歳でした。
彼は5人兄弟の末っ子として生まれ、家庭環境に恵まれず、学校にもまともに行っていませんでした。事件当日、屋外で酒を飲んでいるところを邪魔者扱いされ、カッとなって事件に及んだとされています(彼が「強者」であったなら、文句を言った人に直接攻撃したでしょうが)。
今回の事件の容疑者、27歳の男性のことに関しては、「住所不定・無職」以外の情報がまだ報道されていません。
ただ、人生が何もかもうまくいかなくなった中高年というわけではないでしょう。彼はまだ20代で、いくらでも人生をやり直せると、世間の人々は思うことでしょう。
しかし、その20代の容疑者男性は、「自分の人生を終わりにしたかった」と語っています。
秋葉原通り魔事件(秋葉原無差別殺傷事件)の犯人も、25歳でした。
この極めて豊かで安定した現代日本社会の中で、人生の早い児童期思春期の段階で人生に見切りをつけてしまう青少年が増えています。まだ子どもなのに、まだ若者なのに、「どうせこんな自分なんか」と語り、自暴自棄的生活を送ってしまいます。
私たちは、日本の子どもに全てを与えてきました。けれどもただ一つ、一番大切な「希望」を与えていないのかもしれません。

犯罪を防ぐ私たちの力

前のページ(取手市無差別殺傷事件の犯罪心理学 :第一報を聞いて:「自分の人生を終わりにしたかった」:)で述べたように、仲間や仕事、やりがいや生きがいが犯罪を防ぎます。これは、犯罪心理学では「社会的きずな:ソーシャルボンド」と呼んでいます。
これは失うのはとても惜しいと感じるような何か、その人を社会につなぎとめておく何かです。
恐ろしい事件が起きた後、ネット上ではしばしば「気持ちはわかる」といった書き込みが行われます。それは、犯罪予備軍がいると言うことです。こんな社会では困ります。
でも味方を変えれば、彼がどこかで自分の怒りや悲しみを語っていれば、共感してくれる人はいたということではないでしょうか。
私たちの人生は、なかなか上手くいかないのが普通です。様々な心の問題も抱えます。でも、心の問題を犯罪の様な行動にあらわすのではなく、心の問題を言葉にしてあらわして、互いに受け入れあうことができる社会が、無差別犯罪を防ぐ社会なのかもしれません。
加害者には、制裁を加える必要があます。簡単に同情などできません。しかし、
「人生を終わりにしたかった」と語り無差別犯罪を起こした犯人に、「死にたければ一人で死ね!」とみんながののしる社会ではなく、あなたが悪いことなどしたらとても悲しい、あなたが死んだら私は悲しいと誰かが言ってくれる社会こそが、犯罪を防ぐ社会なのかもしれません。
バージニア工科大学銃乱射事件(2007年発生、33名死亡)の犯人は、疎外感を強く持った韓国人男性でした。事件の後、大学内の韓国人クリスチャンサークルのリーダーが、とても残念がっていました。彼と事件前に知り合っていたら、何か話ができたのにと。そうすれば、事件は防げたかもしれないのにと。
<事件の詳細が判明した後に、さらにページをアップします。>
(2010.12.17 20:00)
12月だからこその補足:通り魔事件の犯人たちにも、子ども時代にサンタが来ていれば:子どもがサンタクロースを大好きな理由:心理学から見た子育て最大のコツ
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ウェブマスターの本

誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
  愛される親になるための処方箋 ・親からの愛を実感できなかった青年の行き着いた先
人間関係が上手くいく嘘の正しい使い方ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』(アマゾン)
  上手な愛の伝え方 ・追い詰めない叱り方

ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
自殺といのちについて考える全てのひとのために

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「心理学総合案内・こころの散歩道」から5冊の本ができました。
2008年9月緊急発行
碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか

2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者

2000年

なぜ少女は逃げなかったのか続出する特異事件の心理学
「誰でもいいから殺したかった青年は、誰でもいいから愛してほしかったのかもしれない。」
☆愛される親になるための処方箋  本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等)
bk1書評「本書は,犯罪に走った子ども達の内面に迫り,心理学的観点で綴っていること,しかも冷静に分析している点で異色であり,注目に値する。」  本書について 「あなたは、子どもを体当たりで愛していますか?力いっぱい、抱きしめていますか?」 本書について 「少女は逃げなかったのではなく、逃げられなかった。それでも少女は勇気と希望を失わなかった。」 本書について

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