心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理学/神戸小学生殺害事件の犯罪心理学/2
(「犯罪心理学入門」福島章 著 中公新書)
+++ その後の報道から +++
容疑者の少年は、かつては自宅で亀やザリガニを飼う「動物好きの優しい少年」でしたが、小学校の終わりごろから、動物への虐待や級友への危険ないたずらなど、彼の問題性が表面に現れてきたようです。
ネコを殺すだけではなく、生きたまま火をつけたり、目に接着剤を塗ったり、切り取ったネコの舌をビンに入れて持ち歩いたりしていたと伝えられています。そして、淳君殺害事件、その前の通り魔事件、さらにその前に女の子が襲われた事件も彼が行ったようです。犯行声明文にあった「9」の数字は、淳君が9番目の犠牲者だったことを表すと供述しています。
また、切り取った頭部を自宅に持ち帰り、水で洗い、傷を付けたと報道されていますが、それは軽い傷を付けたようなものではなく、かなり残虐で、見るに耐えないことをしているようです。(それを具体的に記述するのは、このページの目的から外れますので、あえて記述しません。)彼の残虐性を伝える記事とともに、少年が問題児扱いされ、彼とは関係のないことでも叱られて、傷ついたり、怒ったりもしていたという記事も、少数ながら出ています。また、家庭環境については、いまのところ大きな問題があったとは報道されていません。(7/7)
前のページでは、あくまでも一般論として快楽殺人についての説明を行いましたが、少年について情報が増えるほど、やはり快楽殺人である可能性が高まってきたようです。
快楽殺人とは、何かほかに目的があるわけではなく、人を傷つけ殺すこと自体が目的であり、快感を感じるという殺人です。子どものころの動物虐待に始まり、人間に対する攻撃行動がエスカレートしていき、そして連続殺人へと至るというパターンです。多くの場合、犯人の知的なレベルも家庭環境も、決して低くはなく、普通の家庭の普通の人です。遺体を傷つける行為も、快楽殺人ではよく見られることです。
犯行の動機
これは、現在のところ調査中なのでしょうが、もし快楽殺人であるならば、動機といえるものはないでしょう。お金のためとか、恨みのためといった動機はなく、強いて言えば殺したかったから殺したのです。
ある快楽殺人の犯人は、殺人自体に性的な快感を感じていますし、恐怖の表情や断末魔の叫びに快感を感じています。あるいは犠牲者をまるで物のようにしか感じられず、ナイフを刺したらどんなふうに血が飛び出すかを見たかったなどと言っています。
警察での供述と弁護士への話の食い違い
快楽殺人の場合には、いわゆる犯行の動機はありませんので、なぜ殺したのかと言われても、本人ですらよくわからないことがあります。学校に対して恨みがあるのは事実でしょうが、それが直接の動機ではないのです。
ただ、そのように質問すれば、そうだと答えることもあるでしょう。そこで、質問の仕方次第で、学校への復讐として校門に頭部を置いたと答えたり、捜査の撹乱のためと答えたり、あるいは学校への恨みは特にないと答えたりするのでしょう。
警察は少年事件であるため、激しい尋問などは行っていないのでしょうが、それでも警察が犯行の動機は特になしでは困ると考えて話をしていれば、何かそれらしい答えをするでしょう。しかし、それが本当の動機ではなく、また警察をごまかすためにウソをついているわけでもなく、本人にも自分の行動と心の説明ができないのです。
福島章 著 『犯罪心理学入門 』(中公新書)
あなたは犯罪を犯したことあがりますか。車のスピード違反などを含めれば、私たちのほとんどは、犯罪を犯したことがあるでしょう。しかし、一般に犯罪者と言えば、もっと独特のイメージを持ちます。
人が犯罪者になるパターンとして、3つあります。
1. 早発持続型 人生の早い時期に犯罪を犯し、犯罪を繰り返すパターン。
2. 遅発持続型 ある程度の年齢になって、初めて犯罪を犯し、その後、犯罪者としての生活を続けるパターン。
3. 遅発停止型(一回性) ある時、魔が差してしまったように犯罪を犯すが、その後は普通の生活に戻るパターン。
快楽殺人は、犯罪を繰り返すパターンでしょう。
様々な性格の人が、様々な犯罪を犯します。私たちはそれぞれ個性がありますが、性格が極端に偏っていて、そのために自分自身や周囲の人が困るほどになると、それを「性格障害」と呼んでいます。
意志欠如型:意志が弱い。そのために仕事も長続きしない。誘惑に弱く、犯罪に誘われやすい。自分の人生を長い目で見ることができない。
