心理学総合案内「こころの散歩道」/ 犯罪心理学 /少年犯罪の心理 /長崎誘拐殺人事件 (HPから本ができました。『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』)新潟青陵大碓井真史

少年犯罪の心理
長崎男児誘拐殺人事件

の犯罪心理 2

子ども達の未来のために、では、どうすればよいのか。

反省のための少年法・地域と学校を支えよう・思春期危機を乗り越える


2003.7.12(7.13補足)

少年犯罪の心理 長崎男児誘拐殺人事件 の犯罪心理(1)

この事件に関する続報が続いています。

殺害場所までの過程

 03.7.12の報道によると、少年は、自分がはじめにゲームセンターで遊んでいたところ、偶然やってきた男児に声を掛け、連れ去っていたようです。そして自分の中学校の制服を着たまま、市電に乗り、アーケード街に着いてからは数店に立ち寄った後、殺害現場の立体駐車場に向かったようです。
 大胆といえるかもしれませんが、やっり子ども、何も考えていないともいえるでしょう。警察によれば、補導の決め手になったのは、目撃証言だそうです。

殺害時の様子

 12日の警察発表によると、少年は立体駐車場の屋上で男児をを裸にして、性的ないたずらをしようとしようとしましたが、男児は抵抗して騒ぎました。この時もみ合いにとなり、男児は引っかき傷などを負ったようです。

 少年はカッとなり、男児をを抱え上げて手すりに乗せ、突き落としたとみられています。少年はその後、下に降り、男児の様子を見ましたが、頭から血を流して動かなくなっているのを見て、怖くなり、そのまま逃げたようです。

 このとおりだとすれば、殺人自体を目的とし、殺人に気持ちよさを感じる「快楽殺人」ではなかったようです。ついカッとなり前後の見境がなくなってという殺害自体の動機としてはもっともよくあるパターンだったようです。(神戸小学生殺害事件の場合は、快楽殺人と見られています。)

 犯行は計画的ではなかったようです。

 報道によると、捜査関係者は「明確な殺意があったわけではないだろうが、発作的衝動を抑えきれなかった末の悲劇」とみているそうです。

 少年は、殺害現場の立体駐車場についた後は、「自分が何をやっているのか分からなくなった」と話してるそうです。

補足(7.13)

 報道によると、誘拐まではある程度の計画性があったのではないかと見られています。少年はあらかじめ凶器のハサミを用意したうえで、言葉巧みに男児を誘拐。服を脱がせ、傷をつけたことで、予想以上の抵抗をされ、発作的に突き落としたのではないかと考えられます。

少年について

「おとなしい感じ」 「成績優秀」 「頭が良かった」 「普通の子」 「いい子」
 少年は、トップクラスの成績だったようです。それと同時に、カッとなると見境がつかなくなると語る人もいます。

しかし、それと同時に、

 小学校時代の担任教諭は、指導記録に「情緒不安定」と指摘していました。

 弁護士によると、少年は身長1メートル65前後あり、肩幅が広くがっしりした体格だそうですが、顔つきは、「こんなに幼い顔をしているのかと」驚くほど子どもっぽいということです。

 少年は、被害者に関しては次のように話しています。

「(人生の)先をなくしたことは本当に申し訳ない」

「言いたいことはあるけれど、うまく表現出来ない」


少年法 (2) 反省させるために

 12歳の少年に刑事責任を問えないことに怒りを感じていらっしゃるかたがたくさんいます。
 たしかに、被害者側ができるだけ重たい罰を求めることは当然のことです。
 ただ、刑事罰に問えないというのは、何もしないということではありません。
 少年法は、刑罰ではなく、保護、教育、とうい観点から少年にアプローチしますが、何の制裁も加えられないわけではありません。
 少年の中には、補導され、身柄を拘束され、鑑別所や児童自立支援施設、少年院などに入って、始めて自分の犯した罪に気づく人もたくさんいます。

 何らかの制裁と、教育的、医学的、心理学的アプローチの、両方が必要ですし、少年法にはその2側面があります。
 少年法が少年を甘やかしているという批判も良くありますが、たとえば、レイプの場合、大人の成人であれば普通は実刑を受けることはまれなようですが、少年であれば、まず少年院へ行くことになるようです。
 大人の裁判ですと、弁護人が被告(加害者)の側につき、被告をかばい、場合によっては、裁判の戦略として、被害者側の落ち度を責めることもあります。
 しかし、少年法による審判は違います。弁護人も含めて、その場にいる大人たち全員が少年の反省、更正のために動きます。
 少年達は(未熟な大人も沿うかもしれませんが)不用意に罰を与えられると、反省するどころか、ひねくれ、逆恨みし、大人や社会を嫌うようになってしまいます。
 少年司法に関わる人々は、そんなことにならないように、懸命に努力をしています。少年が何とか深く反省できるようにと。
 今回の事件でも、被害者のお父さんは、「少年には一生賭けて反省してほしい」と語っています。
 その願いがかなうように、祈っています。

いろいろな人たち

○ また今回も、ネット上に実名と顔写真が出てしまいました。携帯電話を使って情報も広まりました。別人の写真も使われてしまいました。
 こういう人たちは、明確に現在の少年法を批判するつもりでこんなことをしているのでしょうか。多分違うのでしょう。みんな匿名でしょうし。
 近頃の子ども達はと怒り、被害者の子どもががかわいそうだと叫び、子どもを甘やかすな、ルールを守れといっている大人たちが、いったい何をしているのでしょう。

