いじめ問題の心理。いじめ不登校・いじめ対策・いじめ相談。
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いじめ問題の心理

スクールカウンセラーの体験から考えるいじめ対策・いじめ相談

2005.6.15

いじめとは(いじめ・不登校・神経症)

 「ただふざけていただけ」「ほんの冗談」「あいつが悪い」。いじめている側は、いろいろと言います。言い訳ではなく、本当にそう思っていることもあります。加害者だと言う意識は希薄です。
 それなのに、いじめらているほうは、深刻な被害を受けます。毎日が地獄だった、死にたくなった、小学校や中学校に行きたくなくなったと、彼らは語ります。
不登校になる生徒もいます。神経症的な症状が出る人もいます。追い詰められた結果、いじめの被害者の方が過激な乱暴をはたらいてしまうこともあります。
客観的には小さなことであっても、影響がとても大きいのがいじめです。

いじめによってなぜ傷つくか

 教室の黒板に張ってあった自分の名札の文字を、マジックで塗りつぶされるいじめがありました。被害額としては、ほんの小額です。しかし、自分の名前を塗りつぶされることで、激しく自尊心が傷つきます。持ち物を隠したり、壊したりするいじめは、みんなそうでしょう。自分自身の心が痛めつけられるのです。
 現代のいじめは、むかしのいじめとは違います。特定のいじめっ子が特定のいじめられっ子を狙うのではありません。
 集団で、長期にわたって、いじめつづけます。悪口、無視、嫌味。その一つひとつは小さなことだとしても、子どもはクラスの中でいじめられると、世界中からいじめられていると感じてしまいます。
 いじめを止める人間がいないことも現代のいじめの特徴ですが、クラスの中で誰も助けてくれないと、世界中が助けてくれないと感じてしまいます。(本当は一歩クラスを出れば、誰だって被害者の側に立ってくれるのに)
 マンガのジャイアンのようないじめっ子がいるのであれば、「あいつが悪いいじめっ子で、僕は悪くない」と思えます。ところが、大勢で長期間いじめられつづけると、いじめる側が自分の正当性を主張するだけではなく、被害者自身までも、自分が小さくだめな人間だと感じるようになってしまいます。
 こんなだめな僕なんか、いなくなった方が良いとまで思ってしまうのです。
 いじめの事実を大人に言えないことはよくあるおとです。これは、仕返しを恐れるだけではなく、言葉に出してしまうことで自分がいじめを受けるような弱い小さな人間だと認めてしまうような気がして、誰にも言えないときがあるのです。
 さらに、もしも極端にひどいいじめを長期にわたって受けつづけるとしたら、長期反復性の心的外傷を受けることになります。心の後遺症としてPTSDになるとしても、1回の被害によるPTSD よりもさらに複雑なPTSDを生じることもあるでしょう。

いじめの相談

私は、スクールカウンセラーとして中学校に勤務していますが、いじめ相談を受けることがありあます。
 そんなとき、私が第一にすることは、本人をいたわり、勇気をほめ、安心感を与えることです。傷つき、小さく弱くなってしまった心を奮い立たせ、来てくれたのですから。
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えらかったね。よくがんばってきたね。勇気をもって言いに着てくれた、すごいぞ。りっぱだ。君は悪くないよ。わるいのは、相手だ!
よし、その子には、もうそんなことさせないよ。私も、先生も、学校の大人全体が、全力で君を守る。大丈夫だよ。
しかえしが怖い? うん、そうだね。 でも、これだけ本気で大人が動いて、それでも仕返しなんかしようとしたら、それこそ大変だよ。そいつは、とんでもない目に合うよ。それを覚悟の上で、それでもいじめを続ける根性が、そいつにあるかい。

