心理学 総合案内 こころの散歩道/犯罪心理学/引きこもり男性両親殺害事件
2004.10.19
〜互いに支えあうために〜
キーワード:殺人事件 社会的引きこもり 親殺し 社会的支援 精神保健
2004年10月19日、大阪市の男性(36歳)が、自宅で両親を殺したと自首してきた。父親は66歳、母親は61歳で数年前から寝たきりの状態。一家の収入は父親の年金だけだった。
男性は、「自分にかい性がなく、家族3人の将来が不安だった」と供述している。
情報によれば、父親は「そろそろ息子にも働いてもらわねば」と近所の人たちに話していたと言う。
厚生労働省では「ひきこもり」を次のように定義しています。
「とくに精神的な障害がきっかけではなく,自宅や自室に 6 か月以上の長期間ひきこもって社会参加できないでいる中学卒業段階以降の青年の状態。」2000厚生労働省
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%88%F8%82%AB%82%B1%82%E0%82%E8&kind=jn
実際に引きこもり状態にある人の中には、何か特別な心の病になっている人もいるでしょうが、その場合には、病気の治療という問題になり、いわゆる社会的引きこもり問題とは別に考えられます。
引きこもっている人の中には、完全に自室に引きこもり、家族と顔を合わせることすらしない、言葉を交わすことするしないという人もいます。
家族とは会話をしている人や、買い物や遊びでで外出する人もいます。しかし、仕事もせず、学校へも行かず、親しい友人もいないといった、社会とのつながりを失っている状態を、引きこもりといいます。
日本には、引きこもりの人が、80万人いるとも、100万人いるとも言われています。
100万という数は、すごい数です。これは、少しも珍しくないことを意味する数です。
家族が誰にも言わなければなかなかわかりませんが、100万人近く存在すると言うことは、おそらく読者のみなさんの中にも、親戚や、近隣、あるいは友人の親戚や近隣と広げていくと、身近にこの問題を抱えている家族がきっといることでしょう。
かつては、引きこもりといった問題が存在していることすら世間の人々はすらずに、医療や福祉のはざまで、家族は誰からの援助も受けられず苦しんでいました。
現在も、まだまだ不十分な形ではありますが、以前に比べれば、各地の保健所や精神保健福祉センターが相談に乗ってくれたり、親の会ができたり、民間ボランティアによる支援団体ができたりしています。助けてくれるところがあります。
詳しい動機など、まだ何もわかってはいません。
父親は息子にそろそろ働いてもらおうと考えていたという情報もあります。
息子であるこの男性は、、「自分にかい性がなく、家族3人の将来が不安だった」と供述しているといいます。ここから先は想像ですが、
当初は衝突も会ったこの親子も、20年にわたる引きこもりの中で、ある意味安定した状態が作られていたのではないでしょうか。
ところが、父親が退職し、経済的にも苦しくなっていく中で、事件の前に何かがあったのかもしれません。働いて欲しいという父親と息子が口論になったのかもしれません。
引きこもっている人は、特別な病気なっているのでなければ、社会に出なければならないことは十分にわかっています。
この十分にわかっていて、自分自身苦しんでいることを、真正面から言われるととても苦しくなります。
しばしば大上段に構えた正論は、何の効果ももたず、かえって相手の怒りを爆発させることにもなりかねません。
いつかは社会に出なければと考え続けてきたのに、彼は今回、もう自分自身もこの家族もおしまいだと、考えてしまったのかもしれません。
引きこもりの問題を抱えている家族の中には、その家族自体が社会から引きこもっていることもあります。こんな子どもを抱え、恥ずかしく、社会との交流などできないと思ってしまうのです。この2重の引きこもり状態が、問題をさらに悪化させます。
今回のご両親は、社会とのつながりを持ちつづけていたのでしょうか。どこかに援助を求めていたのでしょうか。
今回の事件。たとえば、「引きこもり男、両親を殺害!」のように報道されます。同じ悩みを抱えているご家族は、どんな思いでこの報道に触れているでしょうか。(ひきこもりの人のほとんどは、犯罪とは全く無縁の人々です)
事件を通して、世間の引きこもりに対する偏見がさらに増し加わったり、ご家族がさらに世の中から隠れるようになってしまうとしたら、こんなに残念なことはありません。問題改善のための逆効果でしかありません。
そうではなくて、今回の事件を通して、引きこもりの問題を社会全体tの問題としてさらに考えていけるようになりたいと思います。
今回の事件を通して、ご家族の皆さんが、社会に向けて援助を求めるきっかけになってくれればと思います。
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引きこもり親の会・新潟支部の集まりに講師として参加したことがあります。
研修会後の懇親会で、私の隣に座ったご両親は、この10年間、同じ家に住んでいる息子の顔を見ていないと語っていました。今回、初めて参加されたそうですが、「来て良かった、来て良かった」とおっしゃりながら帰っていかれました。
会のスタッフの方が言っていましたが、まだまだ問題を家族だけで抱えている人がいます。集会の案内を見ながら、毎回、行こうか行くまいかと悩んでいる家族がいます。
子どもを支えるのが親の役割です。そして、その親を、その家族を支えるのが、私たちの役割ではないでしょうか。
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NPO法人全国引きこもりKHJ親の会
京都府精神保健福祉総合センター 心の健康のためのサービスガイド(社会的引きこもり)
ひきこもりのページ(リンク集)
『社会的ひきこもり―終わらない思春期 』PHP新書 (065)
斎藤 環 (著) 690円 まず最初に読みたい本
ひきこもりに関する本 青年たちを救うために、両親を支えるために
新潟青陵大学 看護福祉心理学部 福祉心理学科
心理カウンセリングコース 碓井真史
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