心理学総合案内こころの散歩道/自殺の心理/ネット自殺
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
ネット上には様々なサイトがあり、様々な事件が起こります。その中で、しばしば悪い意味で話題となるのが、自殺系サイトです。
1998年には、ドクターキリコと名乗る人物が、ネット上で知り合った人に宅配で毒物を送り、自殺者が出るという事件がありました。
2003年には、自殺系サイトの「心中掲示板」で、一緒に死んでくれる相手を探している男性が、2人の若い女性と共に、集団自殺しました。
こういう事件が明るみに出るたびに、ネット規制論がでます。自殺系サイトや自殺掲示板などが槍玉に上がります。
たしかに、危険なサイトもあるでしょう。しかし、単に規制するということでは、自殺予防にはつながらないと思うのです。
***
日本には、「切腹」や「心中」など自殺を美化する文化があります。一方で、死について語ることをタブー視する傾向があります。
西洋キリスト教社会で、自殺が「罪」とみなされたり、死期が近づいた患者のところに牧師が訪れたりするのとは、対照的です。
死にたいと思っているのに、その思いを語る場がない、そんな人にとって、ネットは思いがかなうすばらしい場所になります。
匿名性の中で、本音が出せます。また、ちょうどマニアックな趣味の人が集まるように、「自殺」を嗜好する人々が、ネット上で集まることができます。
普通ななら話せないような内容、普通なら止められてしまうような会話を、ネット上でなら、思う存分できるのです。苦しみ、悲しみに共感してくれる人が、ネット上にならたくさんいるのです。
語り合うだけならば良いのですが、自殺掲示板では、一緒に死んでくれる人を探しあうことがあります。2003年のネット心中事件もそうでした。なぜ、そんなことをするのでしょうか。
この事件の男性が、はっきりと語っています。「一人で死ぬのは淋しい」と。
本当に覚悟の自殺ならば、予告もせず、相談もせず、自分ひとりで確実に死ねる方法をとることになりますが、自殺、とくに若い人たちの自殺は、本当に死を願っているというよりも、心の奥底では、生きることを願っているのです。幸せになりたいのです。愛情にあふれ、夢と希望がある人生になれば、死ぬ必要などないのです。
彼らは、まさに「淋しい」のでしょう。死を考えるときも、淋しさをなんとか紛らわしたいと思います。そこで、相手を探します。
現実の世界でも、女子中学生などが、友達に誘われ、同情し、いっしょに死んでしまうことなどがあります。また、恋人、夫婦、家族が、心中することもあります。
でも、こんな相手を持っていない人は、以前なら一人で孤独に耐えるしかなかったのでしょうが、現代では、ネットを通して、同じ思いの人と出会えるようになったのです。「心中相手募集中」というわけです。
ネット上の文字によるコミュニケーションでは、実際の対面のコミュニケーションや、電話、手紙と比べて、感情が短時間に一気に燃え上がる傾向があります。
恋愛感情も、敵意もです。そこで、出会い系サイト問題や、ネット上の争いの問題などがおきやすいのです。
インターネット心理学(より良いネットコミュニケーションのために)
また、ネット上のコミュニケーションは、狭い範囲に集中してしまうことも良くあることです。普通の人間関係ならば、中心となる話題となる事柄以外にも、仕事のことや家族のことなど、いろいろなコミュニケーションがもたれるでしょう。
でも、ネット上では、そのテーマでだけの人間関係が出来上がり、その話題に関してだけ、どんんどん深まっていくことができるのです。
現実世界では、死にたいほど悩み、淋しいと思った人が、たとえば友達に話す。すると友だちといろんな会話が始まり、その結果、慰められて自殺を思いとどまることもあるでしょう。
ところが、自殺系サイト、自殺掲示板などでは、自殺ということだけで人が集まり、自殺の話題だけで盛り上がってしまうことがあるのです。
そして、具体的に自殺の準備を始めたり、そのために会うときになっても、だれも互いにブレーキをかけるものがなく、むしろ互いに後戻りできない思いになってしまうこともあるのでしょう。
自殺系サイトに集まり、自殺掲示板に書き込みをしている人たちは、みんな次々と自殺してしまう。大きな事件報道があるたびに、そんなイメージを持ってしまう人もいるでしょう。
しかし、そんなことはありません。もしもそうなら、自殺サイトは、次々となくなっていくはずです。
実際には、多くのサイトが継続しています。集まる人々は、死にたい、死にたいと語りつづけて、明日もまた自殺サイトにやってきて、自殺掲示板を見るのです。