もし、いじめが止まらなかったら、すぐにまた大人に言いに来てね。すぐに、またこっぴどく叱り付けてあげるからね。
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 実際には、いじめっ子に働きかけ、クラスをまとめるのは、担任を中心にして行われます。教職員が本気で取り組めば、すくなくとも暴力や悪口など、露骨ないじめはすぐに止められるでしょう。
 通り一遍のお説教や、正論だけでおわらせず、きちんといじめ問題を処理してくれるような頼りになる担任の場合は、私も安心です。もし、そうでない場合には、学年主任や生徒指導担当教員とも協力しながら対処します。
 学校の中にもいろいろな教職員がいるのは事実です。しかし、今の学校は協力体制をくみチームで動きます。誰かが、本気で動いてくれれば大丈夫です。もし、ご家族が最初にいじめを知ったら、学校教職員の誰かが本気で動いてくれるように、しっかりと働きかけましょう。
 もしかしたら、すぐには親の期待通りには動いてくれないときもあるかもしれません。しかしだからといって、誰も助けてくれないと親子で泣いていても解決しません。今こそ、お父さん、お母さんの出番です。学校と協力して問題に立ち向かっていきましょう。
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ただ、それでも、いじめっ子の心は簡単には変わらないかもしれません。いやな雰囲気は残るかもしれません。
 私は、本人もそれを話します。本人と話し合った上で、本人が泣き寝入りはいやだと感じてくれれば、一緒に戦っていこうね。みんなが君の味方だよ。学校中が、世界中が君の味方で、君を支えるよ、と語ります。
 ところで、いじめの話を聞いて、担任にも相談することを本人が了承してくれても、教務室(職員室)に行って話をすることは、ほとんどの子がいやがります。
にぎやかで、人の出入りが激しい、職員室では、そんな話はできないのです。
相談をしてもらうためには、カウンセリングルームのような落ち着いた場所が必要でしょう。
 また、いじめ問題が明るみに出ると、学校はまず事実関係を明らかにし、いじめっ子の指導をはじめます。それは、被害者のためにも、もちろん必要です。ただ、うっかりすると大人たちがいじめをやめさせ、反省させることに力を注いでいるうちに、被害者の傷ついた心が置いてきぼりになってしまう危険性が出てきます。
 大切なのは、被害者の心を守ることです。

いじめっ子の心理(いじめの原因)

 いじめという人権問題の立場からすれば、いじめられっ子は何も悪くなく、いじめっ子が100パーセント悪いことになります。
私は、それまでずっと我慢し続けてきたいじめ被害者と二人で話しながら、一緒になって憤慨し、文句を言います。
 しかし、そうであっても、いじめがどんなに卑怯な行為であっても、心理学的、教育的に見れば、いじめっ子もまた援助を必要としている子どもです。
 いじめを長期にわたって続けているこの中には、家庭に問題を抱えている子もたくさんいます。強い劣等感、人間関係の不安を持っている子もいます。人生が上手くいかなくて、欲求不満があふれそうになっています。しかりつけるだけでは解決しません。
 以前出会ったある生徒さん。とても良い生徒さんでした。ところが、この子が、以前は弱い者いじめをしえいたというのです!
 その生徒は、家庭環境に恵まれず、ずいぶん辛い思いをしてきました。その中でのいじめでした。もちろん、だからと言っていじめて良いわけはありません。けれども、落ち着いた良い家庭に入ることができたとき、いじめは止まりました。その生徒さんが本来持っていたやさしさが、ちゃんと出てきたのです。
 ただし、だからといって、いじめ被害者本人や、家族の前で、いじめっ子にもそれなりの理由があるとか、この程度のことでとか、この子だけが悪いんじゃないなどと、かばってはいけません。被害者側はとても傷つきます。
 どんな理由があっても、いじめが正当化されてはいけません。いじめっ子への援助は、また別の問題として扱わなくてはなりません。

君の勇気を示してください。(いじめ相談のススメ)

 いじめられていることを大人に話すことを「チクッた」なんて言う人がいます。チクるとういのは、仲間を裏切って言いつけるという意味でしょうか。
いじめを大人に報告することは、チクりではありません。自分の都合の良いときだけ仲間みたいなふりをするのは、やめて下さい。卑怯(ひきょう)です。
 いじめは、悪いことだよね。困ったことだよね。その悪い、困ったことが、今あなたの学校で起きているわけです。あなた自身も困っているでしょう。そして、それはあなただけの問題ではありません。学校全体の問題です。学校全体が解決を目指さなければならない問題です。
 もしも、学校の中で、火事になっているのを見つけたら、どうしますか? すぐに、先生に報告するよね。当然です。チクッたり、言いつけたなんて言ったりする人はいないよね。

いじめも同じです。
 いじめられていると、大人に話してくれることは、もちろんチクりではありません。それに、人に何かを相談することは、決して弱さの表れではありません。相談ができる人は、冷静で頭がよい強い人です。
 いじめられているのを話すのは、大変だよね。勇気がいります。どうぞ、誰かに話をすることで、君の勇気を表して、ください。
 今まで泣いてきても、不登校であっても、いま君は勇者です。
みんなが君の味方です。
話をすることで、相談することで、
君の勇気を示してください。
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