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兵庫加古川7人殺害事件
大量殺人の犯罪心理

2004.8.3

〜被害者とご遺族と、地域の皆さんのために〜

コンテンツ:事件・複数殺人の心理・大量殺人と連続殺人の心理・津山30人殺し(八つ墓村)・容疑者の男性、事件の兆候・事件は防げなかったか・警察、保健所、措置入院、ひきこもり、守ることの大切さ

事件

 2004年8月2日未明、兵庫県加古川市の静かな田園地帯で、事件は起きた。47歳の男性が、自宅に隣接する2件の家を襲い、2家族7人を包丁で刺殺した。

 男は事前に電話線を切断、数本の包丁とガソリンを準備していた。

 男性は、犯行後に弟宅を訪れて犯行を告白し、「母親のことは頼む。わしは死ぬ」と語り、車で逃走。その後、道路上で電柱に激突し車は炎上、男もやけどを負っている。事故現場にブレーキの跡はなかった。
 
 男は逮捕後に次のように語っている。

「長年の恨みがあり、包丁で人を刺した。自宅に火をつけた。自分も死ぬつもりだった」
「20年以上前から(殺害した相手に)恨みを持っていた」

「(自分が自殺して)母親が残され、世間のさらし者になるくらいなら(火事で)死んでもいいと思った」

複数殺人の心理

 人殺すということは、大変なことです。そう簡単に殺せません。殺してしまった人は、枕もとに幽霊が出たりします。と感じるほどに、人を殺したことで、大きな不安や恐怖を感じます。
 たいていの場合、殺すのはよほどの理由があるか、あるいは、ついカッとなって殺してしまったというケースです。ですから、必要最低限の人、一人しか、普通は殺しませんし、理性を失い一人を殺してしまったときに、我に返り、怖くなって逃げ出したりするわけです。
 日本の全殺人者のうち、複数を殺してしまったのは、全体の1パーセントだけです。(欧米では数パーセントになることもあるが、それでも少数派)
 それではなぜ何人もの人を殺してしまうかといえば、

薬物中毒や、妄想などが絡んでいるケース。激しい怒りや恨みが絡んでいるケース。快楽殺人や、性犯罪の関連したケース。あるいは、特殊な思想や宗教が絡んでいるケースなどがあります。
 今回のケースでは、まだ動機は分かりませんが、近所の話によれば、被害者らは恨まれるような人ではないといいます。
 近所の人とはは、ささいなことで、言いがかりともいえるトラブルが発生しています。
 これはまだ想像ですが、彼の心の中では、事実に反して、周囲の人間が全部敵に見えていたのかもしれません。

大量殺人と連続殺人の心理

 同じ複数の人を殺すといっても、同時に多数の人を殺す「大量殺人」と、期間をあけて、次々と殺害する「連続殺人」とがあります。

連続殺人

 快楽殺人(人を殺すこと自体に快感を感じる)などを理由とし、一人を殺した興奮が収まるころ、次の殺人計画を練り始めます。被害者は、通りすがりの無関係な人間である場合が多いようです。
 犯行は、警察をあざ笑うかのように、巧みに行われ、逮捕を免れていきます。

大量殺人

 一人を殺害した後、その興奮が収まらないうちに、次々と殺害していきます。犯人は、人生に絶望しているかのように、犯行後はまもとまま逃亡計画なども立てず、その場で自殺するか、すぐに逮捕されます。

 被害者は、同じ地域住民、同じ学校や会社の人間、家族などのケースが多くなります。

 異常な妄想を持っていたり、爆発性の人格異常、復讐や怒りなどの激しい感情を持って犯行にいたります。


津山30人殺し(八つ墓村)

 兵庫の隣県岡山で昭和13年に発生した事件。小説や映画(「八つ墓村」)にもなった有名な事件です。

 今回の事件との類似性が指摘されていますが、この事件の男性も、客観的に見ればそれほどの理由は見当たらないのに、激しく村人達を恨みつづけていました。
 事件の日の未明、彼は、電線を切り、武器と懐中電灯を身につけ、村の家々を次々と襲い、30人を殺害し、その場で遺書を残し、自殺しました。

容疑者の男性、事件の兆候

 報道によると、容疑者の男性は子どものころから落ち着いて座っていることが苦手でした。家庭内では暴力をふるい、しだいにエスカレートしてきます。父親は息子の暴力を恐れ、十数年前に家を出てしまいました。
 男は全寮制の高校に進学しますが、中退し、職についても長続きしませんでした。最近はあまり外出もしなかったようです。

 暴力は近隣にまで及び、レンガを投げたり、包丁を振り回したりすることもありました。親類である今回の被害者である一人の男性も、以前なぐられたこともあります。
 このときには、警察への通報もありましたが、母親が「警察にはいわんとって」と泣いて頼んだために、警察官には帰ってもらいました。
 近所の住民は、この男性のことで悩み、集まって相談することなどもありました。しかし、警察に相談しても、「実害がないと何もできない」と断られ、パトロールを増やす程度の対策しかとることができませんでした。

