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CAP:子どもへの暴力を防ぐ方法


   

[ CAP(子どもへの暴力防止)]

   

 「子どもが暴力から自分を守るための教育プログラム」を進めている「CAP(キャップ)」の大人向けワークショップ(話を聞いたり、教育や訓練に実際に参加する会)に、参加しました。


CAP(キャップ)の歴史と「人権」の考え方

 1978年、アメリカのコロンバス市で起きた子どもへのレイプ事件は、住民を不安と恐怖に陥れました。ちょうど神戸の事件後と同じように、住民は様々な犯罪防止策をとったのですが、子供たちの不安と恐怖は消えませんでした。
 その中で生まれたのが、CAPです。
キャップの、C・A・Pとは、「子ども」・「暴力」・「防止」の英語の頭文字です。CAPは、子どもに「自分を守る力」を身に付けさせます。CAPのパンフレットに、こんな昔話が載っていました。
 昔、村の「めぐみの川」で、子どもがおぼれて死んだ。村人は、柵を作ろう、子どもを川に近づけさせないようにしようなどと相談する。しかし、村人達は子どもに泳ぎ方を教えることが最も重要だと気づく。この「泳ぎ方を教える」ことが、CAPの思想です。
 しかしそれは、単なる護身術を教えることではありません。子どもにも「権利」があり、その権利を守るためには、

イヤだと言おう」「逃げよう」「相談しよう」と、

励まし、訓練をします。守るべき子ども自身の権利とは
安心」「自信」「自由」です。
(権利を守ることと「わがまま」とは違うことも注意深く伝えます)
 ここで言う暴力とは、クラス内のイジメから、知りあいによる性的虐待、見知らぬ人による誘拐等の凶悪犯罪まで含まれます。CAPの目的は、子どもが自分自身を大切な存在だと感じ、自分の権利を守る力を発揮できるのだと教育することです。
 また、被害にあってしまったときには、被害者が不当に自分を責めることなく(被害者はしばしば自分も悪かったと自分を責める)、人に相談し、心がいやされることを目指します。
 大人は、この子どもの状況を理解し、子どもの話がしっかりと聞けることを目指します(しばしば、大人は子ども側の不備を責めたり、話を信用しなかったりします)。

CAPワークショップ

 ワークショップは、上記のような話に加えて、子どもに見せる寸劇を見せてくれたり、寸劇に参加したり、危険を知らせる「特別な声」の出し方を実際に練習するなど、楽しいものでした。
 このプログラムの実施によって、実際に犯罪が未然に防がれたり、犯人逮捕につながったケースがたくさんあるそうです。また、自分の心にだけ秘めて、傷ついていた被害体験を人に話すことができ、心の荷を下ろすような体験をする人たちも大勢いるそうです。
 暴力防止といっても、単なるHOW TOや、対人不信にさせるのではない点がとても興味深く感じました。大声を出したり、けっ飛ばしてでも、逃げても良いとか、見知らぬ人から不自然な依頼をされたときには失礼なことにはならないから断っても良いとか、嫌なことはイヤだと言おう、人に相談しよう、と教えるだけでは、実際には子どもは実行できないことが多いのです。
 子どもだって、安心、自信、自由の権利があって、それが犯されていると感じたときには、きっぱりと抵抗しても良いという「人権教育」が必要なのだと感じました。「子どもの人権意識を育てることによって子どもの力をつける」のだそうです。
 CAPでは、講義や説教ではなく、寸劇を見せたり、子ども自身も参加する寸劇(ロールプレイニング)などを通して、わかりやすく楽しく伝える活動を行っています。幼児向けには、人形や手遊びも使います。
 どんな犯罪防止方法でも、完ぺきなものなどないでしょうが、CAPは、すでに多くの実績があるうえに、子どもの大人も楽しく参加できます。各地区のCAPでは、ワークショップ開催の依頼を受付ています。オススメです。

