心の散歩道(心理学総合案内/三浦綾子から学ぶ罪と赦しの心理学
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1999.10.12〜10.29
1999年10月12日午後5時39分、作家三浦綾子さんが死去されました。「罪と神による許し」が、三浦文学をつらぬくテーマでした。
彼女の信仰に従えば、死は寂しいことかもしれませんが、決して終わりではなく、敗北でもなく、永眠ですらありません。
彼女の信仰上の国籍は、地上の国家にあるのではなく、天にあります。三浦綾子さんは、人生を走り抜き、勝利し、天国に凱旋(がいせん)したと言えるでしょう。
私は、三浦綾子の作品について文学的に語る力などは全くありませんけれども、彼女が教えてくれた「罪と許し」について、一人の心理学者として、みなさんとご一緒に考えていきたいと思っています。
読売新聞が数年前に行った調査によりますと、三浦綾子は「日本人の好きな作家」の第7位にランクインしています。
(ちなみに、ベストテンは以下の通り。1位:赤川次郎、2位:西村京太郎、3位:司馬遼太郎、4位: 松本清張、5位:大江健三郎、6位:川端康成、7位: 三浦綾子、8位:吉川英治、9位:シドニー・シェルダン、10位:渡辺淳一)
作品の文学的価値は、ここでは語らないとして。
もう何年も前のことですが、「クリスチャン・ペンクラブ」所属のあるキリスト教の牧師が、「三浦綾子さんの後継者がなかなか出ないなあ」と語っていました。
私は、優れた作家が出ないという意味なのかと思ったのですが、その牧師は、むしろ彼女の信仰のことを語っていたようです。
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以前、NHKの番組で、三浦綾子さん自身の言葉と、彼女の生活ぶりについての紹介をしていました。
三浦綾子さんは、病気の展覧会みたいな人で、若いころから、次々といろいろな病気にかかっています。番組を録画したときも、体調がよいとは思えませんでした。
その苦しい中で、彼女は、夫の協力を得ながら口述筆記で作品を作っている最中でした。彼女の作家としてのエネルギーに驚きました。しかし、彼女の創作意欲は、ギラギラと燃え盛るような激しいものではないと、そのとき、感じました。
たしかに、とても意欲的なのですが、名誉や金銭欲から離れた「静かなやる気」の様な気がしました。
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別の場所で聞いた話ですが、三浦綾子が作家としてデビューしたてのころ、
「あまりキリスト教色を出しすぎると、作家として大成できない」
と忠告されたことがあるそうです。けれど、もちろん彼女は、自分の信じる作品を書き続けたわけです。***
テレビ番組で、三浦綾子は自分の病気についても語っていました。
「こんなに多くの病気にかかって、神様は自分をえこひいきしているのではないかと思います。」
え? えこひいき? あれ? 何か聞きまちがえたかな? それとも三浦綾子の言い間違いかな?
いいえ、言い間違いでも、聞き間違いでもありませんでした。
彼女が言うには、「私は、病気を一つするたびに、一つずつ新しいことを学んだ。すばらしい恵みを受けた」だから、神様は、自分をえこひいきして、病気を通して特別に神の恵みを与えているのではないかというのです。
病気になっても頑張りますという人はいるけれど、これはすごい信仰だと驚きました。それは、狂信でしょうか。思い込みでしょうか。彼女は愚かなのでしょうか。
そうではなく、私には、静かでとても力強い信仰に思えました。
信仰や宗教についての考えは、いろいろあるでしょう。しかし、三浦綾子にこの信仰が無ければ三浦文学は存在しなかったことは確かです。そして、三浦綾子が一つも大病をしなかったら、たぶん彼女は別の道を歩んでいたことでしょう。
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彼女の病気は、彼女の肉体を弱めましたが、彼女の精神をむしばむことはできませんでした。むしろ、その病気は、彼女の心を大きく強く育てていったのです。
(だから、大病を患っている人もみんな頑張れなんて、軽々しく言うつもりはありません。病気が治るように努力することももちろん大切です。ただ、病気をはじめ人生の様々な出来事をどのように解釈できるかによって、私たちの人生は大きく変わっていくことでしょう。)
まずは、第一報を聞いての感想まで。
三浦綾子の好きな言葉
時事通信によると、三浦綾子は色紙を頼まれると、よく次のような聖書の言葉を書いたそうです。
「世の光 地の塩」
光も塩も、どちらも周りに良い影響を与える大切なものの例えです。
「神は愛なり」
神は愛情深い存在だというよりも、神の本質は愛だということでしょう。
「愛は忍ぶ」
私たち人間が愛を持つことができるならば、耐え忍ぶこともできます。
「受くるよりは与うる幸いなり」
お金も欲しいし、新しいパソコンも欲しい。物の世界では、もらうほど豊かになります。でも、心の世界は違います。与える人ほど、心豊かになっていくのです。
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リンク
日本イエス・キリスト教団 函館中央教会 / 三浦綾子さんのコーナー