いじめ自殺を防ぐための心理学。いじめられている君へのメッセージ。
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いじめ自殺を防ぐために2006
いじめの心理・スクールカウンセラーの体験から
いじめが良いことか悪いことかとテスト問題に出せば、どの子供も、悪いことだと解答しますよね。
でも、人の心の中には、誰かをいじめて、ストレスを解消したり、誰かをいじめることで自分の劣等感をごまかし、ゆがんだ優越感を持ちたいと思ってしまう部分があります。
それでも、いじめはやっぱり悪いことだとは知っているのです。
悪いことなのに、自分はやっている。その事実をそのまま認めると、心は苦しくなります。それではいじめを止めればいいのですが、たいていは、いじめという行動はかえずに、自分の考えを変えます。
いじめは悪いことというのは、変えにくいので、「あいつはいじめられて当然の人間だ」と思い込むのです。
いじめられっ子が悪いと思い込めれば、心は楽になります。まわりの傍観者達も同じです。できれば止めたいと思いながら、そんなことをすると今度は自分がいじめられるかもしれない。だから、できない。
でも、自分のそんな心を認めてしまうのは、辛いことです。そこで、「あいつはいじめられても当然の人間だ」と思い込みます。
調査によると、実際にいじめられっ子は、クラスの子達からそんなふうに思われていることが多いようです。これは、その子に問題があるというよりも、いじめっ子や傍観者達が自分の心を守るために作り上げた幻想です。
あいつはいじめられても当然だとみんなが思うと、その思いは、いじめの被害者いじめられっ子にも伝わります。現実に、クラスのみんなが、一人残らず、自分をいじめたり、いじめっ子をはやし立てたり、いじめっ子を黙認しています。
そんな状況におかれると、自分自身でも、自分はいじめられても当然の人間だと思ってしまうことがあります。自分は正しく、正義で、いじめっ子や傍観者が悪なのだと、強く思えればよいのですが、なかなかそうは思えません。
自分はだめな人間だと思い、思い詰めれば、自殺まで考えます。
心が弱り、傷ついているときには、広い世界を見渡すことができません。自分自身のことと、そのほんの周囲のことしか見えなくなります。クラスみんなからいじめられていると感じている子は、世界中からいじめられているように感じてしまいます。
誰も味方がいない。独りぼっちだと感じてしまうのです。本当は、助けてくれる人、味方になってくれる人がだくさんいるのに、その現実が見えなくなってしまうのです。クラスの中にも、声は出さなくても味方はいるかもしれないのに、そんなことは少しも考えられなくなります。
世界の中で独りぼっちだと感じてしまえば、死を考えてもふしぎはありません。
助けてと声を上げれば、きっと助けてくれる人がいるのに、なぜ言わないのでしょう。クラスをあげてのいじめは、とても過酷です。大人世界の嫌がらせ程度のものではありません。はげしく自尊心を痛めつけられ、心が傷つきます。
だから、自分がいじめられていることを認めたくないのです。仕返しが怖くて言わないこともありますが、いじめられているから助けてと言ってしまうと、どうしようもないほど自尊心が傷つき、惨めになってしまうことを、心の底で恐れているのです。
君は一人じゃない。
悪いのは、君じゃない。
悪いのは、あいつらだ。
君がだめだからやられているのではなくて、あいつらがだめなんだ。
味方はいる。助けてくれる人も必ずいる。
言いつけるのは、チクったことにはならない。決して卑怯なんかじゃない。
間違ったことと戦う、正しい行動だ。
私は君の味方だ。
お父さんも、お母さんも、先生も、全力で君を守る。
本気で戦う。
必ず守る。
いじめっ子なんかに絶対に負けない。
大丈夫。君は一人じゃない。
(心理学的に見れば、いじめっ子もまた、傷ついた心を持ち、援助と慰めを必要とする子供たちなのですが、今、いじめられて苦しんでいる子がいれば、まずは、いじめられっ子の立場になって守ることが必要でしょう。)
派手な自殺報道をすると、そのあと自殺が増えます。
いじめ自殺! 遺書を残して自殺。いじめっ子は、怒られ、補導され、苦しみ、そして、いじめられっ子はみんなから愛され、死を嘆き悲しまれ、めでたし、めでたし。
こんな報道が、次のいじめ自殺を誘発します。
いじめ自殺が、問題解決のために成功だったと感じさせるような報道は、危険です。
もちろん、死者にむち打つような報道はできませんが、必要以上にセンセーショナルな報道は控え、自殺は決して問題解決にはならないと伝えなくてはなりません。
また、家庭や学校も、注目を集めるような自殺報道がなされたときには、注意が必要です。不安定な精神状態の子がいれば、特に気をつけなくてはなりません。
まとめ:自殺者3万人
全国の交通事故による死亡者1万人。自殺者は、3万人です。交通事故防止には、ばく大なお金をかけ、あちこちで交通安全教育がなされています。
それなら、自殺防止のためにも、もっと多くの努力がなされても良いと思うのです。
補足
筆者は,現在中学校でスクールカウンセラーをしています。いじめの問題については引き続き考えていきたいと思っています。 2001.10.25
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
高橋祥友著 『群発自殺―流行を防ぎ、模倣を止める 』 中公新書
高橋祥友編 『青少年のための自殺予防マニュアル 』 金剛出版
『いじめ撃退マニュアル―だれも書かなかった「学校交渉法」』
『いじめ―教室の病い 』
『西の魔女が死んだ (新潮文庫)』
いじめや不登校について考える子どもと大人の必読書。映画化もされたベストセラー。
マックス・ルケード著 『たいせつなきみ 』(絵本) いのちのことば社
君も大切な存在なのだと教えてくれる絵本。
私はあちこちの講演会で朗読しています。
『いじめ自殺子どもたちの叫び』
『啓祐、君を忘れない―いじめ自殺の根絶を求めて』
『せめてあのとき一言でも―いじめ自殺した子どもの親は訴える』
『せめてあのとき一言でも―いじめ自殺した子どもの親は訴える』
『 いじめ・自殺・遺書―ぼくたちは、生きたかった!』
『いじめ自殺―12人の親の証言 (岩波現代文庫 社会 147)』
『いじめ自殺―6つの事件と子ども・学校のいま (「教育」別冊 (10)) 』
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