心理学 総合案内 こころの散歩道(新潟青陵大・碓井真史)/犯罪心理学「心の闇と光」/足立少女監禁事件

東京都少女監禁事件の
犯罪心理学

ハーレムを作りたかった男、あきらめなかった女性
(監禁王子事件)

性犯罪、監禁事件の犯人の心理・歪んだファンタジー・長期反復性心的外傷・監禁被害者の心と癒し

2005.5.12(補足5.13、5.15))

 

事件から学ぶ溺愛と過保護の親子心理
(少女監禁事件の犯罪心理学2)
5.14(加筆515)

2013.5.7 アメリカで10年ぶりの救出:長期監禁事件の犯罪心理学:加害者の心理、被害者の心

事件

 24歳無職の男性が、昨年3月インターネットのチャットで知り合った当時18歳の兵庫県の女性を3ヶ月以上にわたって足立区内の自宅マンション、ホテルなどで監禁、犬の首輪をつけ、鎖でつなぎ、裸の写真をとり、「ご主人様」などと呼ばせていたとして逮捕された(2005.5.11)。
 この男性は、以前にも同様の犯罪を犯しており、執行猶予つきの有罪判決を受けていた。今回の事件は、執行猶予中、保護観察中に、無断転居をしてでの犯行だった。
 被害者女性は、すきを見て、自力で脱出し、事件は明るみに出た。
逮捕された男は、「意味が理解できない。覚えていない。おれは統合失調症で精神障害者だ」などと容疑を否認している。
(その後、男は、「合意の上で同居していた」と供述を変えている。(5.15)
 被害者女性には、PTSD(心的外傷後ストレス傷害)の症状が見られるという。(逮捕までに時間がかかったのは、この症状のために証言をとるのに時間がかかったからだとの報道もある。)
 報道によると、容疑者の男性は少女の首輪につけた鎖をドアノブなどにつなげ、少女が命令に口ごたえするたびに、殴るけるの暴行を加えていた。ときには一緒に外出することもあったという
 また被害者の少女は昨年六月に脱出したが、監禁前に比べ体重が激減し、「体が一回り小さくなった」(母親)。ストレスのためか胃腸を悪くして今も通院しているという。解放直後に母親と対面したときには、母親だと認識できなかったとも言う(5.13補足)
(報道によると、連絡を受けた親が上京しても、少女は自宅に帰れず、警察にも恐怖感のために通報できず、たまたま通りかかったキリスト教会の世話で一ヶ月間家庭的な雰囲気の福祉施設で暮らし、カウンセリングを受けていた。その後、やや落ち着きを取り戻してから警察に告訴状を提出していた 5.15)
 この男性は、今回の被害者が逃げ出した後も、世田谷のマンションに転居し、他の女性を同様に監禁していた。

加害者男性・以前の監禁事件・今回の監禁事件

 犯人(24)は、青森県五所川原市出身。実家は、裕福な資産家です。しかし、第一希望の高校には入れず、県立高校に進学しましたが、高校を転々としたあと、中退。その後、家を出ます。人間関係は得意ではなかったようです。
 2001年、知人女性に「精神科の医師」「声優」などと名乗って同居するよう誘った後、「おれに無断で外に出たら、おまえを簡単に殺すこともできる。今日からおれの奴隷にしてやる」などと脅迫しています。
 二人の女性を、犯人の男性が一人で暮らしの北海道江別市の自宅に監禁(軟禁?)、包丁で太ももを切りつける、手に熱湯をかけるなどの暴行を加え、
「ご主人様」と呼ばせて性的な暴行も加えていたほか、竹刀やタバコの火を使った暴行を、日常的に加えていました。女性には、「(自分を)裏切らない」などという誓約書を書かせてもいました。
男は、この事件で、傷害、暴行などの罪で有罪判決を受けます。このときには、監禁罪には問われていません(被害者女性が外出などしていたため)。
 このときの判決では、「根深い粗暴な性癖、常習性がうかがえる」と指摘されながらも、被害者に計約1200万円の示談金を支払い示談が成立していたことも考慮され、懲役3年、保護観察付きの5年の猶予刑が言い渡されました。(保護観察つき5年の執行猶予は、実刑判決とぎりぎりのところと考えられます)
 自宅からは、女性を監禁し陵辱する「調教ゲーム」などのアダルトゲーム千点が押収されました。
 2004年3月、今回の事件の被害者女性に上京するように脅すのと同時に、自分も家族に「北海道大医学部を志望している。受験のために予備校に行きたい」とうそを言い、上京し、事件の舞台となった東京都足立区内の2LDKのマンションを借りています。
 当初から、犯行目的のためにマンションを借りたのではないかとも見られています。また、少女の住民票を監禁先の東京都足立区の自宅に移させています。これは監禁ではないと主張するためとようです。(5.13補足)
 逮捕された男性は、自分は統合失調症(精神分裂病から名称変更)だと語っています。(北海道の事件での弁護士によれば、以前統合失調症の診断を受けたことがあるということです。また弁護士によると、昨年12月から今年4月にかけて、幻覚症状が出たため、入院していたということです。)
 (この男性の精神的な疾病については、まだ不明ですが、少なくとも統合失調症であるために今回の事件が起こしたということはありません。)