被害者にならないため、加害者にならないため

 ところで、女子高生コンクリート詰め殺人事件を始め、多くの凶悪少年犯罪者達の生い立ちを見ると、たいていの場合、とても傷つくことを繰り返し体験しています(たとえば、ルポ「かげろうの家」)。その時に、自分が安心して自信をもって自由に生きていける権利を守ることができていれば、彼の人生も、被害者の人生も、きっと変わっていたでしょう。
 もちろん、だからといって彼の犯してしまった罪の責任が無くなるわけではありません。しかし、子供たちの人権を守ることは、加害者から被害者を守るだけではなく、将来の加害者を生まないことにもつながると感じました。
 また、加害者の初めのころの軽い暴力行為が、被害者側の勇気ある行動で明るみに出ることは、さらに重い暴力行為を未然に防ぐことにもなるでしょう。これは、結果的に被害者、加害者の両者の人権を守ることになります。
 CAPでは、子どもにも、このことをわかりやすく伝えるそうです。その人への遠慮から相談をためらうことが多いからです。たとえば、あなたに嫌なことをする親戚のお兄さんのことを人に話しても、それはお兄さんを困らせることではなく、逆に助けることになるのだと。

 さて、少年犯罪を防ぐために必要な環境整備には、いろいろな側面があるでしょう。その一つとして、今回、私自身が学んだことは、大人が子どもの話をしっかりと聞き、子どもの人権が守られるような環境こそが、結果的に犯罪防止へつながるということでした。
 CAPの活動は、具体的で直接的な注意や護身術のようなものを伝えるのと同時に、それにとどまらず、私たちの人権意識を高めることによって、子どもが生き生きと暮らし、そして暴力の被害を防ぐことを目的としています。上記の環境整備の具体的方策の一つとして、意義あるものだと感じました。

1998.7.16 碓井真史
リンク先など、一部加筆訂正2003.9.17

* * * * *

「ノー」をいえる子どもに―CAP/子どもが暴力から自分を守るための教育プログラム 」童話館出版 ISBN4-924938-45-9 
(CAPの基本的テキスト。日本各地のCAPの連絡先も載っています。)

エンパワメントと人権―こころの力のみなもとへ :こころの力のみなもとへ」解放出版社 ISBN4-7592-6040-4
(自分を肯定的に受け入れることの大切さと、子どもや女性への虐待や暴力について、CAPを日本に紹介した著者森田ゆり氏が語ります。)

*リンク*

CAPセンターJAPAN
特定非営利活動法人CAPセンター・JAPAN」による公式サイト
CAPのことなら、まずここへ

サイバーキャッププロジェク
CAPプログラムの普及をはかり、
子どもへの虐待、いじめ、誘拐を防止するために、
医療法人によって運営されているサイト

CAP応援のページ
自分の地域でCAPを企画しようという人のために作られた個人サイト。
自分の学校でもやってみたいという人は、ぜひここを参考に。

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少年法改正の目的と前提



このページは、もともとは、「異界にすんでいる子供たち」(現在はページ閉鎖)への投稿をもとに作成しました。

下記の文章は、上記の掲示板の投稿時のものです。

ご指摘感謝!(Re377) & CAP(子どもへの暴力を防ぐ方法)

   

 みなさん、こんにちは。今回は、少年の更生に関するご指摘へのお礼と訂正、それから、私が参加した「子どもが暴力から自分を守るための教育プログラム」のご紹介をいたします。

   

[ ご指摘感謝! ]

 

 殺人等の凶悪な犯罪を犯した少年の予後(再犯率など)は、その他のものと比較して概して悪くなく(「Q&A犯罪白書入門98」)、また 日本の少年犯罪者の再犯率の低さは世界的にも群を抜いているそうです(「神戸事件でわかったニッポン」)。

 しかし、私が前の投稿359で引用した「〜再び殺人・強盗を犯した者は、強盗に係る仮出獄者(73人)のうち3人(4.1%)のみです。」は、投稿377の米村さんがご指摘下さったように、少年ではなく、成人の話でした。お詫びして訂正いたします。ご指摘ありがとうございました。今後とも皆さまからのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

 以下の資料との混乱でした。

法務省によると、65年以後、殺人や強盗などの凶悪事件を起こした年少少年(14、15才)40人のうち、再び凶悪事件を起こしたのは、強盗致傷を起こした1人(2.5%)だけだったそうです。

 いずれにせよ、統計の数字には複雑な面も多く、再犯率や更生についても、米村さんのおっしゃる通り、正確に論じるのは難しいことだと思います。

 少年犯罪数の傾向や凶悪犯罪数の減少については、さらに述べたい点もありますので、また後日投稿いたします。


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