新潟青陵大(碓井真史) / 心理学総合案内こころの散歩道 /犯罪心理学/ 川崎小3転落死

犯罪心理学:心の闇と光

川崎小3転落死の犯罪心理

まじめ男の快楽殺人?

2006.4.3

夢のようなお部屋を・リストラ?・拡大自殺・なぜ子どもを投げ落としたか・快楽殺人・なぜ同じマンションにまた・犯行は防げなかったか・

ウェブマスターのコメントが毎日新聞に掲載されました。
TBS「報道特集」スタジオでコメントを述べました。(4.2)

事件の概要

 06.3.20、川崎市多摩区のマンションで小学校3年生の男児が投げ落とされ殺害される。9日後には、同じマンションで68歳の女性が投げ落とされそうになる。犯人と思われる男性の姿が防犯カメラに写され、報道される。男性(41)が警察に出頭、逮捕される。
 容疑者の男性は、殺そうと思って投げ落とした。また同じことをやろうと思った」と供述している。

容疑者の男性

第一報では、ほとんど、よい評判しか聞こえてきません。まじめで仕事熱心で、顧客からの評判も最高です。近所でも悪い評判はありません。子ども思いの子煩悩なお父さんです。
彼は、高校卒業後、理容師の資格をとり、後に独立して店を持ちます。しかし店をたたむこととなり、不動産会社のサラリーマンとなります。その後、別の不動産会社に務め、その会社のカーテン店に勤務し、店長となります。この店は、完全予約制で、なかなか高級なカーテンを扱っているようです。お客様のご要望をお聞きし、すてきなお部屋作りをしていたようです。
彼は、店のブログとメルマガの執筆を担当します。この数年で、何百ページもの文章を書いています。私も一部読ませてもらいましたが、文章からは、仕事を愛し、生きがいをもって働いている雰囲気が伝わってきます。
この文書の中で、ときおり家族の話題が出てきます。子どもが受験だとか、交通事故にあったことなど、子ども思いの一面が見られます。
1年半前に家を新築し、引っ越してきます。しかし、昨年9月退職、その後精神科に入院(うつ状態だったようです)、退院してきて、今回の事件を起こしました。

夢のようなお部屋を

 彼が書いていたブログの中で、私の目にとまったのは、「ホテルのスイートルームのような夢のお部屋」を提供しましょうという部分です。
 彼の仕事への思いが伝わってくるようです。
 夢の部屋。それは、かれが自分自身の人生にも思い描いていたことかもしれません。みんなに喜ばれる仕事をし、良い家庭をつくり、すてきなマイホームを立てる。彼は、一生懸命努力し、100点満点の人生を夢見ていたのかもしれません。
 しかし、仕事が上手くいかなくなります。家庭にも複雑な事情があったようです(マスコミの方からお聞きした情報がありますが、ほとんど報道されていないようですのでここで具体的に書くことは控えます)。
 マイホームを建てました。あの場所で、あのくらいの家だと、価格は4千万円ほどだそうです。ローンを組んで買ったのでしょうか。あの家はどうなるのでしょうか。
 夢が一つずつ壊れていったとき、彼の心は追い詰められていたのかもしれません。

リストラ?

第一報では、本人の供述から会社をリストラされたと報道されました。しかしその後、解雇はしていない、自己都合で退職したと会社は発表しています。
近年彼の勤務状態が思わしくなくなり、欠勤が増え、約束を守れないことも多くなったそうです。それでも、会社としては立ち直りを待ったと言うことですが、本人から退職の意思を伝える「メール」が来て、退職したということです。
リストラと言うのは、おそらく彼はウソをついたのではないでしょう。形式上は自己都合の退職だが、主観的には辞めざるをえないように追い詰められたと感じていたのではないでしょうか。
ここで何があったのかはわかりません。かなりいいかげんな人間だったのだろうとコメントしている人もいますが、あるいは、このときすでにうつ状態になり、仕事ができなくなっていたのかもしれません。もし、そうであったとすれば、一番苦しんでいたのは本人でしょう。

彼の心境:自殺への思い

うつになるひとは、多くの場合まじめな努力家です。彼もそうだったようです。努力を重ね、100点満点を目指す人にとって、それが崩れたときの衝撃は大きなものです。
ほんとは、80点でも十分なのですが。
彼はすべてが壊れていくと感じたのでしょうか。そのとき、まだ大丈夫だ、少しずつ直していけばよいのだと思えればよいのですが、彼は絶望してしまったのかもしれません。
自殺を考えたこともあると彼は語っています。(うつ状態になると死への思いは、一つの症状として現れることがあります。)
彼は自らの死を考え、自分の人生を捨て、さらに、この社会全体に絶望し、社会全体を捨てようとしたのかもしれません。