事件は防げなかったか

 もしも、高校を中退した段階で、人生をやり直すことができていたら、今回の事件はおきなかったでしょう。
もしも、家庭内暴力がひどくなり、父親が家を出ざるを得なくなったとき、適切な援助を受けていれば、今回の事件は起きていなかったでしょう。
 以前のトラブルのときに、きちんと警察沙汰にしていたら、事件は起きなかったかもしれません。
 どこかの段階で、専門家が介入していたら、事件は起きなかったかもしれません。
 落ちつきがない(多動傾向?)と言われている子ども時代に、彼がもう少し違う体験をしていたら、事件は起きなかったかもしれません。
 47歳、無職の息子。遊びまわるわけですらない。夫も家を出てしまった。そんな状況で、必死になって息子を守ろうとする高齢の母親。
 このお母さんを、誰かがどこかで、もう少し違う形で助けることができていたら、今回の事件は起きなかったかもしれません。
 すべて、今にして思えば、ですが。
警察。住民からの話は聞いていましたが、実害のある事件は起きていないので動けないと言っていたようです。
保健所。3年前に住民の相談を受けていましたが、「措置入院」はできないと判断していました。
家族。親類。もちろん、この男性のことで、悩み、苦しんでいました。
関係者のみなさんは、決して何もしなかったわけではなく、努力を重ねていたのですけれども、結果的には、有効な方策をとることができませんでした。

警察、保健所、措置入院、ひきこもり

 私は以前、東京都精神科救急受付のアルバイトをしていました。警察官に「保護」されて病院は連れてこられ、「措置入院」(強制入院)というケースもたくさん見てきました。
 何らかの精神障害のために、「自傷他害のおそれ」があると判断されると、措置入院の可能性が出てきます。措置入院は、本人が拒否しても、家族が同意しなくてもできる、強制入院です。
 今回の事件では、3年前に措置入院はできないといわれたようです。「自傷他害のおそれ」が明確でないと判断されたか、あるいは入院が必要な精神障害ではない(たとえば、ただの乱暴者、短気など)と判断されたのでしょう。
 危険なのだから入院させろとおっしゃる方もいるかもしれませんが、簡単に病院へ強制入院させられてしまうような社会は、決して良い社会ではありません。
 今回の場合、彼に何らかの障害があったのかどうかも分かりませんが、措置入院がだめでも、何とか本人を説得して、本人の意思で入院という方法もありました。
 また、措置入院ではありませんが、本人がどんなに拒否しても、家族が依頼して入院させるという方法もありました(医療保護入院)。ただしこの場合、もちろん家族の協力が必要です。
 容疑者の男性は、外出はしていたようですが、仕事をするわけでもなく、学校へ通うわけでもなく、趣味のサークルや、ボランティア団体に所属するわけでもなく、仲の良い友人がいるわけでもなかったようです。その意味では、社会的な引きこもりといえるかもしれません。
(ひきこもりの人のほとんどは、犯罪とは全く無縁の人々ですが)
 引きこもりの問題は、長く注目されることがありませんでしたし、医療や福祉のはざまにありました。しかし、現在では保健所や、ボランティア団体など、扱ってくれるところも増えてきたようです。
 まだ犯罪者ではないので、警察ではだめ、病気ではないので病院や保健所もだめ、そうだったとしても、みんなが困っていたことは事実ですから、関係者が連携が取れなかったのかと、残念です。
 家族がまだ若く、意欲もあり、体力も、経済力も、情報収集能力もある場合には、さまざまな手法も考えられるのですが、親が高齢になってくると、なかなか難しい面もあるでしょう。

守ることの大切さ

 容疑者の母親は、きっと深く息子のことを愛していたことでしょう。警察が来た時も、泣きながら、「警察にはいわんとって」と懇願しています。
 高校を中退し、仕事も上手くいかず、中年になってしまい、親戚、近所ともトラブル続き。きっと、息子のことが不憫だったのでしょう。周囲に対しても、さぞかし肩身が狭かったことでしょう。
 母親は何とか、息子を守りたいと考えたのでしょう。
でも、方法を間違えてしまいました。
もしも警察沙汰にしていれば、もしも医師に見せていれば、事態は変わっていたかもしれません。
 容疑者の男性は、加害者として、ものすごく悪いに決まっているのですけれども、彼も、おそらくずっと苦しんでいたのだと思います。
 学校も、仕事も、自分の思い通りにならない、みんなが自分を邪魔者にする(その原因は自分自身が作っていたとしても)。暴力をふるっても、きもちはすっきりせず、ますますイラついていたかもしれません。
 彼を正しく守ることができていればと思います。
 今回のような重い事件ではありませんけれども、万引きをした自分の子どもを引き取りに警察へ行き、謝るどころか、警察や店に文句を言う親もいます。

 校内で悪いことをした生徒を反省させようと、せっかく教師ががんばっているのに、ウソをついてまでして、子どもをかばってしまう親もいます。

 子どもを守ろうとしているのでしょうが、もちろん逆効果です。
 子どものことで、親にがんばってもらわなければならないのですが、親も辛いのです。私たちが親を守ることができればと思います。
 子どものことで困っている家族を守るのが、地域の役割です。でも、大きなトラブルが起これば、地域も傷つきます。
 今回の事件でも、地域住民に「深い喪失感」と報道されています。努力をしてきたのに上手くいかなかった、とても良い人が殺されてしまった、大勢の警察、マスコミ関係者が町に押し寄せている。住民の心も深く傷つきます。
 同じ地域の中に、加害者とその家族、被害者とそのご遺族がいます。親類に家族を殺された苦しみ。想像を絶するものがあります。心が癒されるのには、長い長い時間がかかります。共に悩み苦しみ、共に歩んでいこうとしている友人や近隣の人々がいることでしょう。
 互いに支えあい、立ち直ろうとしている地域のみなさん。その方々をを支えるのが、私たちの役割ではないでしょうか。
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