心理学総合案内心の散歩道」/自殺の心理/最近報道、そごう


最近の自殺報道から

そごう副社長(63)の自殺


 2000.4.27.大手百貨店そごう副社長(63)が自宅で首をつって自殺。

 副社長は寝間着姿で、リビングルームの柱にネクタイを結び合わせて首をつっていた。妻に宛てたと見られる遺書が残されており、「申し訳ない。勝手を許してく ださい」とA4判の紙にフェルトペンで書かれていた。

***

 不景気とリストラの嵐の中、中高年の自殺が増えています。少年の自殺などは大きく報道されることが多いのですが、中年のただのおじさんの自殺などは、たいしたニュースバリューがないので報道されず、目立たないのです。なにしろ、日本の自殺者は、年間3万人もいるのですから、普通の人の普通の自殺では記事になりません。

 今回は大企業の副社長ということで、大きく報道されました。


「勝手を許して下さい」

 そのとおり、勝手ですよ。責任ある立場になる分別をわきまえた年齢の人の行動として、あまりに自分本位です。ただでさえ経営が苦しかったのに、さらに株価は急落しています。社員や株主や、そごうを利用しているお客さんに何と言って言い訳するつもりでしょう。

 でもね、この副社長さんがどんな人かは知りませんが、たぶん本当は責任感の強い人だと思います。たぶん、人間としても、企業人としても、立派で有能な人だと思います。そうでなければ、ここまで出世できなかったでしょうし、そうでなければ、個人で悪いことをしたのでもないのに、自殺などしなかったでしょう。

 まじめで、努力家で、有能で、責任感が人一倍強い強い人ほど、時には自ら死を選んでしまうのです。


ネクタイと寝巻きとフェルトペン

 副社長さんは、寝巻き姿のまま、ネクタイを使って首を吊りました。遺書はフェルトペンで書かれていました。

 ネクタイですか...... サラリーマンの象徴ですね。彼は最後までサラリーマンだったのでしょうか。会社のことで悩み、ネクタイで首を吊る。はあ〜。悲しすぎます。

 高い地位にあったこの年代の人ですから、たぶんきちんとした人だったと思います。ゆっくり冷静に考えて計算の上での自殺であったならば、きっときちんと着替えていたことでしょう。遺書だって、万年筆や筆を使っていたことでしょう。

 心身ともに疲れ、憔悴しきったときに、ふと死を考えてしまったのかもしれません。とても残念です。このとき、何かの助けがあって、この谷底のような気持ちからほんの少しでも抜け出すことができていれば、死ぬことはなかったでしょう。

 もしかしたら、本人も周囲も気がつかないうちに鬱病になっていたのかもしれません。


リストラ

 大規模なリストラ計画が進む中、「切られる方も切る方も精神的に限界です」というそごうのある社員の言葉が報道されていました。リストラされる人も、上と下からの圧力を受けながらリストラの作業を行なう人も、心に大きなストレスを感じています。

 「リストラ鬱病」なんて言葉も使われています。中高年が職を失うということは、収入を失うとともに、地位(自分の居場所)を失い、自信を失い、自分の存在意義やアイデンティティーを失っていくことにもつながるでしょう。

 辛いですよね。私のところにも、そんな方からメールが届いています。生活も何もかも一変し、条件をかなり落としても、再就職口がないそうです。

 アメリカでは、日本に比べて気軽に首を切るような気がしますが、多くの労働者が数ヶ月のうちに再就職するそうです。ところが日本の現状では、長い期間失業したままの人が多いそうです。

 リストラって、再構築って言う意味のはずだったのに、一企業としても、日本の社会としても、再構築する気があるのでしょうか。

 景気回復も会社の存続も大切に決まっているけれど、私たち個人はどうなるのでしょうか。

 乱暴なリストラによって残された社員の士気も落ちてしまい、さらに業績が悪化し、またその場しのぎのリストラを行なう悪循環を繰り返している企業もあるようです。


報道の影響と自殺の予防

 大きな自殺報道が、次の自殺を引き起こすことはよく知られています。特に、同じような境遇にある人は、要注意です。

 会社の中で、大変な苦労をされている中高年のみなさん。私なんかが言うまでもなく、いのちの大切さはご存知ですよね。自殺なんかしたら、残された人たちがどれだけ悲しみ、また大きな迷惑をかけてしまうか、ご存知ですよね。

 生きていきましょう。

周囲のみなさんへ

 中高年の男性は、一般的に感情表現が苦手です。弱音がはけないのです。ガンバレと励ますだけではなく、ぜひ休養を進めてあげて下さい。相変わらず猛烈社員ぶりを示しているとしても、もしかしたら心は限界までぼろぼろになっているのかもしれないのです。

 ね、みんなで生きていきましょうよ。

中年クライシス、カッコ悪くても生きていこう

ウェブマスターによる新刊(2010年5月27日発行)
あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ
自殺といのちについて考える全てのひとのために


「自殺と自殺予防の心理学」へ戻る
自殺心理の基礎・若者の自殺・いじめ自殺・過労自殺・中年クライシスなど



心理学総合案内「こころの散歩道」トップページへ戻る
Yahoo!Jクールサイト



心理学入門社会心理学(対人心理学)心の癒し(いやし)・臨床心理学やる気の心理学マインドコントロール| ニュースの心理学的解説自殺と自殺予防の心理学犯罪心理学少年犯罪の心理学(非行の心理)宗教と科学(心理学) プロフィール・ 講演心療内科リンク今日の心理学(エッセイ) | 掲示板

カウンター