こころの散歩道:心理学総合案内 / 犯罪心理学 / 京都/容疑者自殺
犯罪予防はとても大切ですが、犯罪が起きてしまえば、タイムマシンで戻って犯罪を防ぐことはできません。私たちにできることは、被害者保護、犯人逮捕などを含めて、犯罪の悪影響を最小限にとどめ、そして犯罪から何かを学び、私たちの社会を少しでも良くする努力をすることです。
そのためには、まず何が起きたのかを解明する必要があります。事件の詳細が明るみに出ることで、社会の問題点が見えることもあるでしょうし、同様の犯罪を防止する工夫もできるかもしれません。
しかし、容疑者の死によって、事件の解明は遠のいてしまいました。
自分の幼い子供を殺された親の心が、簡単に癒されるわけはありません。それでも、多くの遺族は、なにがあったのかを知ろうとします。
辛い話を聴くこともあるでしょうが、でも、その苦しみの中で、自分の心を整理し、現実を受け入れて、新たな生き方を見つけていくのです。
犯人の声を聴くチャンスを永久に失ってしまったのは、心の癒しにとってもマイナスです。
殺人犯の裁判で遺族が証言台に立ち、「極刑を望みます」と意見を述べることがあります。ご遺族の気持ちを考えれば、当然の意見でしょう。
(ただし、一人を殺害して死刑判決が出るのは例外的ですが)
判決が出て、刑が執行されれば、たしかに一つの区切りにはなるでしょう。
あるいは、裁判になっても死刑判決が出にくかった今回の事件では、犯人が自殺してくれて良かったのでしょうか。
しかし、遺族の心の癒しを考えたとき、犯人の死は必ずしも特効薬にはなりません。
坂上香 著 「癒しと和解への旅―犯罪被害者と死刑囚の家族たち 」 (岩波書店1999)の中には、犯人に死刑判決が出ても、刑が執行されても、なお苦しみ続ける被害者の姿が紹介されています。そして、死刑囚の家族の苦しみも。
この本で紹介されているのは、特殊な事例でしょうが、被害者側と加害者側の家族が、協力しあって、死刑廃止を呼びかける運動をしています。
(私は、この本を著者から直接送ってもらったのですが、読んでいて、何度も途中で読めなくなってしまいました。家族の命を他者によって奪われた人々の苦しみや、それでも人を信じ、戦い続ける人々の心があまりにも強く迫ってきたからです。犯罪や死刑の問題に関心のある方には、ぜひお読みいただきたい本です)
人々は、苦しみながら、心の癒しを求めて様々な方法を模索しているのかもしれません。
犯した犯罪に応じた適切な刑罰はもちろん必要でしょう。しかし、犯人が死んだからといって被害者や遺族の心が癒されないとしたら、それではどうしたら良いのか。私にはいま答えは見つからず、ただ、ただ、考え続けるだけです。
今回の事件では、犯人と思われる男性が自殺してしまいました。そのことが、なおさらご遺族の心に深い傷を負わせたのではないかと、心配です。亡くなった男の子のご冥福と、ご遺族の心の癒しを、あらためてお祈ります。
警察は真相解明のために、動機を探ったり、「てるくはのる」のなぞ解きを試みるでしょう。それは、当然です。でも、私はむしろ地域の子どもたちのことを考えたいと思います。
今後様々な事実が判明し、報道されるにしても、それが社会をより良くし、子どもたちの支えになるように考えたいのです。
自分の学校で殺人が起き、警察とマスコミが殺到し、そして容疑者が飛び降り自殺した。子どもたちの心にどんな傷を残したでしょう。傷ついたと主観的には感じていない明るい子たちであっても、「自殺してくれてよかった」などと感じてしまう子がいるとすれば、心のケアが必要だと思います。
被害者の尊い犠牲を無にしないためにも、今回の事件を通して、子どもたちに命の大切さを教育していけることを願っています。
地域のみなさん、学校の教職員のみなさんの働きは、まだこれからが正念場かもしれません。私たち日本社会全体で、地域と学校を応援したいと思います。
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(容疑者自殺が与える影響、命の大切さ)
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