心理学総合案内・こころの散歩道/自殺と自殺予防の心理/自殺系サイト・ネット集団自殺・ネット心中(碓井真史・新潟青陵大学)
自殺について語るなら、もっと語りつづけて!
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
(下記のコンテンツは、2003年のネット集団自殺発生時に書いたものです)
埼玉県内のアパートで、3人の男女が自殺しているのが発見されました。この3人は、自殺志願者が集まるインターネットのホームページを通じて知り合い、集団自殺をしたとみられています。
いわゆる自殺系サイトの中にあった、一緒に自殺してくれる人を探すための「心中掲示板」で知り合ったようです。
自殺した26歳の無職男性は、仕事がなかなか見つからないと、家族に悩みを話していたそうです。この男性が、掲示板でこのアパートの部屋で一緒に自殺してくれる人を募り、2人の女性が連絡をとってきたようです。
第一発見者は、女性の友人の女子高生で、心配して栃木県から様子を身に来て、倒れている3人を見つけました。
何年も前から、自殺掲載と問題は、話題になっています。こういったホームページがきっかけとなった悲しい事件もおきています。
今回の事件でも、遠山敦子文部科学相はインタビューに答えて語っています。
*
「自殺についてのサイトをそのまま放置しておくのがいいのか。表現の自由とかいろいろあると思うが、他者も誘い込んで(自殺を)やろうとしているような情報の発信を放置していいのかと、個人的に思う」
「ITの発達で、そういうサイトが犯罪や事故を拡大していく傾向がある」と述べています。
*
たしかに、こういうふうに言いたくなる気持ちは分かります。しかし、一般的には、自殺系サイトは、世間で思われているほどには、悪いものではありません。
自殺したい気持ちを語ることは、普通であれば、縁起でもないとか、危険だとか思われがちですが、実際には、語ること自体は、むしろ自殺予防につながると思います。「いのちの電話」なども、死にたい気持ちを語ってもらうためのものです。
自殺を考えている人に、死んではいけないなどと正論を押し付けたり、下手な説教などするよりも、その気持ちを聞いてあげ、共感してあげることの方が、自殺防止のためにはずっと効果的です。
しかし、それでは自殺掲載とに問題がないのかといえば、そうではありません。ただ気持ちを語り合うだけではなく、一緒に死んでくれる人を誘い合うといった事が行われている最近の自殺系サイトや、自殺掲示板、心中掲示板などは、やはり危険性が高いといえるでしょう。
危険性がある。では、法的に規制しよう。禁止しよう。しかしこれでは、自殺問題でよく言われる「寝た子を起こすな」という考えと同じです。
死について語ることが自殺を誘発するのではないかという考えです。自殺予防について様々な工夫をすること自体が、批判されることもあります。
しかし、自殺は工夫によって減らすことができます。(何らかの危機介入ができるような法的な工夫は考えられるでしょう。)
自殺について語ること自体は、悪いことではありません。
けれども、
***
死にたい気持ちをしっかり出せる、死にたい気持ちをしっかり聞いてくれる人がいる。しっかり共感してくれる人がいる。
しかし、ただ同情するだけではない。ましてや自殺を誘う人などいない。説教や叱責はしない。でも、温かなメッセージが伝わってくる。自分自身の中に、生きる力が自然とわいてくる。そんなサイトが増えますように。
自殺を語る人々は、強烈に死を求めているけれど、しかし、心の奥底で、生きようとしている人々なのですから。
*それから、ネットの上だけではなく、暗い部分の本音も出し合える人間関係ができるといいんだけどなあ。
今回の事件でも、自殺した女性の友人が、わざわざ栃木県から埼玉県まで心配して、様子を身に来てくれていました。こんなに心配してくれる友達がいたのに。とても残念です。
追記:第一発見者の女性も、同じ掲示板で知り合ったという報道も後にありました。詳細はよくわかりません。
このサイトで、繰り返し主張していますが、センセーショナルな自殺報道は、次の自殺を誘発します。自殺方法を事細かに報道するのは、危険です。