軽そう者:軽薄、お調子者で、そのために軽い犯罪を繰り返すことがある。
爆発者:突然、怒ったり興奮したりすることで、傷害事件などを起こす。
自己顕示者:いつも自分が中心でいたい。極端な自己中心。この性格に虚言癖(ウソ、ほら話ばかりする)が加わって、詐欺師になる人もいます。
情性欠如者:同情、哀れみ、良心などを感じない。
(容疑者の少年にも、このような部分があったのでしょう。)気分易変者:すぐに不機嫌になる。放火、万引きなど。
自信欠乏者:小心、自意識が強く、傷つくことを恐れる。
(以下は、参考文献には載っていません)
境界例(あるいは境界性)性格障害:自分が人から見捨てられるのではないかという強い不安を持っています。そのため、いろいろな方法を使って、周囲の人を操ろうとします。また、感情が激しく、爆発的な怒りを抑えることができません。
この人達は親に暴力をふるったり、親の財産を勝手に処分することなどがあり、親が雲隠れしている例などもあります。かつてある殺人者が境界例性格障害の診断を受けましたが、善悪の判断はついたということで、有罪判決を受けました。自己愛性格障害:自分を愛することは健康なことですが、彼らは自分だけがすばらしい人間だと思っています。自分が成功しないのは、自分が悪いのではなく、周りの見る目がないと感じます。大人になって、自分の能力がそれほどでもないということになると、生活が破綻することがあります。
犯罪者の幼児期
・甘やかされたわがままな子
・虐待された子
・いろいろな意味で人より劣る子もちろん、こういう体験をした人がみんな犯罪者になるわけではありません。
イド(エス)、エゴ、スーパーエゴのバランス
フロイトによれば、心は3つの部分に分かれます。
・本能的欲望であるイド
・良心とも言えるスーパーエゴ(超自我)
・その二つの間に立ってバランスをとり、現実的な行動をとろうとするエゴ(自我)イドが弱ければ、生きるエネルギーが湧いてきません。
スーパーエゴは、弱すぎても困りますが、強ければよいわけではありません。強すぎると、その人を押しつぶしてしまいます。
大切なのは、エゴ(自我)が成熟していて、バランスの取れた考えや行動のできることです。未熟な自我のための犯罪もあります。同一性拡散
:自分は何者なのかという問いに肯定的に自分なりの回答を出せることを自我同一性(アイデンティティ)が確立していると言います。これがわからなくなっている状態を同一性拡散と呼びます。
名前も国籍もはっきりしない透明な存在だと言う彼は、まさに自分自身を捜していたのかもしれません。
文化伝播理論:犯罪の多い地域で暮らすと、犯罪が模倣され犯罪者になるという理論。
非行的サブカルチャー理論:私たちは、暴力や盗みはいけないという文化を持っていますが、その一般的文化の下には、たとえば非行少年達の文化があります。そこでは、真面目なことが悪いことであり、逆に法にふれるようなことが英雄的行動とされます。人は自分の周りの文化を身につけます。悪い人たちの価値観をもってしまうのです。
社会的疎外理論:ある社会の中で、ある人種やある地域の人やある特徴を持つ人たちの犯罪が多いことがあります。それはその人達が本来的に悪人なのではありません。その少数者への偏見や差別が原因であるという理論。
ラベリング理論:ある状況で、みんなから悪者だと思われ、自分自身も自分を犯罪者だと思ってしまうことにより、実際に犯罪者になるとする理論。
容疑者の少年も、人から悪くいわれても仕方がない行動をとっていたのですが、そのようなラベルを貼られてしまい、いつも怒られていたのは、辛いことだったでしょう。社会的学習理論:社会の中の様々なことを観察することで、多くのことを身につけるという理論。銀行強盗や企業への脅迫事件などがおこると、まねをする人が現れます。また、映画やビデオの影響も考えられます。男性が暴力的に女性をレイプしたが、結局その女性は男性のことを好きになり、男性は得をしてしまったといったストーリーは、犯罪防止上好ましくないことになります。
殺人のような犯罪は、以前よりも減少しています。しかし、近年は不気味な犯罪が増えているように感じます。
・過去の犯罪者:乱暴者、爆発性。もともと乱暴で荒っぽい人間が犯罪者になる。
・現代の犯罪者:意志欠如、依存性、受動性。乱暴者でもないし、お金がないわけでもなく、法律を知らないわけでもない。しかし、肝心なところで現実感感覚が乏しく、自分で自分の人生に責任が取れないタイプの犯罪者が増えています。
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