心理学総合案内「こころの散歩道」/社会心理学入門、出会いの道/1-4 (碓井真史)
1 世の中を見る目、人を見る目(4)ひとを見る目、対人認知の心理 1
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「 あなたの隣にいる人はどんなひとですか?」ときかれれば、やさしい人とか、怒りっぽい人とか、いろんなふうに答えますよね。そんなふうに、あの人はこんな人と判断することを、「対人認知」といいます。(心理学では、認知すると言っても、子どもを自分の戸籍に入れるわけではない)
あの人の髪は長いとか、赤い服を着ているとかいう外見ではなく、性格など目に見えない内面の判断を対人認知と言います。
あの人はやさしい人だと判断するのは、判断するだけの何かの材料はあるのでしょうが、でも、その人の全てを知っているわけではありません。「やさしい」という心の中を実際には見られないのはもちろん、その人の行なったこと全てを見て、やさしい人だと判断しているわけではありません。
私たちは、ある人の全てを知っているわけではなく、実際に見たり、うわさに聞いたりした、その人のごく一部を知っているだけです。でも、そのごく一部のばらばらの知識をつなぎあわせて、その人の全体像を、自分の中で組み立てます。あの人は、やさしい人だとか、いじわるな人だとか、結論づけるのです。
考古学者が、土器の破片を集めて、元の形を想像しながら組み立てるようなものです。特別な心のレンズを使って、ばらばらの情報を集め、焦点を合わせて、一人の人の人間像を浮かび上がらせるのです。
ところが、この心のレンズは、いつも少し歪んでいたり、色が付いています。私たちは、その人についてのいくつかの知識を客観的に組み立てるというよりも、自分なりに組み立て上げてしまうのです。
古代生物の化石の断片が発掘されたときも、学者さんが想像しながらいろろな生物像を作り上げますが、これまでに、ずいぶん間違った生物の形を作り上げてしまったことも多いようです。
心のレンズの歪みは、その人独自のものもありますし、多くのにとが共通して持っている歪みもあります。
人を判断するとき(対人認知するとき)、まず見るのが外見ですね。アメリカの実験ですが、公衆電話のコインの返却口にわざと10セント効果を置いたまま、次の利用者と替わります。そして、その人が出てきたときに、「10セント硬貨がありませんでしたか?」とききます。
このとき、同じ人が、同じことを言うのですが、服装を変えます。立派なスースか、みすぼらしい服か。すると、高価なスーツを着ていたときの方が、10セントを返してもらえたのです。
服装の違いによって、正直な人、依頼に応じるべき人というふうに、判断してしまったわけです。服で人を判断するなんて、ちょっと情けない話ですが、でも多くの人間は相手の服装によって対人認知の内容が変わってしまうものなのです。
丸顔の人、ふっくらした人は、やさしい。目の細い人は冷たい。やせている人は神経質。私たちは、相手の外見から直感的に、あいての内面を判断してしまいます。もちろん実際は、ふっくらしていても、やせていても、いろいろな人がいるわけですが、でも私たちは外見からある性格を感じ取ってしまうのです。
そこで、ドラマやアニメではこの人間の認知の仕方を利用したキャラクター作りをしています。明るくて人情味あふれる登場人物は、たいていふっくらとした体形です。
冷静なコンピューター青年などは、細長い体形で、メガネをかけたりしています。マンガに登場する殺し屋のゴルゴ13は、細い目に、太い眉で、見るからに冷静で意志の強い感じがします。
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(インターネット上に、ウェブマスター碓井真史の画像が、いろいろ出ていますが、どうでしょうか。写真によって印象は違うでしょうか?)
外見が美しいと、内面も優れていると判断されます。美人は、頭もいいし、性格もいいと思われてしまうのです。みんなが息を飲むほどのすごい美人の転校生、OL注目の二枚目新入社員。
こんなすばらしい容姿の人を見ると、私たちは、その人がやさしくてさわやかな性格で、頭が良くて、英会話なんかもペラペラだし、スポーツや楽器が得意で、勉強ができる、仕事ができるというイメージをすぐに作り上げてしまいます。
小さな子どもでも、容姿の良い子どもは、内面も良いと見られがちです。模擬裁判の実験でも容姿の良い被告への判決は、甘くなりがちでした。
外見や、最初の自己紹介などで、「第一印象」ができあがります。いったん、第一印象ができあがると、次からは、この第一印象に合わせた対人認知が始まります。
一度、良い人だと思い込めば、その人の良いことばかりが目に付きますし、いろいろなことを良い方向に解釈します。最初に悪い人だと思い込んでしまえば、その反対のことが起ります。
これは、前にお話しした「認知的不協和理論」や「原因帰属理論」からも説明できます。
良い人だと判断してしまえば、その判断と矛盾する証拠や考えは不愉快なので(認知的不協和が発生するので)、良い人だと思える証拠をさらに集め、またさまざまな情報を良いこととして解釈するようになります。
廊下であいさつをしたのに、相手がそのまま通りすぎた場合はどうでしょう。相手を良い人だと思っていれば、気がつかなかったのかななどと考えます(原因帰属します)。嫌なやつだと思っていれば、オレを無視したなどと考える(原因帰属する)でしょう。
まとめ
あいつは嫌な人間だと、あなたは思っています。なぜ、そう思うのですか。それは、あいつが嫌な人間だからだ。そうかもしれません。でも、もしかしたら、嫌な人間だとあなたが思い込んでいるだけなのかもしれません。
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