女性への暴力的犯罪、監禁事件の犯罪心理

レイプなどの犯人の心理

 たとえば、レイプは、強い性欲による犯行というよりも、「女性を支配したい」という欲求からの犯行です。(妻や恋人がいたり、性風俗店に行ける場合でも、レイプは起きます。)
 女性に対する暴力的な犯行は、もちろん非常に乱暴な行為ですが、「劣等感の裏返し」ということもできます。
 自分に自信と余裕のある人は、日常生活の中で、無理なことをしなくても、適度な誇りや優越感を味わうことができます。女性と仲良くし、尊敬されることもあるでしょう。
 ところが、強い劣等感が心の底にあると、それをごまかすために、強がって見せることがあります。社会的弱者である女性に対して、特に男尊女卑的な態度をとり、強がることがあります。
 そのようなことが、まだ合法的な範囲内で行われればまだしも、それすらできない、それでは満足できないとき、レイプのような犯罪行為を事項してでも、女性を支配し、屈服させ、歪んだ優越感を満たしたいと感じてしまいます。

女性(少女)監禁事件の犯罪心理

 女性を支配したいという欲求が女性に対する暴力的犯罪を生みますが、「監禁」は支配への思いがさらに強いものでしょう。
 一時の支配ではなく、長期にわたり、被害者の全生活にわたる支配をねらったものです。
 成人女性ではなく、「少女」を狙うときには、さらに「弱者」を狙うことで、より完全な支配を目指しているのでしょう。
 今回の事件の被害者は、未成年者とはいえ、普通で言う子どもではありませんでしたが、未成熟な子どもを性的対象として見るのは、成人女性には自信がもてないからでしょう。
 何か他の目的のための監禁ではなく、監禁自体を目的とし、そこから快感を得ようとするような犯罪は、他の犯罪以上に「異常な」犯罪と言うことができるでしょう。
 彼らは、はじめ異常空想、「歪んだファンタジー」を楽しみます。ビデオやゲームで、擬似的な満足を得ようとします。このようなビデオやゲームは、少なからずあるわけですが、普通は、このバーチャルな世界である程度の満足感を得て、実行にはうつしません。
 しかし、この異常な空想が膨らみすぎ、バーチャル世界では満足できなくなり、さらに、空想から彼を現実に引きもどすだけの力を現実社会が持っていないとき、犯行が実行されるのでしょう。
 彼を引き戻す現実世界の力とは、たとえば、大切な家族や友人、恋人がいるという感覚、大好きな学校や大切な会社がる、現実的な夢や希望があるという、「社会との絆」です。
 この社会との絆が、犯罪にブレーキをかけるのです。

