こころの散歩道:心理学総合案内/犯罪心理学/毒物事件/グリコ森永事件時効
ご訪問ありがとうございます。新潟青陵大学(2000年4月開学)福祉心理学科 碓井真史


グリコ森永事件、2000.2.13で最終時効

犯罪と社会とマスコミと劇場型犯罪:模倣犯を防ぐために


2000.2.4〜2.10(補足)
毒物事件に関するこのサイトの発言が朝日新聞2000.2.12の社説で紹介されました。
このページがYAHOO!Jのニューストピックスグリコ森永からリンクされました

***

 15年前に発生したグリコ森永事件が、最終的に時効を迎える。事件は迷宮入りで終わるのだろうか。悪質な毒物事件として、犯罪史に残るこの事件を今もう一度考える。

毒物犯罪は弱者の犯罪・毒物は貧者の核兵器

 毒物は、私たちの身近にあり、強い腕力や特別な技術がなくても使えます。犯罪の歴史の中では、体力のない女性や社会的弱者が、恨みを晴らすためなどによく使ってきた道具でした。その意味で、「毒物犯罪は弱者の犯罪」と言うことができます。

 一方、毒物は恐ろしい無差別大量殺戮(さつりく)の道具にもなります。このように大規模に使うためには、特別な毒物や技術力が必要でしょうが、貧しい小国やテロリスト集団などにとっては、核兵器を造るのに比べて100分の一の労力で、核兵器と同様の殺傷力を生み出す「貧者の核兵器」ともいうことができるのです。


グリコ森永事件のあらまし

 いわゆるテロ行為ではなくても、無差別に使われる毒物は、社会全体に大きな衝撃を与え、犯罪者に力を与えてしまします。

 1984年から1985年にかけて発生したグリコ・森永事件では、犯人は商品に青酸ソーダを入れたと挑戦状を送り付けてきました。商品は店先から消え、脅迫された大企業は大幅な減収となりました。実際につかわれた毒物はごく少量でも、社会を揺るがすような犯罪も可能なのです。

 犯人は、怪人21面相と名乗り、グリコ、森永、不二家、丸大食品、ハウスと、次々に各食品会社に35通の脅迫状を送り付けます。不二家には、こんな脅迫状が送られました。

「グリコも 森永も けいさつの ゆうこと きいて えらい そんや おまえんとこも たにんごと ちゃうで わしら おまえんとこから 一億 もらうことにした」

 警察、マスコミなどへも「けいさつの あほども え」といった63通の挑戦状が届きました。

 そして突然、終息宣言が郵送され、事件は終結しました。関係者は否定しているものの、世間では、犯人に対して裏金が使われたのではないかと疑う人もいます。

(私は、関係者の言うことを「信じたい」と思います。テロリストにも似た卑劣な犯罪者の言いなりになることは、さらに犯罪者を増長させることになるからです)


事件から15年たって何が変わったか。
私たちは何を学んだか

 食品への毒物混入に対しては、製造段階で防止する方策はいろいろできるでしょう。事件以後、一度開封するとその跡が残るような容器や包装が工夫されています。

 しかし、スーパーなどの店頭で混入されるのを防ぐのはとても難しいでしょう。防犯カメラなどはある程度の効果があるかもしれませんが、商品を万引きすることが可能ならば、毒を入れることも不可能ではないでしょう。

 和歌山、新潟の毒物事件に続いてしまった長野をはじめ日本各地の毒物事件は、そのことを示しています。15年前と同様、今も、毒を入れようと思えば、入れることができるのです。

 日本中のスーパー、デパート、コンビニの販売形式を変え、商品をすべて鍵のかかるケースに入れ、すべてを対面販売にすれば、犯罪はかなり防げるでしょう。しかし、そんなことをすれば、人件費はかさみ、売り上げも大幅に落ちるでしょう。現実的な方法ではありません。

 商品の製造、陳列に関する犯罪防止の工夫は、限度があるようです。

 私たちの社会は、けっこう危険があふれているのかもしれません。毒もそうですが、駅のホームで誰かを突き飛ばしたり、放火したり、爆弾予告の電話をしたり、特別な力のない人間でも、誰かに危害を加えたり、社会を混乱させることは簡単にできそうです。自分の人生を棒に振り、逮捕されても良いと覚悟してしまえばですが。

 犯罪防止のためには、鍵も防犯カメラも必要です。取り締まりや刑罰も必要でしょう。しかし同時に、人々が希望を持って生きていける社会が必要なのではないでしょうか。なんだか、甘い、悠長な意見に聞こえるかもしれませんが、それが私たちのできる大きな努力の一つだと思うのです。


犯罪と社会とマスコミと劇場型犯罪:模倣犯を防ぐために

 グリコ森永事件の犯人は、金目当てであるのと同時に、目立ちたかったのでしょう。私たちをバカにするように「怪人21面相」などとなのり、警察や企業を挑発するような脅迫文を次々と送り付けました。

 マスコミは連日の報道を繰り返し、私たちは、恐ろしい事件だといいながら、新聞や週刊誌やテレビを見続けました。犯人は、そんな様子を見ながら、満足げに笑っていたことでしょう。

