家庭内暴力の心理について、ドラマを通してわかりやすく解説。
「心の散歩道」(心理学総合案内)/「心療内科医・涼子」から学ぶ心理学/ 3、家庭内暴力
第3回 97.10.27
「自分が本当にやりたいこと、
言ってみればいいじゃない。」
ゲスト・クライエント:榎本加奈子
心の問題:家庭内暴力・母子関係
家庭内暴力・境界例......
あらすじ
涼子(室井滋)のもとに、医学生時代の友人・須藤芙美子(結城しのぶ)が訪れる。彼女の一人娘で高校生の早紀(榎本加奈子)の頭痛の薬がほしいという。しかし、実はこの一見とても良い子の早紀が、母親に暴力をふるっていることを涼子は知る。
家庭の問題に関わろうとしない、留守がちの夫、誠一(遠藤哲輔)。夫にも専業主婦の生活にも不満を持つ芙美子は、娘の早紀を頼り、早紀が重荷に感じてしまうほどのゆがんだ愛情を注いでしまっている。
ずっと耐えて、母親の愚痴の聞き役になり、母親に合わせてきた早紀。けれども、とうとうその思いが家庭内暴力という形で爆発する。べたべたと「二人で生きていこうね」という母親の芙美子に家庭内暴力を振るう早紀。
涼子に勧められ病院を訪れた早紀。自分を抑えきれないと言う早紀は、入院を希望するが、両親が連れ帰ってしまう。しかしその晩、再び家庭内暴力を振るう早紀は、父親ともみ合った拍子にケガをして、涼子の病院に運ばれる。
心療内科での治療が始まり、 早紀は少しずつ自分の気持ちを話し始める。「ママのようになりたくない。」 しかし、芙美子は涼子が自分と早紀を引き離そうとしているように感じて、不満だった。
涼子は、賭とも言える治療方法に出た。診療室の隣の部屋で、芙美子に早紀の本音を聞かせようというのだ。母親役を演じる涼子を殴りながら、早紀は本当の自分の気持ちを叫ぶ。
「私がずっと無理して合わせてやったんだ!」「私がママのカウンセラーをやらされてきたんだよ!」「私の子供時代を返して!」感情をぶちまける早紀だった。
ショックのあまり倒れて運ばれる芙美子。一人残された早紀に涼子が言う。「あなたの子供時代さ、もう戻って来ないよ。昔にしがみついて、人に愚痴る人生おくるの? 人から受けた傷を、人に塗り付ける人生おくるの?」「親に手を上げる前に、自分が本当にやりたいこと、言ってみればいいじゃない。」
この出来事を通して早紀の治療は進み、芙美子も自分を見つめ直し始めるのだった。
この場面・このセリフ
芙美子のセリフです。私たちはなかなか心の病を認められません。特に、親は子の心の病を認めたがらないような気がします。
このようにして家庭内の問題は、家庭の仲に閉じこめられ、問題がさらに悪化することがあります。家庭の問題は、家庭の中の弱者に集約され、目に見える形になって現れます。今回は娘の家庭内暴力という形で現れました。
「あなたを責めに来たんじゃないのよ。」
家庭内暴力や窃盗のような反社会的な行動に対しても、不登校などの非社会的行動に対しても、人々はそれを責めます。でも、それが心の病なら、責めるだけでは解決しません。もちろん、取り締まりや罰が必要なときもあります。人にほめられる行動ではないのですから、責める人達は大勢います。そんなとき、心療内科医やカウンセラーの仕事は、責めることではなく、受け入れることです。
心の病を持つ人に対して、弱いとか、わがままだとか言う人がいます。でも、ずっと耐えて、耐えて、とうとう耐えきれなくなったのかもしれません。
親を殴ること(家庭内暴力)は悪いことだとわかっているが、コントロールできないのです。だから、叱責や説教では、治らないのです。
子供を愛するあまり(または自分の心の傷のために)、子供に最善のの人生を歩ませようとして、生き方を押しつけてしまうことがあります。でも、子供であっても、自分の人生は自分で選びとらなくてはなりません。
健康な家庭は、夫婦の結びつきが強く、子供のことを深く愛してはいても子供との適切な距離を保てます。しかし、夫の関心が仕事や愛人に向いてしまうと、妻は不安になり、子供との関係を病的に深くしてしまいます。存在感のない父親と干渉しすぎる母親というのが、心理的に問題の生じやすい家庭の一つの典型です。
