心理学総合案内・こころの散歩道

From: R

To: "碓井真史" <usui@second.n-seiryo.ac.jp>

Subject: 読者の広場を読んで。

Date: Sun, 5 Oct 1997 23:15:29 +0900

 こんにちは。r です。

あの後、何回かに分けて、神戸の児童連続殺傷事件のページとそれに関するメールのやりとりを読ませていただきました。読みながら私なりにいくつか感じたことがありましたので、またメールを遅らせていただきます。

 まず、罪を犯した少年に対して、今後、精神的治療を重視して更生のチャンスを与えるべきか、彼の犯した罪の重さや被害者の家族の心情、今後の社会的影響などを重視して刑罰を重くするべきか、という議論について。

 確かに私の家族があのような被害に遭ったら、やりきれない思いを抱えながら裁判の成り行きを見守るしかなく(しかも犯人が未成年の場合、自分の家族に何が起きたかを知らされることもないまま)、大きな喪失感と無力感、行き場のない怒りや絶望感などを抱えて、心がどうなってしまうかわかりません。

 今は幸いにもそういう経験がないから言えるのかもしれませんが、やはり私は「残酷な殺人を犯した人間には、相応の重罪を課すべきだ」という意見には、疑問を感じます。

殺人を犯した人間を死刑にするのは、もしかしたら社会にとって最もお手軽な方法ではないか・・・と思うのです。だって、そういう人間の存在を排除してしまえばそれで済むわけですから。

周りの人は、それ以上そのことについて悩んだり、考えたり、試行錯誤したりしないで済みますよね。犯人にとっても(・・・これは、犯罪を犯した人の個々の考え方にもよると思いますが)、自分の犯した罪を背負ってその後の長い人生を生きていくよりは、死刑になったほうが、ある意味では楽なのではないかという考え方もあると思うのです。

 「殺人を犯した人間は、死刑にするべきだ」と主張する人たちの意見を読んでいと、法的な罰にばかり着目して、犯罪を犯した人間が当然被るであろう社会的な制裁についてはあまり触れていない気がします。彼らは、刑期が終われば出所して、再び社会生活に戻るでしょう(無期懲役でも、ある程度服役したら出所できるケースはありますよね)。

ですが、たとえば今回の少年が将来再び社会に戻ることができたとしても、彼は以前のように自由に生活することができるでしょうか? 彼はおそらく普通の仕事には就けません。結婚もできるかどうかわかりません。それどころか、ひとつの地域で安定した生活を営むことすらできないかもしれません。自ら犯した罪の重大さを思い知らされるのは、実は出所してからなのではないかと私は思うのです。

 犯罪者に自分の罪を自覚させ、それを本人に背負わせて、それでも社会の中で生きいけという刑罰のあり方のほうが、場合によっては死刑よりもはるかに厳しいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 私が犯罪を犯さないのは、刑罰が怖いからではなく、そのように社会から閉め出されてしまうのが怖いからです。

法による刑罰は、どんなに重くても一時的なものです。それに比べて、社会から受ける制裁は、生涯彼につきまといます。だからこそ、私は死刑ではなく、犯罪を犯した人間に、自分のしたことをきちんと反省させるような刑のあり方を望むのです。

 ただ、中には罪を犯したことよりも「捕まるようなへまをした自分が悪い」と考える人がいたり、出所しても社会から閉め出されてしまって再び犯罪者の道に逆戻りする人もいたりして、そのような方法にばかり頼るのは難しいのかもしれませんが。

 

 もうひとつ、読者の広場に掲載されたSさんのメールが、とても気になります。というのは、2通のメールを読んでも、彼が本当は何を言いたいのか、その真意がつかみにくいと感じたからです。あの手紙は、とても難解な印象です。

表向きは、今回の神戸の事件に関するうすいさんの記述への反論という形をとっていますが、それにしては不必要(あるいは不的確)な表現が多すぎる。また、HPや返信の内容を故意に歪めて解釈しているのでは、と思わせる記述も目立ちます。

そういう箇所でこちらの余計な感情(不安や怒り、混乱など)が刺激されて、Sさんの主張の内容そのものに集中できない。なんだか、複雑なトラップが仕掛けられたメールだなぁという感想です。

(後略)


返信

r 様

碓井真史

メールありがとうございます。

返信が遅くてすいません。メールがたまってしまっているので。

At 11:15 PM +0900 97.10.5, R wrote:

> 確かに私の家族があのような被害に遭ったら、〜大きな喪失感と無力感、行き場の
> ない怒りや絶望感などを抱えて、心がどうなってしまうかわかりません。


私もそう思います。

>殺人を犯した人間を死刑にするのは、もしかしたら社会にとって
> 最もお手軽な方法ではないか・・・と思うのです。

なるほど、そうかもしれませんね。

> 自分の犯した罪を背負ってその後の長い人生を生きていくよりは、死刑になった
> ほうが、ある意味では楽なのではないかという考え方もあると思うのです。


そういう場合もあるかもしれません。

> 「殺人を犯した人間は、死刑にするべきだ」と主張する人たちの意見を読んでいる
> と、法的な罰にばかり着目して、犯罪を犯した人間が当然被るであろう社会的な制
> 裁 についてはあまり触れていない気がします。


少年と家族には、すさまじい社会的制裁が今後とも加えられるでしょう。

>私が犯罪を犯さないのは、刑罰 が怖いからではなく、
>そのように社会から閉め出されてしまうのが怖いからです。

重い罪ではなければ、実刑判決は出ません。

でも、刑事事件で有罪判決が出れば、
いえ、場合によっては起訴されただけで、
社会的生命を奪われ、仕事も家族も友人も失うこともあるでしょう。

> 法による刑罰は、どんなに重くても一時的なものです。それに比べて、
>社会から受 ける 制裁は、生涯彼につきまといます。だからこそ、私は
>死刑ではなく、犯罪を犯した 人間 に、自分のしたことをきちんと反省
>させるような刑のあり方を望むのです。

反省が必要だという点では、同感です。

> ただ、中には罪を犯したことよりも
>「捕まるようなへまをした自分が悪い」と考える人が いたり、出所して
>も社会から閉め出されてしまって再び犯罪者の道に逆戻りする人 も いた
>りして、そのような方法にばかり頼るのは難しいのかもしれませんが。

おっしゃるとおり、犯罪者のラベルを貼り、社会から孤立させることは、

かえって再犯率を高めるという研究があります。

「SAPIO 」10/22、「新ゴーマニズム宣言」(小林よしのりのマンガ)の

「まだ言っておくべき酒鬼薔薇のこと」で、
社会的制裁と少年の更生についてまじめに描かれています。
興味深い内容でした。


この後の部分は、プライベートな内容のため、ここでは掲載いたしません。

ただ、一般的な人間関係、コミュニケーションの問題に関して、次のように書きました。

〜これらの問題を

「交流分析」や「論理療法」の紹介の中で、取り上げたいと思います。(いろいろ手を伸ばしすぎているので、いつになるかはわかりませんが。)


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気楽な学者2:刺激的な市民より(少年犯罪数の推移)

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