 現実の事件でありながら、活字やブラウン管を通すことによって、まるで劇場で芝居を観ているような感覚になってしまうのです。

 犯罪者達の多くは、力をほしがっています。心の奥底に強い劣等感があり、現実社会では自分が正しく評価されていないと感じているので、大金を狙ったり、人に恐怖を与えて、力強い自分という虚像を作り上げたいのです。

 マスメディアの発達は、彼らにとって好都合でした。また、日常の変化のない生活に飽き飽きしている私たちにとっては、自分に害が及ばないかぎり、犯罪はいい見せ物なのかもしれません。

 マスメディアは、この15年の間にさらに影響力をましていると思います。新聞もテレビのニュースも「おもしろく」なっていると思います。

 ワイドショーも、ときどき社会問題になって自粛することがありますが、やはり15年の間にさらに力を加えていったように思います。

 大きな事件が起こればすぐに、その町の上を何機ものワイドショーのヘリコプターが飛び交います。

(あるテレビ局の報道部の記者さんが、言っていました。同じ局の中でも、記者さんよりワイドショーのレポーターが先に現場に着くことも多いそうです。かれらに先に取材され、現場を荒らされてしまうと、その後の取材はとてもやりにくいそうです。「ワイドショーが通ったあとは草も生えない」なんていっていました。ただし、私はワイドショーの手法すべてを否定するつもりはありませんが)

 大金が手に入り、憎い相手を困らすことができ、マスコミをとおしてある意味で「ヒーロー」になれる。そんなふうに思ってしまえば、模倣犯がでてしまうのも当然です。

 模倣犯発生の原因は、もちろん最初の犯罪者であり、悪いのは犯罪を犯す犯人達に決まっているのですが、しかし、マスコミを含めた私たち全員が、模倣犯発生に全く手を貸していないといいきれるでしょうか。

 けれども、もちろん報道しない方が良いというわけではありません。報道することによって、犯人を喜ばせてしまったり、模倣犯を生む危険性があるからといって、報道をやめてしまえば、もっと恐ろしいことが起きてしまうかもしれないのです。

 戦争中、負け戦の情報は国民の戦意を喪失させる危険性があるといって報道されませんでした。報道しなかったことにより、日本は恐ろしい道をたどることになってしまったのです。

 「報道には、たしかに危険性がある。しかし、報道しないことの危険性の方がずっと大きい」

 しかし、だからといって何を報道しても良いとも思えません。知る権利とか、ニーズがあるからといって、その報道の結果を考えないでよいわけはありません。

 私たちにととってマスコミ批判は簡単なのですが、そうではなくて、一緒になって協力しあって、あるべき報道の姿を探っていきたいと思います。

 私たちみんなで、希望の持てる社会、犯罪は逮捕されてもされなくても割りあわないと感じられるような社会、そんな社会を作っていきたいものです。

(最近、少しだけマスコミの方と接して、思います。たしかに巨大システムの中で動いているマスメディアです。でも、結局一つの番組、ひとつの記事を作っているのは私たちと同じ「個人」です。私たちはそんなに無力ではない。一緒に考えていくことができると、私は信じています)

 時効を迎える日、久しぶりにマスメディアはグリコ森永事件を取り上げるでしょう。さて、どんな報道をするのでしょうか。


補足

 事件のとき、「森永」はがんばりましたよね。商品をお店ににおいてもらえなくなって、ずいぶん困ったと思います。そこで、工場から直送した商品を袋づめにして、社員のみなさんが直接お客さんに売っていました。

 私たちも、悪い犯人と戦っていて困っている人を、見殺しになんかできません。がんばれ!という思いを込めて、多くのお客さんが買ってくれました。

 マスコミもその様子を大きく報道しました。報道を見て、さらにお客さんが増えましたし、販売を手伝おうという人たちも表れました。

 グリコ森永事件って、いろんな意味でイヤな事件ですが、この部分だけは心温まる出来事として、私の記憶にも残っています。

 市民も、マスコミも、ぼくらはそんなに弱くない、だめじゃない。毒物犯とだって、戦えるさ。

 (こうやって思い出してみると、森永ってがんばった良い会社なんですね。これからはもっと森永の商品を買うことにしよう)

森永製菓

補足の補足2.10

 この件で、取材を進めているマスコミの方に聞きました。当時から秘密主義だった企業も多いそうですが、今回も取材に全く協力しようとしない企業もあるそうです。たしかに、今ごろになってまた事件のことをほじくり返されたりしたら、売り上げにも響くかもしれません。その気持ちはわかります。でも、凶悪犯と正面から戦おうとしないそんな態度が、犯人をつけあがらせ、新たな模倣犯を生むのだと思います。

 グリコ森永事件以後、食品に毒を入れたり、企業を脅したり、怪人何とか名乗る模倣犯罪者が続出しているそうです。

 私たちは、犯人と裏取り引きをするような企業に怒りを覚えます。一方、事件に関して情報を公開し、犯人と戦おうとする企業には、賞賛を送ります。そうだとするなら、犯人との戦いを警察や一企業にだけに負わせるのではなく、私たち市民も一緒になって戦いたいと思います。

 もちろん、犠牲者が出ることは防がなくてはなりませんが、戦う企業を応援しながら、戦い方も一緒に考えていきたいと思うのです。

(これからの報道を見て、また思うことがあればコンテンツを追加します)

グリコ・森永事件 (新風舎文庫)朝日新聞大阪社会部


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