加害者男性の犯罪心理

 男性は、お金持ちの家に生まれます。成績も悪くなかったようです。ルックスもかなりのものです。
普通なら、前途洋々、明るい未来が待っていたことでしょう。
しかし、彼の人生はうまくいきません。
小学校にも車で送り迎えをしたもらい、周囲から「王子」と呼ばれていましたが、愛や尊敬や親しみを込めて呼ばれていたわけではないようです。むしろ、否定的な意味合いで、変わった子どもと見られていたようです。
高校入試に失敗し、詳しくは報道されていませんが、挫折と失敗を繰り返し、結局は退学しています。
 高校を退学しても、いくらでもやり直しはきくのですが、24歳になった現在の彼は、無職のままでした。学校にも行かず、仕事にもつかず、職業訓練も受けず、親しい友達、遊び仲間もいなかったようです。外出はしていましたし、ネットの活動は活発でしたが、実社会とのつながりはひきこんでいるように希薄でした。
彼にはプライドはあったことでしょう。自分は本当はもっと立派な人間なのだと思っていたことでしょう。
しかし、上手くいかない。
プライドは高いが心の底には強い劣等感があるようなタイプの人は、地道な努力や下積み生活が苦手です。
彼らは、しばしば「一発大逆転」を狙います。たいては、口で大きなことを言うだけですが、勉強にも仕事にも一発大逆転の可能性が見出せない人の仲に、犯罪による大逆転を狙ってしまう人がいます。
 女性と親しくなりたいのであれば、失敗すれば、ふられたり馬鹿にされたりする危険を冒しながら、それでも、努力を重ねます。女性にやさしくされたい、尊敬されたいと思うなら、それに相応しい男性になれるように、自分を磨くしかありません。
 しかし、そのような人間関係能力は持たず、地道な努力もできず、犯罪に走る人がいます。
 彼は、「ハーレムが作りたかった」と述べています。
 女性に暴力的な行為をする人は、女性に対して強く威張っているように見えますが、実は、甘え、依存したい心があります。乱暴な心で強いものにぶつかっていくような犯罪ではなく、「甘え依存型犯罪」であることも多いのです。
 北海道の事件での弁護士によると、この男性が、
「母親役の人がいないと生きていけない」
「自分の自殺願望を止めてくれる人がほしい」と語っていたと言います。
弁護士は「女性にご主人様と言わせることで自信を持つ」性格が事件の背景にあるのではないかとも語っています。

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(高校中退から「大逆転」を狙った少年事件)


犯罪を後押ししたもの:お金とバーチャル

お金
歪んだ想像から彼を引き戻す現実の力はなかったのですが、彼の犯行を助ける「現実」はありました。
彼には財力がありました。
北海道でも、東京でも、誰にも邪魔されない広い自宅がありました。決められた時間に出勤する必要もありませんでした。
北海道での事件では、千二百万円の示談金を払ってもらえました。(1998年足立区綾瀬で発生した女子高生コンクリート詰殺人事件では、主犯格少年の両親は自宅を売却して作った5千万円のお金を被害者遺族に支払っていますが、今回の事件の親はそれほどの無理をして作ったお金ではないでしょう。)
 その後も、東京に出た息子を、2LDK家賃12万円のマンションに住まわせています。
ゲーム
犯罪的な内容を含むゲームやビデオは、それが直接犯罪を誘発し、普通の人々を犯罪に直接導くわけではありませんが、歪んだファンタジーを膨らませている犯罪予備軍の人々を、刺激し、犯罪の方法を教えてしまうことはあるでしょう。
インターネット
被害者女性とは、ネットを通して知り合っています。最初は、女性のふりをして近づいていきます。
人間関係の苦手な人でも、ネット上では雄弁になれます。ウソも簡単につけます。
立派な肩書きをいつわり、現実とは違う、やさしい人や、強い人を演じ、信じさせることができます。
もしも
彼に財力がなく、インターネットがなければ、彼の歪んだファンタジーは、想像のままで終わっていたかもしれません。

被害者女性の心の傷PTSDと癒し

犯罪被害者の心理

 犯罪被害者は、深く、深く、傷つきます。経済的な損失、社会的な損失、体の傷、そして、心の傷です。
心の傷のために、不眠、悪夢に悩まされることもあります。強い不安や子由布のために、犯行を連想させるような場所や人に近づくことができないこともあります。
被害を受けたときの、あの激しい恐怖が、突然よみがえることがあります(フラッシュバック)。これは、単に思い出すのではありません。まさにそのときの感情が、そのままに、よみがえるのです。
このような症状が後遺症のように長く続くとき、PTSDと呼ばれます。
 犯罪被害、特に性的犯罪被害のときには、被害者は何も悪くなくても、罪悪感を感じてしまったり、自分が小さくなってしまったような感覚や、汚れてしまった感覚に長く(時には10年、20年と)苦しむこともあります。