単なる仕事熱心や妻への愛が薄れただけではなく、「ピーターパン・シンドローム」かもしれません。男尊女卑的で、孤独感が強く、優しいところはあっても、感情的に激怒することもあり、大人の男としての義務や責任を果たそうとしません。会社では有能であっても、家庭の問題に深く関わることは、恐くてできない男達です。→父の日に考える父子関係の心理学:悩むお父さんへの子育てアドバイス
大人は、大人の言うことを聞く、手のかからない子供が良い子だと思いがちです。でも、良い子を演じ、自分の本当の感情を押しつぶしたままの子供は、いつか爆発するかもしれません。本当の良い子は、ときには、親に反発したり、いたずらをしたり、失敗したりします。本当の良い子は、自分の気持ちや感情を素直に出せる子供です。
子供は子供らしく育つ必要があります。親の愚痴の聞き役や慰め役では、心は健康に育ちません。
ちょっと冷たく聞こえますが、過去は変えられないと言うことでしょう。確かに、過去は変えられません。でも、その過去にいつまでもしばられている必要はありません。過去は変えられなくても、過去の出来事の解釈は変えられます。過去は変えられなくても、過去の影響は変えることができるのです。
今週のキメのセリフ。
いままで、ずっと「良い子」だったあなたへ。良くがんばってきましたね。あなたがあなたの家庭を支えてきたのかもしれません。
でもね、もう、いつまでも「良い子」を演じ続けることはないのです。母親にしばられ続けることはありません。あなたの親もあなたの幸せを願っているはずです。
あなたが本当に何をしたいのか。ずっと抑え続けてきたあなたは、もしかしたら自分でもわからなくなっているかもしれません。もう一度、自分の心を見つめ、本当にやりたいことを考えて下さい。それが親の望みにあっているかどうかは、そんなに大切なことではありません。あなたは、あなたの人生を歩み始めていいのです。
「自分が本当にやりたいこと、言ってみればいいじゃない」(自分の気持ちを言葉に表すことができなくて、非行などの反社会的な行動に現してしまうことを「行動化(アクティング・アウト)」と言います。親に愛してほしい、振り向いてほしいと思っても、素直に言えないとき、万引きや暴力で、自分の気持ちを伝えようとします。ただし、それを自分で意識しているわけではありません。)
ドラマにちょっと一言
・このあと、お父さんはどうなったんだろう?
→心療内科医・涼子 NO.7 水を飲み続ける少女 父子関係・アダルトチルドレン(AC)・援助交際・早紀が涼子を殴った後で、早紀の治療が進展しますが、最初見たときは、早紀がかわる転機としては、これでは弱いのではないかと感じました。後で、ビデオで見て、早紀の叫ぶ言葉の内容が、これ以前の暴力場面とは違い、これまでの母娘の関係全体に対する感情の吐露だと理解できて、納得しました。(はじめに見てよくわからなかった私が悪い?)
・涼子を殴り、母親が気を失った後の早紀の演技。うなだれて、下を向いていましたが、それでは弱い気がします。彼女の感情の変化がよく伝わってきません。むしろ正面を向かせた方がよかったのではないでしょうか。
(日本のお父さん達は、プロ野球を見ながら監督になった気分を味わいますが、私はここで、ちょっと演出家になった気分を味わっています。)
用語解説 家庭内暴力
BOOK:『心療内科医 涼子』(ドラマから生まれた小説)
『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
(ウェブマスターが書いた本。)
DVD:『心療内科医・涼子』DVD 1〜4(全話収録)
MUSIC:『心療内科医・涼子』の曲 (主題歌など)
☆ ネ ッ ト で D V D レ ン タ ル ! ☆ T S U T A Y A D I S C A S ☆
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