2006.6.30
補足7.2:大阪の府立大学生がリンチ計画立案→二審でも死刑判決(2009.3.25)
東大阪市私立大学の男子学生(21)と同大学短期大学部卒業の男性 (無職21)ら3人が、大学生や少年を含む9人グループに拉致され、特殊警棒、ゴルフクラブ、ナイフなどで暴行を受けた。一人は解放されたが、この大学生と無職の男性2人が岡山市内の廃材置 き場に生き埋めにされ殺害された。死因は窒息死。
この事件で、首謀格の男性(岡山市無職 21)、被害者と同じ大学の男子学生(21)らが逮捕されてた。(その後9人全員逮捕)
事件は同じ大学の学生である女性をめぐる争いで、今回の被害者から暴行、恐喝され「埋め たろか」と脅されたことへの報復として起きた模様。犯行時、「同じ方法で仕返ししたる」と脅し返していた。
相手が暴力団の組 名を出し、仕返しされるので殺したと供述している(実際にはやくざと のつながりはなかった)。主犯格の男性は、「(大学生の)友達がやく ざに脅され、金を要求された。(助けを求められたので)話をつけるた め呼び出し、殺して山の中に埋めた」などと母親に話しているという。
主犯格の男性は、被害者男性の頭からポリ袋をかぶせて車のトランクに押し込んで監禁。目や鼻付近には何重も粘着テープを巻き付け、はずれないようにしていた。
被害者男性が瀕死の状態になっているのを確認した仲間の少年(16)が「もうあかんかも」と相談し、主犯格の男性が「それなら生き埋めにしたろ」と廃材置き場へ向かったという。
供述によれば、「暴行しているうちに、興奮して歯止めがきかなくなった」と語っているという。また主犯格の男性は、加害者グループのメンバーにも暴行を加えていたようである。
この男性は母親に犯行を告げ、、「母さんの子で幸せでした」とメールを出し、その後母親やらに付き添われ出頭している。警察へ向かう車中では、「死刑にならんかったら出てこれるから。長生きしてな」などと話し掛けていたということである。
逮捕された男子大学生は、今回の被害者男性から受けていた暴行と恐喝に関して、警察に被害届を出していたが、事件発覚を恐れてか、今回の事件後に取り下げていた。(6/30)
*
補足:7月2日の報道によると、当初主犯格と思われていた無職の男性ではなく、大阪の府立大学3年生の男性(21)が、リンチ計画の立案、役割分担も指示していたことが判明した。この男性によって、無職男性が犯行を主導したことにしようと口裏合わせをしていたようである。
捜査本部は、この府立大学生がリンチ計画全般を統括し、そして殺害に至る実際の暴行を主導したのが無職の男性(21)であり、とともに主犯格と判断している。(7.2)
補足2:容疑者である元府立大学生の男性に、一審に引き続き二審でも死刑判決が出ました。(2009.3.26)
集団による暴行がエスカレート、殺害に至った事件は多くあります。「女子高生コンクリートづめ殺人事件」「名古屋アベック殺人」などがそうです。
いずれも、犯罪史に残るような残虐な事件といえるでしょう(個人的に今思い返してみても胸が締め付けられるような事件でした)。そのほかにも、中学生 によるホームレス集団暴行死事件の時なども、「集団心理」が語られました。
いわゆる群集心理、集団心理と言われるものには、次のようなものがあります。
匿名性(無名性):
大勢になればなるほど、自己の言動に対する責任感と個性がなくなり、しばしば無責任、無反省、無批判な行動になりがち。「赤信号みんなでわたれば」といった心理になる。被暗示性:
暗示にかかりやすくなる。人に言われたり、その場の雰囲気にしたがった行動をしてしまう。目立つ人、声の大きな人、の過激な号令に盲目的に従ってしまうことも。また、人の思いがまるで伝染するように、共通した考えや感情を持ちやすくなる。感情性:
感情的になる。論理的に考えられなくなる。衝動性理性のブレーキがきかなくなる。力の実感:
自分達が強くなったような気がする。
今回は、無統制な群集ではありませんが、主犯格の過激な言動に全員が引っ張られ、理性をなくしていったのかもしれません。
また主犯格の男性自身、もしも一人であれば途中で暴行を止められたかもしれませんが、大勢の前で、強さを誇示していたわけですから、途中から弱気な発言はできなくなってしまっていたかもしれません。
また、社会心理学の研究によれば、一人で考えて結論を出すよりも、集団で話し合ったほうが、結論がより過激で危険性の高いものになりやすいことがわかっています。→群集心理(心理学総合案内こころの散歩道)
主犯格の男性が、他のメンバーを脅して殺害にまでつきあわさせたとの見方も出てきています。もしそうだとすれば、なぜ他の8人は言うことを聞いて服従してしまったのでしょうか。
彼の暴力や脅しに負けてしまったのかもしれません。
あるいは、社会心理学で考えられている次のような服従の心理が働いたのかもしれません。
(「服従の心理」についてアマゾンで調べる)
人はなぜ服従してしまうか
