心理学総合案内「こころの散歩道」/災害心理学/新潟県中越地震被災者のために/新潟中越地震から1年(新潟青陵大学・碓井真史)
心のケア・ボランティア・マスコミ・絶望と希望
2005.10.23
2004年10月23日(土)午後5時56分。新潟県中越地方で、震度7の地震が発生。地震1週間後の発表では、
死者36人
負傷者3173人
避難者7万6615人でした。
避難者は最大で10万人を超えた時期もありました。
1年後の今、死者の数は地震の直接死、関連死をあわせて、
総数で51人と発表されています。
1年後の今も、山間部の330世帯で断水、1013世帯で停電が続いています。
今も故郷へ帰れない人が大勢います。
集団転居をした人もいます。
今も仮設住宅には2812世帯・9160人の人が暮らしています。
読売新聞の調査によれば、その中の44パーセントもの人が、住宅再建のめどがないと回答しています。
高僧道路をはじめ今も中越の大小の道路では、災害復興のための工事が続いています。
***
また、あの季節が巡ってきた
1年が経ち、中越地震関連の番組、出版、イベントが相次いでいます。またあの季節が巡ってきました。あの地震を連想させるものがたくさんあります。場合によっては、もうすっかりおさまっていた思っていた不安感や緊張がぶり返すこともあります。心の傷は、ずいぶん時間がたった後に、また痛み出すことがあるのです。症状が出ても、驚かないこと。それは普通のことです。必要があれば、医師の診断を受けましょう。周囲の人間が、互いに支えあいましょう。
毎日新聞と新潟大積雪地域災害研究センターの調査によれば、1年後の今も、「揺れが来ると体が動かずパニック状態になる」「ヘリコプターの音がするだけでも地震を思い出して嫌」など、心理的な後遺症に苦しむ多くの人々がいることがわかります。
産経新聞が仮設住宅に暮らす100人に調査した結果では、37人の人が今も心身の不調に苦しんでいました。
ボランティア
大勢のボランティアのみなさんが来てくれました。私も新潟県民として深く感謝します。特に阪神のみなさんにはお世話になりました。地震の翌日、阪神から車を走らせて来てくれた元避難所リーダーの方がいらっしゃいました。徹夜で、小千谷の避難所のリーダーの方と語り明かし、翌日すぐに仕事があると言って車で帰ったそうです。とても感激したと、小千谷の方が話してくれました。
近くから遠くから、短期間、長期間、様々な方に来ていただきました。中には変な人もいたと聞きますが、それはごく一部の話で、みなさん本当によくご協力くださいました。
小千谷のあるおかあさんが言っていました。子ども達のためにも、いろんな人が来てくれた。普段ここではみられないような、様々な作品も見ることができた。子ども達は、ボランティアのお兄さん、お姉さんが大好きになって、また会いたいなあと話していると言うことです。中越の子ども達にとって、ボランティアがとても身近なものになりました。
私の勤務校、新潟青陵大学と短大からも、たくさんのボランティアが参加しました。多くは短期間のボランティアでしたが、わずか数日の経験でも、彼らはとても大きなものを学んで帰ってきました。中越のみなさん、ありがとうございました。
マスコミ
マスコミのみなさんも大変でした。地元放送局には何度も行き、関連番組にも出演しましたが、みなさん不眠不休の仕事が続いていました。ある新人レポーターは、これまでの楽しいレポートから一変して、はじめて被災地に取材に来ました。初めてですから、うまくいくわけもありません。
何日も悲惨な状況の被災地を歩き、被災者にマイクを向けていくことで、本人の心身の体調もくずれていったそうです。周囲のベテランスタッフが、その新人をかばってくれます。しかし、新人さんは、自分が満足に働けないことで、自分を責めていました。
ベテランのアナウンサーさんですら、いつもとは違うと思いました。もちろん、冷静にきちんと仕事をしているのですが、それでもやはり、様々な思いが込み上げてくるのが、横にいて一緒に放していて感じました。
*
東京からもたくさんのマスコミのみなさんが来ました。みなさんのおかげで、たくさんの支援金、支援物資が集まりました。ありがとうございました。
しかし、マスコミに傷つけられという人もいます。腹を立てている人もいます。
被災地のある大きな病院の方に聞いた話です。
地震直後、大混乱の中、しかし備蓄していた水と食糧があり、数日後には支援物資も来るだろうから、備蓄品はどんどん使えということになりました。その点では心配も不自由もありませんでした。インタビューには「大丈夫です」とこたえました。
しかし、そのマスコミの方は、その回答には満足しなかったようです。もしも、数日たっても支援物資が来なかったら、そのときはどうですかと、仮定の質問をしてきました。そう質問されたので、もしもそうなったら、そのときはとても困りますと答えたそうです。