拡大自殺

今回の事件はうつ状態だから起こした事件ではありません。決してそんなことはありません。うつの人々はまじめです。むしろルールを守ります。他人を責めるよりも自分を責めることがおおいでしょう。うつが重いときには、寝込んでしまい、何もできません。ただ、うつ状態から自暴自棄になり、犯罪行為へ向かうことはあるでしょう。
たとえば、会社をリストラされた人が、慢性的な抑うつ状態となり、すべてに絶望し、会社を恨み、会社に乗り込んで刃物を振り回すような事件がおきています。アメリカであれば、元の職場で銃を乱射する事件などがおきています。
学校に恨みを感じ、生徒や教職員を狙った人もいます。
彼らは逃亡する気はほとんどありません。むしろ、自分の命など終わりにしたいと感じます。しかし、ただ自殺するのではなくて、「一発大逆転」をねらった大それたとこをしでかすkとがあります。事件を起こし、感情を爆発させ、そして死刑にしてくれというわけです。
最初から自分の死ぬ気の犯行であり、「拡大自殺」と呼ばれています。
今回の事件の男性にも、まとまに逃亡する気はなかったように見えます。あっさりと自首し、あっさりと殺意を認めています。ふつうの犯人なら逃げるとするでしょうし、殺意をごまかそうとするでしょう。
もしかしたら、彼の中にも誰かを殺し、自分自身のことも終わりにしたいという思いがあったのかもしれません。

なぜ子どもを投げ落としたのか。

犯行と殺意自体は認めたものの、この肝心な部分については、彼はまだ沈黙しているようです。
これは想像に過ぎませんが、かれはドラマ化何かで人が落ちていく姿を見たときに、「快感」を感じたのかもしれません。
仕事も何もかもだめになり(と感じ)、絶望し、何の喜びもない彼にとって、人が落下し死んでいく姿を見ることが、唯一の喜びだったのかもしれません。
彼の頭の中ではその歪んだファンタジーがどんどん大きくなっていきます。空想やドラマだけで満足できていればよかったのですが、しかしもはや現実世界には、かれを歪んだファンタジーから引き戻すだけの力はなかったのでしょう。
彼はとうとう空想やフィクションだけでは満足できなくなり、実際に人を投げ落としてみたいと考え始めたのではないでしょうか。
彼は実行に移します。
悲鳴をあげながら落ちていく子どもの姿を、彼は見ていたことでしょう。
地面に叩きつけられる姿を、彼は見ていたことでしょう。
(犠牲者のご冥福をお祈りいたします)

なぜまた同じマンションに

9日後、彼はまた同じマンションに向かいます。同じ犯行を企てます。常識的には、こんなことはしないでしょう。とうぜん警備が厳しくなっていることは予想がつきます。犯人としては危険すぎる行為です。彼はそんなに愚かではなかったはずです。
子どもを投げ落とし、その姿を見たとき、おそらく彼は強い快感を感じたことでしょう。
これもまだ想像ですが、彼はこの自分の性癖をこれまで自覚していなかったのではないでしょうか。動物や人を苦しめて楽しむといったことなど、これまではしたことがなかったのかもしれません。
最初の犯行で、はじめて人を投げ落とし殺したときの、彼にとってはすばらしい快感。この快感を彼はもう一度味わいたいと思ったのでしょう。
自分の性癖をよく理解すらしていなかった彼は、同じ快感を味わうためには、同じ場所で同じ事をしようと考えたのかもしれません。
彼にとっては、もう逮捕の危険性などたいしたことではなかったのかもしれません。あの快感の前では。
快楽殺人?
いわゆる快楽殺人者と言われる人々の場合は、人を殺すことで性的な快感を得ています。今回の事件ではどうなのかはわかりません。ただ、何らかの快感を感じたのは事実でしょう。そうでなかければ二人目は狙いません。
ほとんどの殺人者は、一人しか殺しません。一人でも、殺人は大変です。良心の呵責や逮捕の恐怖におびえることになります。しかし彼にとっては、殺人は快感になったからこそ、二人目の犠牲者を探すことになったのでしょう。

犯行は防げなかったか

犯罪環境学の立場から、事件現場となったマンションの問題点が指摘されています。高級なマンションでプライバシーが重視されるつくりです。これは、犯罪が発生しやすい「入りやすくて、見えにくい」場所をつくることにもなります。高層マンションの最上階、エレベーターの中など、しばしば犯罪が起きています。
だからこそ、このマンションでも防犯カメラが設置されました。それは良いことだと思いますが、防犯カメラが抑止するのは、逮捕を怖がるような犯人の犯行だけでしょう。
(すべての犯罪が防犯カメラで防止できるというのは間違いです。一方、防止できない犯罪があるからといって防犯カメラには効果がないというのも間違いでしょう)
防犯カメラは大切ですが、防犯のためにもっとも大切なのは、やはり「人の目」であり、「人の気配」だと上述の「報道特集」でも語られていました。
さて、直接的な防犯のためには犯人の心の闇といったことを考えるよりも、犯罪が起きにくい環境を整えることが大切でしょう。

その上で、犯罪予備軍の心にブレーキをかけるのは、「社会との絆」です。
防犯カメラも大切だが、はやり人の目が大切なように、刑罰の存在も外灯も大切ですが、彼らにとって社会の中に大切な存在があるということが、必要です。
失いたくない、仕事、仲間との友情、大切な家族、自分の夢。
様々な経済状態の人がいて、様々な性癖の人がいて、それでもほとんどの人は犯罪など犯しません。この塀の向こう側に行こうとする彼らを引き戻す現実世界の力があるからです。


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