○ 少年の所属する中学校には、「殺人者を育てる学校か」「責任を取れ」など、嫌がらせの電話や、ネット上の書き込みが殺到したそうです。ホームページは閉鎖されてしまいました。

 テレビカメラなどで撮影されるのを避けるため、窓を閉め切って授業をしており、暑さで気分が悪くなる生徒も出てきています。水泳の授業も取りやめになりました。

 この人たちの目的は、何なのでしょう。被害者保護と、犯罪防止のことを考えているのでしょうか。

○ 被害者家族の人権が守られていないのだから、加害者家族のプライバシーも暴くべきだと考えてしまった偉い人もいるようです。

 私は逆だと思います。加害者側への人権配慮がなるのなら、当然、被害者側への人権配慮はなおさらあるべきであると。


子どもと町を守ろう。(2) みんなで支えよう。

 報道によると、少年が通っていた中学校では、普段の2倍の生徒が欠席しています。
 この中学校では、クラス担任とスクールカウンセラーによる面談が進められています。
 多く生徒たちが、「疲れた」と語り、「眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「学校へ行きたくない」「(自分の中学校の)制服を着たくない」「イライラする」」「外部の人の目が怖い」と話す人たちもいます。過敏、不眠、怒り、恐れ、イライラなどの症状が出ています。

 同校の校長は「事件に加え、報道陣の取材の影響もある。子供たちの不安を取り除き元の生活に戻れるよう心のケアに取り組みたい」と話しています。

 スクールカウンセラーによって、保護者向けの子どもの接し方に関する研修も予定されています。

 教員の間にも、疲労感がたまっています。

 地元長崎新聞には、地元の臨床心理学者、鹿島達美教授の「不安の拡大を防げ」という以下のようなコメントが掲載されていました。 http://www.nagasaki-np.co.jp/press/yuusatu/07/49.html

 「不安」を感じるのは普通のこと、そのことを理解しよう。教員の間にも罪悪感や無力感で苦しみ人もいる。、その不安や苦しみを、お互いに話そう。その受け皿作りが大切だ。学校でも、地域でも、このような出来事の後に人々の心がどのように不安定になるのかを知っておくことは大切だ。

 学校や中学生への非難中傷もあるが、大人不信、社会不信を招きかねない。

 子どもが子どもを殺してしまった。これは最悪の事件です。今、司法関係者は必死に真相解明を目指しています。これだけ注目されている事件です。いいかげんになどできません。法で許される最大限のことをしていくでしょう。精神鑑定も行われる見込みです。
 さて、子どもが殺されたことで強い怒りを感じているみなさん。もちろん、直接の被害者とご遺族の保護が一番なのですが、今、長崎市に、そして彼の通っていた学校に、とても傷ついている子ども達がたくさんいます。
 子どもたちを支えるのは、家庭や学校の役割です。その学校や家庭を支えるのは、地域の役割です。さらに、私達社会全体の役割でしょう。
 私達みんなで、地域を、学校を、家庭を、支えていきましょう。

思春期危機

 小学校高学年から、中学のあたり、第二次性徴がはじまる思春期のころは、人生の中でも不安定になりやすい時期です。「思春期危機」なとと言われることもあります。
 まず、体の変化に直面します。性の問題に直面します。子供でもない、大人でもない、中途半端な時期です。親子関係も変わっていきます。心と体がアンバランスになるのです。
 自分自身に目が行き始め、迷い、劣等感に悩むこともあります。
 子供時代を終えることで、多くのものを失います。そして、多くのものを獲得していかなければなりません。
 誰しもが経験する思春期の迷いですが、問題がこじれると、思春期危機などと呼ばれ、暴力、反抗、自己破壊行動、自己評価の動揺、気分の変動などがあらわれます。
 たいていの場合は、一過性のものです。(一時的なものです。)
 あなたも、中学生の一時期、そんなことはありませんでしたか。でも今は、それを乗り越え、ふつうの落ち着いた大人になっていますよね。
 良くある思春期の迷いではなく、危機的な問題が生じてしまったときには、一時的に、少年をプレッシャーから解放し、楽にさせてあげることも大切です。
 単なる正論や道徳的お説教ではなく、むしろ受容的、共感的態度も必要です。
 その中で、少年達は本来の力を取り戻し、正常な自立へと向かっていくことでしょう。
 必要があれば、親、担任だけが問題を抱え込まず、児童相談所、精神科なども、上手に活用でいればと思います。
 今回の事件でも、こんな大事件になる前に、だれかが少年の心の葛藤を受け止めることができていればと残念です。(それは簡単なことではありませんが)
 彼は一生懸命勉強し、すばらしい成績をとり、がんばって良い子になっていたのでしょうが、でも、本当に苦しいときはそんなこと動でもいいから、自分の心の問題を話すことができていればよかったのですが。

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フジテレビ03.7.10『とくダネ!』に出演。この事件に関してコメントしました。
NHKテレビ『視点論点』ウェブマスター出演 「犯罪心理学・心の闇」

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一般的な犯罪の心理、殺人の心理などはこちら。



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