心理学総合案内「こころの散歩道」/仕事部屋/講演
新潟市大畑少年センター プレイリーダー養成講座 1998.5.16
新潟青陵女子短期大学(現在新潟青陵大学大学院) 碓井真史
人間の成長には、タンパク質とかビタミンCなどの栄養が必要なように、「愛」も必要不可欠です。しっかりと愛されることによって、心身ともに健康になることができます。
さて、その次に必要なことは、「遊び」です。
私たちは、乳幼児のころから、遊ぶことを通して、心と体が成長していきます。
子どもは、いろいろなものに関心を持って、自分で見てみよう、さわってみよう、分解してみようなんて思います。大人の目から見れば、「いたずら」だったり、不衛生なこともあるでしょう。でも、こんな遊びが子どもの知的好奇心を育て、知力を高めます。
どんな遊びにもルールがあります。その遊びのルールを守らなければ、遊びになりません。遊びを通して、子どもはルールの大切さを学びます。親や先生に「ルールを守りなさい」なんてお説教されるよりも、ずっと効果的に学ぶことができるのです。
誰かに命令されて運動するときには、手を抜いたり、サボったりすることもあるでしょう。でも、たとえば鬼ごっこをするときに、一生懸命走らないでサボる子がいたら、楽しい鬼ごっこにはなりません。みんなが一生懸命走ります。
全速力で走り、「鬼さんこちら」などと言ってゆっくり歩き、また全速力で走ったり、急に方向転換したりする。これは、心臓や肺や筋肉や骨にとって、とても良い運動です。
心の問題を持つ子どもに対して「遊技療法」という心理療法があります。大人であればカウンセリングなどの面接を通して自分の感情を表現させますが、子どもの場合には、遊びを通して自分の気持ちを表現させます。
テストや評価の対象になってしまうと、上手にやろうとしたり、表現のタブーが出てきたりしますが、遊びの表現は、本来とても自由なものです。この自由な感情表現が、心のいやしにつながります。
大人はストレスがたまれば、それを自覚することができます。ストレス発散に、カラオケに行ったり、スポーツをしたりします。けれども、子どもはストレスがたまったことを自覚できず、心身にストレス症状が出ることがあります。自由な遊びは、ストレス解消に最適です。
悪いことはもちろん悪いことなのですが、しかし、人間の成長にはある種の「悪」は必要です。大人から見れば、乱暴であったり、下品であったり、非常識であったりする遊びが、食べ物にかけるスパイスのように、必要な場合もあるのです。
このような「悪」をあまりにも排除してしまうと、ストレスがたまったり、時には将来もっと大きな本当の悪が育ってしまうこともあります。
「仕事」が結果重視なのに対して、遊びは過程を重視します。山の頂上に行くことが仕事であるならば、頂上につかなければ意味がありませんし、またどんな方法でも頂上に着けばよいことになります。しかし、遊びの場合には、頂上に着くまでの過程こそ大切にされます。
「仕事」は基本的には、失敗は許されませんが、遊びはいくらでも失敗が許されます。だからこそ、リラックスしていろいろなことを試すことができます。
仲間と遊ぶとき、ケンカをしてばらばらになってしまえば、もう遊べません。楽しい遊びを続けるために、みんなで仲良くする工夫をこども達自身がします。また時には、リーダーに従うことを学びますし、小さな子をかばうことも学ぶでしょう。
人にやらされる遊びはありません。強制などされたら、もう遊びではなくなります。人に言われなくても、自分で始めるのが遊びです。自分から、何かを始めて、そこで喜びを感じる。この体験が自発性を育てます。
勉強や仕事は、時にはいやなこともするでしょうから、遊びとは違います。しかし遊びの要素も入っています。勉強して何か新しいことを知ったり、何かを作り上げることは、成績やテストとは関係なく、それ自体が楽しいことです。
仕事でも、お客さんが喜んでくれたり、ライバル会社に勝つことは、お金の問題を越えて、うれしいことでしょう。これは、遊び的な要素といえます。
言葉をかえて言えば、成績やお金のための動くのは「外発的動機づけ」、それ自体の喜びのために動くのは「内発的動機づけ」と言えます。内発的に動機づけられた行動は、質が高く、持続性があります。
テストのための勉強は、テストが終わったとたんに忘れてしまいますが、好きで学んだことはいつまでも忘れません。仕事でも、勉強の場でも、内発的動機づけで活動できれば、やりがいを持って生き生きと生活することができるでしょう。
内発的動機づけを高めるためには、3つのことが必要です。
「自分にもできる!」と感じることが内発的動機づけのもとになります。そのためには、努力が報いられるような環境、打てば響くような環境が必要です。そのような環境を「応答的環境」と呼んでいます。
人にやらされたり、ものに操られたりすのではなく、自分自身で決めているという感覚も必要です。自由で自発的な行動が許される環境づくりが大切です。このような自己決定行動を促進するような環境を自律支援環境と呼びます。
仲間との交流や、先生、親などの重要な他者から受け入れられていることも大切な要素です。受け入れられている安心感の中でこそ、自由な活動を楽しむことができます。
過保護な親・無関心な親・面倒を見てくれない親・虐待する親・期待しすぎる親・干渉しすぎる親・せきたてる親・不適切な教師・勉強のストレス・家庭内の不和・あふれる雑多な情報・いきすぎる教育熱・いきすぎる早期教育・不適切な管理教育・「いい子」であることへの圧力・少年犯罪への過剰反応と厳罰主義への傾向・元気のでることがない・やる気のでることがない、などなど。
小さなころから習い事をさせることは決して悪いことではありません。しかし、小さなころのいたずらを止めさせ、知的好奇心に満ちた活動を止めさせて、子ども達のやる気の芽をつみとっておきながら、中学生になってから、やる気を持って熱心に勉強させようとしても無理があるでしょう。
ピアノも英会話も結構ですが、「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」が、どれだけ子ども達の知力や体力を成長させるかを忘れないでほしいと思います。
また、私たちが社会で生きていくためには、知識や技術も必要ですが、良い人間関係を持つことがとても大切です。道徳の時間にお説教を受けるよりも、遊びの中の実体験を通して学ぶことこそが、重要です。
学校でストレスがたまり、家庭においても安心感を持てない子ども達がいます。そんな子ども達を救うのは、遊びの場ではないでしょうか。もちろん、親からの愛情が基本ですし、楽しい学校生活は大切です。でも、そこに問題があるときに、遊びの場が重要な役割を果たします。
友達がいて、自由があり、心の底から楽しめる。そんな豊かな遊びは、子どもの心身を健康に育て、健全な人間関係を作り、将来の非行防止にも役立ち、子どもの幸福へとつながることでしょう。
・子どもを愛する先生
・甘えさせる、でも、甘やかさない先生
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