心理学総合案内・こころの散歩道/ニュース/犯罪心理「心の闇と光」/神戸小学生殺害事件
少年法改正の目的と前提:卑しい人権屋も厳罰主義を乱暴に叫ぶだけの人にも反対です。
少年法の目的は、以下の通りです。
「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行う〜」
少年法の目的は、少年の健全育成と、非行少年の矯正ですから、少年法を改正するとしたら、この目的が、より良く達成できるような改正がなされなければなりません。
(もしも、犯罪を犯した少年を少年だからといって成人と区別する必要がないというのであれば、少年法を廃止したり、現行少年法の目的を変え、名称まで変える必要があるでしょう。)
では、どうすれば、少年が健全に育ち、どうすれば非行少年が変わっていくのか、また「少年」とは、何歳までなのかといった議論が必要でしょう。
少年法改正については、様々な意見があるわけですが、色々な立場の違いはあれ、少年犯罪の防止という点では一致できるものと信じています。
犯罪統計の解釈にしても、「正しい解釈」がなされることを、まじめな議論をしたいと感じている方々は、みなさん望んでいることでしょう。
実際以上に、少年犯罪が低下しているかのように統計を利用している人もいるでしょう。一方、実際以上に、少年犯罪が増加、凶悪化しているかのように統計を利用している人々もいるように感じます。もちろん、どちらも間違っています。
発生率からいっても、長期的に見れば少年凶悪犯は大きく減少しているとするのが定説だとは思います。
この30年の間に、全年齢層の殺人者率は4分の1、20歳代では7分の1、10歳代では6分の1になり、これは殺人に限らず、暴行や傷害や強姦などの凶悪犯罪においても同様だそうです(「児童心理」1997.11別冊)。
一方、たとえば殺人の内容が変化(悪質化)しているとか、「傷害致死」はどうなのかということになると、話はさらに複雑になるでしょう。近年、強盗も増えています。
手元に資料がないので分かりませんが、傷害致死は増えていると聞いたことがあります。一方、コンビニで万引きして、追いかけてきた人を逃げる途中で突き飛ばしたりすると、「強盗」になりうるそうです(盗むための暴力だけではなく、逃げるための暴力でも強盗)。そもそも「凶悪事件」とはどのようなものかといった議論にもなりそうです。
ただ、朝日新聞なども含めて、マスコミ報道は、派手な報道によって実際以上に少年犯罪が増加、凶悪化している印象を与えてしまっていると感じます。私自身を含めて、少年の殺人や強盗や強姦が大幅に減少している白書のグラフを見て、みんな驚いてしまうのですから。(もちろん長期的に見た減少ばかりを強調するのもまちがいですが)
また、犯罪被害者の多くがマスコミに傷つけられた二次被害を訴えていることを考えると、マスコミが犯罪被害者の苦しみや悲しみに、どの程度共感し、どの程度私たちに伝えきれているのかも、大いに疑問です。
正直に申しまして、具体的にどのように少年法を改正するのが正しいのか、私には良くわかりません。ただ、その前提となる認識の歪みが気になって仕方がないのです。
被害者の心を理解する努力もしない「人権屋」にはうんざりです。一方、厳罰化だけを強調する意見にも賛成できないのです。どちらも、少年犯罪の防止と、よりよい社会の建設のためには、プラスにならないと思います。
(もちろん、罰則の強化を主張される方々の中にも冷静で建設的ご意見はたくさんあるでしょうし、人権を強調される方々がみんな「人権屋」などと言っているわけではありません。)
どちらにせよ、大変乱暴な大声や、統計のごまかし等による世論操作によって少年法が変わってしまうとすれば、大変残念です。私たちみんなにとって不幸です。
「人権屋」の主張だけが通ってしまったら、被害者は泣き続けることになるでしょう。それは結局、更生できない非行少年にとっても不幸なことだと思います。
一方、乱暴に厳罰化を叫ぶ大声の中で、今回の改正が行われてしまったらどうでしょう。その改正自体が正しいものだとしても、それをきっかけに、子どもを甘えさせるな、少年を育てるよりも罰することが大切だという社会になってしまわないかと心配です。そのような子どもに冷たい社会の中では、少年犯罪は決して減らないと思うのです。むしろ、非行少年を増やし、その非行少年を立派な成人犯罪者に育て上げてしまうのではないかと心配です。
同じ法改正をするにしても、私たち国民みんなの、冷静で正しい認識のもとで行われる必要があるのではないでしょうか。
不幸な犯罪が起きてしまったら、それはとても残念なことですけれども、だからこそ、私たちの社会は、そこから何かを学び取っていかなくてはならないと思うのです。何も学ばず、社会が何も変わらなかったり、あるいは「学びすぎて」しまって、社会が改悪されるようなことがあってはなりません。
少年犯罪を減らすこと、もし起ってしまったら、被害者の援助はもちろんのこと、加害者がきちんと罪を認め、二度と犯罪を起こさないように更生させる、そのための努力をしたいと思います。
被害者の犠牲を無駄にしないためにも、私たちは正しく学び、少しでも良い社会を作っていきたいと思うのです。
・「少年被害者当事者の会」の方々は、大変大きな衝撃と悲しみの中にあるにもかかわらず、単純な厳罰主義を主張するのではなく、少年法の目的である「少年の健全な育成」を正しく生かしてほしいとのお立場から少年法問題を考えていらっしゃる点に、深い敬意を表します。
私たちも、マスコミも、法曹界も、もっと被害者の声に耳を傾け、その上で、冷静な判断をしていきたいと思います。
・先日、ある犯罪被害者の方とお会いしました。もう少しで命を落とすほどの傷害事件でした。犯人の刑事責任は問われていません。傷のために障害が残る可能性もありましたが、苦しいリハビリを乗り越え、日常生活に支障がないほどに回復しました。
ところが、一年以上たって、不安、悪夢、不眠など激しい精神的症状がぶり返してきました(PTSD)。誰にも相談できず、悩んでいました。その人にとって一番必要だったのは、長期的な援助だったのです。しばらく話をした後で、次の本を貸して差し上げました。
「犯罪被害者の心の傷 」 小西聖子 著 白水社 ISBN4-560-04951-3
・私は、犯罪心理学に関するページ(犯罪心理学「心の闇と光」)を開いています。加害者の心理に関する内容が分量的には多いので、ときおり、被害者の心を無視しているのかと誤解されることもあるのですが、先日、「被害者のこころ」より、メールをいただきました。リンクしたいとの、好意的なメールでした。とてもうれしく思いました。
*私たちの敵は、卑しい人権屋や、子どもの育成を無視するような人々だと思います。仮に、少年法改正に関する具体的な意見で一致できないとしても、子どもの健全育成と少年犯罪の防止と被害者保護の立場で一致できるなら(この3つは、互いに相反するものではなく、むしろ一体だと思います)、私たちは大きな目的のもとに、協力しあえると思います。そのための活発な議論を大いにしていきましょう。
子どもたちのために、私たちみんなのために。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
碓井真史
(少年法は少年を甘やかしているか・権利と義務・環境のせいか、本人のせいかなど、今考えています。これからもよろしくお願いいたします)