(ただし、だから死ぬ死ぬといっている人間に限って死なないなどという誤解はしないで下さい。)
自殺への思いを語ること自体は、むしろ自殺予防の効果さえあるでしょう。
ただし、ネット心中事件のように、具体的な自殺の準備をスタートさせてしまうことになると、やはり危険なサイトということになるでしょう。
それでは、自殺系サイトを規制すればよいのか。そうではないと思います。まず、そんなことはとても難しいでしょう。
大手のプロバイダーが自殺系サイト禁止としても、彼らは他の場所へ移るだけです。掲示板に「自殺」といった文字が出れば何らかの規制をかけるといったシステムを作ったとしても、多分彼らは隠語を使うだけでしょう。
自殺系サイトを規制しようと思っても、彼らは地下に潜るだけでしょう。
それに、たとえば自殺予防を一つの目的としている当サイトの掲示板にも、死にたいという書き込みがあります。そういう掲示板も閉鎖すればよいのでしょうか。
危険なもの、悪いものを規制するのではなく、むしろ良いもの、予防効果のあるものを増やしていく方が、効果的だと思います。
実際に、当サイトにも、「自殺」で検索をかけているうちにたどり着きましたという人がかなりいます。死を考えていましたが、思いとどまりましたという人もいるのです。
自殺系サイトに人が集まるのは、それだけの意味があります。それに負けないような自殺予防系サイトを増やしていくしかないと思うのです。
自殺系サイトは、今後も増えるのでしょうか。事件のあるたびに締め付けはあるのでしょうが、自殺者が減る傾向は見られず、ネットの普及率が高まる中で、自殺系サイトも増えていくでしょう。
だから、負けないように、自殺予防サイトも作りましょう。
それが、現状では立ち遅れています。自殺系サイトは、簡単に次々とできますが、自殺防止を目的とする諸団体でも、メールや掲示板を使った活動はなかなか始められません。準備が間に合わないのです。
カウンセリングの方法や、電話相談の技法などは、長い時間をかけて作られてきました。さまざまな研修もあります。しかし、インターネットに関しては、あまりにも急激に普及してしまったために、間に合わないのです。
でも、必要性はますます高まりつつあります。
本当は、悩みを身近な人に話せるのが一番良いのですが、若い世代ほど、そのようなコミュニケーションがどんどん下手になっています。
社会全体が、豊かになり、清潔になり、きれいになった、その副作用として、心の闇の部分を人に話すのが、とてもしにくい社会になってしまいました。
対面では話せない人が、電話相談をするようになり、電話でも話せない人が、もっと匿名性が高く、もっと本音が出しやすいインターネットの世界に集まっています。
ネット上の自殺予防を目的とした活動をもっと活発に増やしていきましょう。
ただし、ネットカウンセリングは、対面カウンセリングよりも難しいといわれています。簡単にはできません。だからこそ、社会全体の支援が必要だと思うのです。
当「心理学総合案内・こころの散歩道」の掲示板も、決して自殺相談掲示板ではありません。個人運営のサイトでそこまでの責任は負いきれません。
しかし、「自殺」で検索をかけ、ネットをさまよっている人々を助ける一助になればと考えています。死にたいと語る人を掲示板から追い出す気にはなれません。
(場合によっては、どんな発言も許すというわけにはいかない場合もあるとは思いますが)。
正直に申し上げて、死について語る人が掲示板に現れると、緊張します。君子危うきに近づかずなんて考えたら、そんな発言は削除したくなります。
他の諸団体や、ウェブマスターも似たようなことを考えるかもしれません。だからこそ、社会全体の支援が必要だと思うのです。
(当掲示板も、参加者のみなさまのご協力により支えられています。いつもありがとうございます。)
「自殺と自殺予防の心理学」へ戻る
自殺心理の基礎・若者の自殺・いじめ自殺・過労自殺・中年クライシスなど
心理学総合案内「こころの散歩道」トップページへ戻る
アクセス数3000万の心理学定番サイト
癒しのページ、心理学入門、対人心理学などなど
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
心理学入門| 社会心理学(対人心理学)| 心の癒し(いやし)・臨床心理学| やる気の心理学| マインドコントロール| ニュースの心理学的解説| 自殺と自殺予防の心理学| 犯罪心理学・ 少年犯罪の心理学(非行の心理)| 宗教と科学(心理学)| プロフィール・ 講演| 心療内科| リンク| 今日の心理学(エッセイ) | 掲示板