監禁被害者の心理

 あるとき(そのとき1回)犯罪被害を受けても、心は大きく傷つきます(単一の外傷)。監禁の場合は(長期監禁の場合は特に)、被害を何度も何度も受けつづけることになります(長期反復性外傷)。
 監禁事件の加害者は、多くの場合、被害者に徹底的な服従を求めます。奴隷化しようとします。それも、表面的な服従ではなく、心からの服従を求めます。
 生活の一切を支配し、自由を奪います。暴力と屈辱感を与えます。と同時に、ほんの気まぐれの優しさを示します。言うことをきかなければ、激しい暴力が待っていますが、言うことを聞きつづけていれば、何かを与えてくれます。
このような状況で、被害者の精神は不安定になっていくのです。
容疑者の男性は書籍などでマインドコントロールを学んでいたとも報道されています(産経新聞5.14)。
 強い無力感のために、客観的には逃げられるような状況でも、逃げられなくなります。被害者は「全面降伏」をして、素直に言うことをきくようになります
北海道での事件の被害者も、次のように証言しています。

「暴力を受けないため、気に入られる行動をする習性が身についた」

「ペットでも奴隷でもいいから、一生置いてもらうしかないと思った」
産経新聞5.14
さらに苦しい状況が続けば、「絶対的受身の態度」を身に着け、被害者はまるでロボットのように、自分の感情を殺します。
それは、被害者の弱さの表れではなく、そのようにして、この異常な監禁状態に何とか適応して生きていこうとする、被害者なりの必死の努力なのです。しかし、このような過酷な状態が続けば、精神は崩壊し、死んでしまうこともありますし、解放後も正常に戻るのに長い時間がかかることにもなります。(たとえばユダヤ人収容所のように)
 戦争で捕虜になった兵士は、脱走計画を練るように指導されていますが(映画「大脱走」のように)、それは敵を混乱させるのと同時に(実際の大脱走のときには、何万人ものドイツ兵が捜索のためにかり出されています)、その思いを持つことで、精神的健康を保つことを目指しています。
 今回の事件では、被害者女性は100日を越える監禁の後で、自力で逃げ出しています。いつか逃げられる、逃げようという気持ちを持ちつづけることができたことは、事件の解決につながったとともに、彼女の精神を保つ上で、大切なことだったでしょう。
それでも、心の傷を癒すのは、長い時間がかかります。
監禁事件のような長期反復性の外傷を受けた人は、徐々に症状が出て進行する形のPTSDにかかりやすくなります。
体の傷のように、単純にだんだんよくなるというわけではありません。
長い時間がかかることを、周囲がよく自覚しなければなりません。
被害者は、二重三重の被害を、受けつづけてきたのです。
 しかし、そうではあっても、長い長い時間の後で、被害者はきっと回復していくのでしょう。
「あのとてつもない苦しい体験のために、私は確かに傷ついた。しかし、私は負けなかった。あの体験があってもなお、私の価値はみじんも下がらない」と、確信をとりもどすことが、きっとできると思うのです。

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「心理学総合案内・こころの散歩道」から5冊の本ができました。
2008年9月緊急発行
碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか
2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者
2000年

なぜ少女は逃げなかったのか続出する特異事件の心理学
「誰でもいいから殺したかった青年は、誰でもいいから愛してほしかったのかもしれない。」
☆愛される親になるための処方箋  本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等)
bk1書評「本書は,犯罪に走った子ども達の内面に迫り,心理学的観点で綴っていること,しかも冷静に分析している点で異色であり,注目に値する。」  本書について 「あなたは、子どもを体当たりで愛していますか?力いっぱい、抱きしめていますか?」 本書について 「少女は逃げなかったのではなく、逃げられなかった。それでも少女は勇気と希望を失わなかった。」 本書について

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