こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / 新潟女性監禁事件/判決
新潟女性監禁事件 判決公判を傍聴して
思い切った判決 そして 刑罰の限界
2002.1.22
本日(1.22)新潟地方裁判所で行われた判決公判を傍聴しました。(テレビ東京さんのおかげです)
今日も1260人の人が傍聴を希望して抽選会場にあつまりました。
開廷の30分ほど前に裁判所につきました。県内外の大勢のマスコミが集まっています。悪天候の中、前庭にはマスコミ各社のテントが立ち並び、裁判所横には各テレビ局の中継車がずらり、入り口にはたくさんのテレビカメラが押しかけています。初公判以来の大騒ぎです。
裁判が行われる第一法廷の入り口横のロビーにもマスコミ関係者が大勢いて、打ち合わせを行っています。裁判の判決の時にはおなじみのシーンですが、判決が出たとたんに記者がとびだしてきて、カメラの前で判決を伝えます。マスコミ各社は、誰が走るかとか、どう撮るかといった話をしています。
全国が注目する大きな事件。その判決を待つマスコミ陣にも、興奮と高揚感を感じます。
私は、過去2回の傍聴では、一般傍聴券を使っての傍聴でしたが、今回は記者席を使うことになっていましたので、放送局の腕章をつけました。一般傍聴券の場合は、ボディーチェックなどかなり厳しいのですが、プレス(報道関係)の腕章があると、自由に法廷の出入りもできます。
相変わらずの無表情でした。報道の中には、「憮然(ぶぜん)とした表情で、」と表現したところもありましたが、私はそういうふうにも感じませんでした。「まるで他人事のように」といった感じです。被告人席に座っている様子は、居眠りをしているかのように感じるほどでした。
反省や悔恨の表情はまったく読み取れません。むしろリラックスしているように感じました。
求刑の懲役15年に対して、判決は懲役14年でした。監禁等の罪だけでは最高が懲役10年、それに万引きの罪を合わせて15年という求刑でした。
弁護側は万引きでプラス5年は重過ぎると主張していました。判決は法的にはかなり思い切った判決だと思います。前例がないほどの長期にわたる監禁と、その間の被害者の苦しみを考慮に入れた判決です。
裁判官は、この犯罪がどれほどひどいもので、被害者の苦しみはそれほど大きいかを繰り返し述べましたが、私も同感です。
この事件に限らず、よく判決は求刑の8がけなどといわれます(15×0.8=12)。今回の裁判も、法律の専門家によると、懲役12年をはさんだ攻防かといわれていましたので、その意味では重い判決といえるでしょう。弁護側が主張していた心神耗弱(こうじゃく)(責任能力が弱っている状態)も認められませんでした。
これまでの鑑定でもいわれていたように、被告には様々な人格障害(病的な性格のゆがみ)、幼児性愛(大人ではなく子どもに性的欲求を感じる)、情性欠如(良心や同情の心がない)などの障害は認められるが、責任能力が問題とされるような精神病状態ではないとされました。
法的にはともかく、感情的には14年でも十分とはいえないでしょう。「一生牢屋に入っていろ!」という意見に、私も感情的には共感できます。
しかし、それはできません。それに、もしも誘拐、監禁への刑罰が最高懲役10年から5割増の15年になったとして、どんな意味があるのでしょう。死刑にするにしても同様です。
それが、どれほど被害者の心の癒しにつながり、犯罪の防止に、再犯の防止につながるのでしょう。わたしはむしろ別のことを考えたいと思います。
今回の事件は、彼が別の事件で執行猶予中だったときに起こした事件です。別の女の子に危害を加えようとして逮捕されたものでした。逮捕され、有罪判決を受けましたが、執行猶予がつきました。
このとき、もしもっとちがう処遇がされていれば、今回の事件はなかったかもしれません。しかし、何でも刑罰を厳しくすれば良いでしょうか。国によっては、お酒を2本盗んで懲役6年といったところもありますが、私たちはそんな社会を望んでいるのでしょうか。それに、前回の事件で、何年か刑務所に入っていたとしても、彼の基本的な行動パターンは、変わらなかったでしょう。
そうだとしたら、刑罰ではなく、医療、福祉、教育といった別のアプローチが必要ではないでしょうか。
裁判の一番最後に、裁判官は自分のしたことを重く受け止め、しっかり反省しなさいといったことを述べました。しかし、同時にこの裁判では、被告には様々な心理的障害があるとも認めています。普通の人のようには反省し、悔い改めることができないという心の障害です。
ではどうすればよいというのでしょう。
刑務所に入れば、他の囚人と同じような扱いを受けるでしょう。そこで、彼の心の問題が解決し、反省するのはとても難しいと思います。
神戸の小学生殺害事件(酒鬼薔薇)の犯人は、医療少年院で精神科医らの治療を受け、しだいに反省の心もでてきたといいます。少年法は少年を甘やかしていると誤解する人がいますが、決してそうではありません。
少年審判(裁判)では、関係者全員で、少年に反省させようとします。少年院でも、個別処遇が可能です。不定期刑であれば、反省の有無によって、対処できるかどうかが左右されます。今回の事件のような、残虐な犯罪では、反省すればよいというものではありません。しかし、犯人がまったく反省しないまま、平然と刑に服して、十数年後に出てくるだけでよいでしょうか。
犯人に対して医療や教育といった話をすると、ときおり、犯人を甘やかすなとお叱りを受けることがあります。しかし、そうではありません。犯人が、心から自分のしたことを悔やみ、涙を流し、土下座して被害者に謝ろうとする、それは被害者のためでもあり、再犯の防止につながるのです。
そういう意味での心理的サポートです。「あんな犯人なんかのために金を金をかけることはない」とか、「そんなひまがあったら、もっと被害者のことを考えろ!」という意見もあります。
しかし、本当に被害者のことを考えるのならば、刑罰を重くすることだけではなく、犯人が、心が張り裂けそうになるまで罪を悔やみ反省できるようにするべきではないでしょうか。参考:当サイト内の関連ページ:少年犯罪の心理(酒鬼薔薇事件など)
懲役14年の判決理由の中で、裁判官は「再犯の可能性も高い」と述べていました。犯人が死刑にならなければ、いずれ社会に戻ってきます。
凶悪犯の「更生」などと言うと、また怒る人がいます。しかし、新たな被害は防がなくてはなりません。
彼に更生する価値があろうとなかろうと、彼には更生してもらわなければならないのです。(私はどんな人間も更生する価値があるとは思っていますが)
「懲役14年」という声を聞いたとき、私は一瞬不思議な悲しみの感覚にとらわれました。犯人への同情ではありません。
誘拐そして9年2ヶ月15日の監禁、犯人逮捕そして懲役14年。監禁という罪を犯した者を逮捕し、またその人を閉じ込めるという。
いえ、刑罰が間違っているというわけではありません。ただ、人間はそれだけの方法しか知らないのだろうかと、ふと思ってしまったのです。
刑法に基づく懲役刑。しかしそれだけではなく、私たちはもっと何かできるはずです。こんな悲しい事件が、二度と起こらないために。
当サイト内の関連ページ:
・拙著『少女はなぜ逃げなかったか』の「はじめに」:ある女性被害者からの「ありがとう」のメール
・事件発覚直後に書いた心のケアと被害者へのエールのページ:「なぜ逃げなかったの」と責めずに
・心の癒し・臨床心理学入門
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