もちろん、事実を報道することは、とても大切です。しかし、すべての自殺報道は、何らかの形で、自殺予防の観点を持たなければ、いったい何のための報道なのかと思ってしまいます。
自殺事実を伝えるだけではなく、自殺予防につながる情報も同時に伝えなければなりません。
1997年に当サイト「心理学総合案内・こころの散歩道」がスタートした時点では、インターネットで「自殺」を検索にかけると、自殺のやり方といったアングラサイトばかりが出てきました。
(2003年現在は、いのちの電話など、多くの自殺予防のためのサイトを簡単に見つけることができます)。
そこで、私は自殺予防の心理学の観点から、このページを作りました。特に、大きく報道される事件を取り上げようと思いました。
今、おそらく多くの人が、様々な目的で検索をしているはずです。「自殺」「自殺系サイト「自殺掲示板」「心中掲示板」。
その結果として、自殺を幇助するかのようなページばかりが出てきてしまったら、とてもこまります。
自殺を予防するためのサイトが必要です。多くの人の目に付くところに必要です。
(このページはヤフージャパンのニューストピックス「自殺問題」から関連サイトとしてリンクされています。とても感謝しています。)
ネット上で自殺を語る人々は、強烈に死を求めているけれど、しかし、心の奥底で、生きようとしている人々なのですから。
追記
先ほど入ったニュースです。自殺を呼び掛けた掲示板の管理会社が、この掲示板へのアクセスを停止する措置を取りました。この会社は「犯罪ほう助に利用された可能性もあると考え、停止した」と話しています。
今こんな現状では、賢明な措置だと思います。ただし、自殺系サイトを悪魔狩のように禁止したとしても、あまり効果はないでしょう。
ただの「自殺掲示板」ではなく「心中掲示板」とういネーミングは、自殺を考えている人にとっては、魅力的なものでしょうか。
日本では、文学作品やドラマで心中が出てくることが美化されて出てくることが多くあります。自殺自体も、西洋キリスト教社会のような「自殺は神からいただいた尊い命を自ら捨てる間違った行為」といった思想が弱く、潔い死などと美化されてしまうことがあります。
亡くなった方を悪く言うことは難しいのですが、死に関する教育は必要だと思います。
今回、「心中」といっても、どれほどの人間関係があったのでしょうか。
ネットの匿名性の中で、短い時間の中で、死に関する本音を出し合い、共感しあい、あっと言う間に深い感情的交流と共感が生まれ、同情しあい、誘い合い、死に方を教え合い、とうとう死を選んてしまったのでしょうか。
ネット上の人間関係は、実際の人間関係とくらべて、短時間のうちに感情的に盛り上がってしまいます。このようなネットの特質も、私達は学んでいかなくてはならないと思うのです。
死を考え、ネットをさまよっているあなたへ。
どうぞ、良いページを見つけてください。
そこで、あなたの気持ちを語ってください。
どうせ語るなら、もっと、もっと、語ってください。語りつづけてください。
「一人で死ぬのは淋しい」 今回の男性も語っています。
二人の女性もそうだったのでしょうか。だから、あんな掲示板に行ったのでしょうか。
そうですね。一人は淋しい。
でも本当は、男性には悩みを話せる家族がいました。女性にも、心配して遠くから来てくれる友人がいました。それ以外にも、たくさんの仲間がいたことでしょう。
今、3人の周囲の人々は、どれほど深く悲しんでいることでしょうか。
「あなたも一人ではないし、あなたも愛されているのですから。」
どうそ、その事実に気づいて下さい。お願いです。
***
- 東京いのちの電話 (03)3264-4343
- NPO 国際ビフレンダーズ・大阪自殺防止センター
- (06)6251−4343
ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』
自殺といのちについて考える全てのひとのために
当サイト内の関連ページ
インターネット心理学(掲示板、出会い系サイトの人間関係)