こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / バスジャック/裏切り
容疑者の少年は、犯行動機として「目立ちたかった」と供述しています。報道によれば、神戸小学生殺害事件にも強い関心を持っており、この事件の加害者に対して対抗心のようなものまで持っていたそうです。自分はもっとでかいことをしてやると。
乗っ取り事件は、かつては思想犯が多かったのですが、思想的背景がないばあいは、強い劣等感をもった人が起こしやすい犯罪です。(犯罪者は全般的に劣等感が強いものですが)
劣等感が強い場合、ある人は見るからに小さく、自信がなさそうにしています。しかしある人は、むしろ逆に非常に自信のありそうな態度をとります。劣等感が強く、自身がないからこそ、強いふりをして、自分を守ろうとするのです。
弱いイヌほどよく吠えるというやつですね。やたらと暴力で人を脅したり、財力や家柄や社会的地位などを誇示して威張る人の中にも、こんな人がいそうです。
人に批判されたり、バカにされたりすると、彼らは非常に怒ります。自分の劣等感が刺激されるからです。心の底に自信のある人は、ゆったりと構え、他人から攻撃されても過剰な反応はしません。
さて、地位であれ、お金であれ、容姿であれ、弱い心を守る鎧(よろい)を持っている人はまだいいのでが、そんなよろいを持たず、でも劣等感につぶされそうな心を守るために必死になる人の中には、犯罪を犯してしまう人もいます。
包丁を振りかざせば、相手はおびえて逃げ回り、自分は優越感を持つことができます。
さらに、乗り物を乗っ取れば、乗客全員と大きな乗り物を自分の思いのままにできます。閉じられた空間の中で、王様として振る舞うことができるのです。人質をとって、様々な要求を出すことができます。事件が解決するまで、大きく報道され続けますから、とても目立つことができますし、まるでヒーローになったような気分が味わえ、歪んだ優越感への欲求が満たされるわけです。
今回の事件でも、彼は15時間の間は、支配者として思うままに振る舞うことができました。
目立ちたいというのは、注目されたい、認めてもらいたい、愛されたいという欲求から生まれたものです。人は誰でも人から愛されたいと思います。その愛情欲求が自然に満たされている人はいいのですが、満たされないときには懸命な努力をします。
「良い子」や「かわいい子」を演じたり、「優等生」や「模範社員」を演じることもあるでしょう。
時には、犯罪さえ起こしてしまいます。振り向いて欲しいために非行に走る少年もいます。仲間からの愛と尊敬を得るために、危険な暴走をする少年もいるでしょう。
愛への飢えは、強烈に私たちの心を襲います。
バスジャックをした少年は、初めは丁寧な言葉を使っていたようです。ところが、命令に従わず、バスから逃げた人が表れると、とても乱暴な言葉と行動にでます。
自分が王様の地位から引きずり下ろされることに我慢ができないのです。プライドがとても傷つけられたと感じます。
愛が満たされているとき、私たちは周囲の人たちが多少自分の思いい通りになってくれなくても、寛容に許すことができます。ところが、病的な愛情欲求を持っている人の中には、ほんのささいな約束違反ですら許せず、裏切られたと強く感じて激しい暴力を振るう人もいます。
田代信維・九州大医学部付属病院教授のは、毎日新聞紙上で次のように語っています。
「「裏切り」は事件のキーワードでないか。「裏切り者」と切りつけたのは処罰や見せしめであり、断固許さないという態度だ。一方で従順な少女には優しい。裏返せば、強い愛情要求があるといえる。」
自分の妻や恋人に対して、普段はべたべたとやさしくするのに、少しでも思い通りにならならないと、(裏切られたと感じて)暴力を振るう男性も心も、基本的には同じかもしれません。
本当は、私たちみんなが、無理をしなくても自分は愛されているという実感を持つことができれば、一番良いのですが。
(5.11)
少し加筆5.12
「親に見放され」孤立感
5.12の報道によると、少年は、病院から2度目の外出が許可されたとき、希望するドライブに連れていってもらえず、「親に見放されたように感じた」と語っています。
普通であれば、この程度のことで、親に見放されたなどとは思わないでしょうが、この少年は、そこまで思い込んでしまったわけです。
警察によると、いじめなどによって孤立感を持っていた少年が、親に無理に入院させられてことで不満を感じいたところで、さらに親に見捨てられたと思い孤立感を深め、そこへ豊川の主婦刺殺事件が発生し、「先を越された」と思い、犯行に及んだ可能性が高いと考えられています。
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