こころの散歩道(心理学総合案内)/ 犯罪心理学 / バスジャック/外泊
今回の事件は、3月から精神科に入院していた少年が外泊を許されたときに発生しました。
前のページ(バス乗っ取り事件の犯罪心理:優等生と挫折といじめとひきこもり)で、「私は軽々しく病院を責める気にはなれません」と述べました。
それに対して、「安易に外泊許可を与えた病院にも責任があるのではないか」というご意見をメールで頂戴いたしました。(メールありがとうございました)
* そうですね。たしかに、もし「安易に」許可を与えていたとしたら、問題はあるでしょう。
前述の町沢静夫も「主治医の責任も問われるべきだと思う」と語っています。同じく精神科医の日向野春総も、「精神科医からみれば犯罪へ向かうプロセスとサインがあったはず。それを見過ごし、一時帰宅を許してはならなかった」と産経新聞上で述べています。
たしかに、結果的には失敗でした。結果的には、一人の尊い命が奪われ、何人もの人が心と身体に深い傷を負いました。彼は、殺人犯になってしまいました。さらに、最新障害者全体への偏見も強める結果になってしまったかもしれません。これは、もちろん小さなことではありません。
しかし、本当に普通の精神科医が診ればわかるような犯罪の兆候があったのでしょうか。主治医は重大な過失を犯したのでしょうか。もしそうであれば、その医師にも責任の一端はあるでしょう。
ヨーロッパでは、このようなケースで医師の過失が認められ、法的な責任を問われたこともあったそうです。
ただ、ほとんどの場合、この人が外泊中に犯罪を犯すかどうかを判断することは、とても難しいと思います。ほとんどの人は、犯罪など犯さないのですから。この少年も、落ち着いた状態だと判断されたのでしょう。
* さて、ご意見のメールの表題には、「精神異常者は厳重管理を」とありました。
たしかに、正しい管理は必要だと思います。患者さんの治療が進み、人権が守られ、同時に市民生活と社会の治安も守られるような、正しい管理が必要でしょう。法的にも、「自傷他害」の恐れのある者は措置入院(強制入院)させることができます。
けれども、精神に異常のある人をいつまでも病院に閉じ込めておくわけにはいきません。措置入院の範囲も限られたもので、今回の少年の場合も当てはまらないでしょう。
たしかに、今回は、結果を見れば外泊させるべきではありませんでした。しかし、それが事前にどの程度予測できたのかが問題です。また、今回の事件から、精神障害者全体への過剰な管理が進んでしまうことも、避けなければならないと思うのです。
*社会心理学の研究によれば、人はある出来事が起こってしまうと、実際は予測不可能だったのに、予測できたはずだったと思ってしまうことが多いことがわかっています。
(口うるさい妻、夫、横暴な上司などに、どうしようもなかったことなのに、「なんでもっと気をつけなかったんだ」なんて理不尽に叱られたことはありませんか?)*精神障害者が犯罪を犯すことは確かにありますが、それよりも、酔っぱらいの起こす犯罪の方がずっと多いのです。そして、もっと多くの、もっと恐ろしい犯罪を、普通の正常な人々が起こしています。
少しだけ加筆 5.11
・少年は3月から入院していましたが、3回外出が許されていました。これまでの二回は日帰りで、今回が初めての外泊許可でした。
・地元紙の報道によると、少年が入院していた病院は、思春期の心の病にも積極的に取り組んでいた病院でした。
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