テレビでは、大丈夫だと語った前半部分はカットされ、後半のとても困るという部分だけが放送されてしまいした。
市民へのインタビューでも、とても元気で明るい人へはインタビューせず、とても怖がっていて、振るえながら不安そうに話す人に、各社がインタビューするために列を作っていたという話も伝わってきました。
大きな避難所となった小千谷総合体育館にまだまだたくさんの避難者がいるときも、目の前のスーパーはすでに営業していて、商品があふれていました。でも、テレビが映すのは、あいかわらず「余震におびえる小千谷市民」でした。
*
マスコミの悪口だけを言う気はまったくありません。地震直後の被災状況を懸命に報道してくれたのもマスコミです。地震直後は、報道される地域が偏りました。なぜ自分の町の被害のことは放送してくれないのかと、必死の思いで地元放送局に訴えに来ている女性にもあいました。
そんな思いの地域の人々は、大歓迎で、マスコミの皆さんを迎えました。
地震後の役立つ情報を流しつづけてくれたのもマスコミです。
さらに、復興の様子を報道してくれました。被災者はこんなに元気に復興に向かっていると。これは、被災者の心を支えるためにとても重要です。
ある被災者の方は、後になって私に話してくれました。あなたが番組で語っていたこと。「被災者のみなさんは弱い哀れな人たちではありません。大災害と戦っている強い人々なのです」 その言葉を聞いて、涙が出るほどうれしかったと。
思い出と絶望と希望
大きな災害は、人の命を奪い、財産を奪い、そして思い出を奪います。田を奪われ、鯉の養殖池を奪われ、仕事をなくし、何十年と暮らしてきた思い出の家と土地を奪われた人もいます。(家が壊れただけではなく地盤がだめになり同じ場所に家が再建できない人もいます。)
高齢者にとっては、とくに思い出の品や場所を失うことはどれほどたいへんなことでしょう。それでも、希望を失わない人たちがいます。
地震後1年を前にして、Teny新潟テレビの夕方のニュースワイドで地震の特集が組まれ、私もコメンテーターとして参加しました。その番組で紹介されていた話です。
地震で家をなくし、土地をなくし、養殖していた高価な鯉をすべて失った77歳の人。
でも、その方が説明していたのですが、長く鯉の養殖をしていると、土から必要な栄養が減っていき、「地飽き」という状態になるそうです。それが、地震が起きて土地が揺り動かされることで、もう一度良い状態に戻るのだそうです。
この方は、また新しく鯉の養殖をはじめました。
地震は恐ろしい破壊をもたらしますが、また、再生の元にもなるのでしょうか。
あの地震の日に生まれた子犬も、ひきとりました。この犬が寿命を全うする十数年後まで育てるために、じぶんはまだまだがんばらねばと語っていました。
人間たしかに無理は禁物です。しかし、役割が与えられ、使命感を感じるとき、命は輝き始めるのです。
この1年
この1年、中越の多くの方々から地震の話をお聞きしました。地震についてあんなに膨大な報道がなされたのに、それなのに地震の話をお聞きするたびに、一つ一つがすべて新鮮な話でした。
一人一人が違う体験をしてきたのだと思います。違う苦しみ、困難と戦ってきました。そしてそれぞれに希望を見出してきました。
この1年、復興のための特別の仕事や行事をみなさんはこなしてきました。それと同時に思うのは、みなさんができるだけいつものことをいつもどおりにしようと思われたことです。
場所が変わったり、規模が変わったりはしましたが、いつものことを、いつものように、同じようにしようと、みなsンは努力されてきました。
(これは心理学的に言ってもとても良いことだと思います。地震を忘れず、被害者のことを忘れずと言うのは、とても大切なのですが、同時にできるだけ早く日常の生活に戻る、いつもの出来事がいつものようにあるということが、心の安定と復興への意欲を高めるために大切なのです。)
山古志村の国の無形重要文化財「牛の角突き」も行われました。長岡祭りの花火も行われました。復興の思いを込めた花火は、集まった人々に感動の涙を流させました。
実は私も、1年前に小千谷の真人(まっと)地区に講演で呼ばれていましたが、1年の延期をへて、先日言って来ました。
先日、小千谷の小中学校PTA連合の講演会にも講師として言って来ました。スタッフのみなさんは、地震に関するテーマも考えたそうですが、あえてそれを避けたそうです。
「本気でやるから面白い」というスローガンのもと、私も、癒しとそしてチャレンジが子どもの心に必要であると話してきました。
中越は、復興へ向けて確かな歩みを続けてます。
新潟市(新潟青陵大学)から感じた 私の新潟県中越地震 05.10.23
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