・服従しやすくなる条件:命令者の命令内容が次第に大きくなっていく。命令者の権威をみんなが認める。権威の象徴となるような服装や道具を持っている(今回は特殊警棒などか)。誰一人命令に逆らわない。
・服従してしまう人の心理:これは自分のせいではない、命令者のせいだと「責任転嫁」する。また、この行為は残虐行為ではなく、「正当な行為」(今回は正当な復讐、あるいは自分のみを守るための正当防衛)と自分を納得させる。
今回の事件が暴力団の抗争などによる事件ではなく、大学生らによる事件であったことが私達に衝撃を与えました。
このようなふつうの人々が突然集団で粗暴な事件を起こすことについて、岡本吉生氏は次のように語っています(「中学生のいきなり型粗暴非行」(『ケースファイル 非行の理由 』専修大学出版局))。
・周囲に問題が認識されていない(いきなり型とはいえ、実は加害者はサインを出している。心理的な不安定さを示す場合もあれば、周囲が気づかないうちに悪の道に入り始めており、それが集団になったとき一気に噴出す。)
(今回の事件では、大学に通いながらも暴行や恐喝などが行われていましたが、周囲はどれほど築いていたのでしょうか。)
・コミュニケーション能力の乏しさ(言葉やもっとふつうの方法で解決できない)
・対人認知のゆがみ(実際以上に相手が敵意を持ち恐ろしい存在だと感じてしまう)
・悔やみ型罪悪感の形成不足(悔やみ反省することができない)
・ムカつきでむすびつく「ウチ」意識(同じ相手に向かって同じようにムカついているとうことで仲間意識をもつ)
これらの考察は、中学生の非行に関するものであり、今回の中心的な二人は成人ですけれども、心理的には未熟であり少年犯罪のような部分があったようにも思えます。(6.30)
補足:7月2日の報道に寄れば、リンチ計画を立案したのは、大阪の現役公立大学生であったようです。公立大学に入れるだけの成績や環境にあった学生が主導していたとすれと、ますます「優等生のいきなり型集団粗暴事件」という事件の性格が強く感じられます。(7..2)
当サイト内の関連ページ
非行少年の心理
病む社会と少年犯罪を考える
インターネット・コミュニケーションの心理
犯罪心理学者の福島章氏は、攻撃心自体は必要なときもあるが、それがコントロールできなくなり、悪の要素が入ってきたとき、暴力になると語っています(月刊児童心理98.6少年犯罪の心理学:暴力の心理)
河合隼雄氏は、著書『子どもと悪』 (岩波書店)の中で、現代の子ども達からあまりにも極端に悪の要素をとりすぎてしまったために、かえって大きな悪を犯すようになったのではないかと語っています。
子ども達は時にはケンカをしながら、またイタズラをしながら、育っていくのでしょう。
でも、小さな子どもが安心してケンカをするためには、親同士の人間関係がしっかりできていないと難しいように思えます。ほんの小さなもめ事、ほんの小さなケガで大騒ぎになってしまう大人同士の人間関係の中で、どうして子供同士のたくましい人間関係が育つでしょうか。
もちろん、悪いことは悪いと教えなければなりません。でも、たとえば幼稚園の先生が、ふざけて「ようし、みんなで園長先生にイタズラしておどかしちゃえ!」なんて言った時、「ワーイ」と歓声を上げながら走っていく子どもと、じっと動けなくなってしまう子がいるそうです。
小さなころから、粗暴で、しつけも受けず、暴力的になっていく人もいれば、ずっと優等生だったのに突然暴力を爆発させる人もいます。
強い牙や鋭い爪を持つ動物達は、争い、攻撃することはありますが、やたらと殺しあったりはしません。攻撃を止める本能があります。それは、教育でもなく、倫理や道徳でもなく、刑罰の存在も関係ありません。
たとえば、犬同士がけんかをしているときに、片方が「キャン」と泣いて尻尾を丸めてしまう。あるいはごろんと転がって急所である腹をみせて横になってしまう。こういうふうになると、攻撃行動は止まります。勝負が明らかについたわけです。
人間の場合も、子どものけんかであれば、相手が泣き出す、小さくなってうずくまる、このようになると、自然に攻撃は止まったものです。「どうだ、参ったか」と勝利を味わうことができるわけです。
しかし、近年の青少年の行動を見ると、相手が負けたというサインを出しているのに攻撃行動を止めないことが良く見られます。私達人間の本能が狂ってしまっているのでしょうか。
統計的に長期的に見れば、日本の20歳前後の青少年対の凶悪犯罪は激減しています(30年前と比較し、20歳代の殺人者率は7分の1、10歳代では6分の1) 。ただ、以前と比べて快楽殺人のような不気味な犯罪が起きたり、今回のような優等生のいきなり型の犯罪が目立ちます。
(ただし、被害者やご遺族にとっては統計など関係なく、深い悲しみがあり、統計上減っているからといって何もしないでよいわけもありません。)
統計上の問題で言えば、派手な凶悪犯罪よりも、自転車泥棒や万引きが目立ちます。しかも、こんなことはかつては非行少年たちがやったことですが、現在では普通の少年たちがやってしまいます。このような雰囲気と、優等生のいきなり型犯罪の増加とは、無関係ではないようにも感じます。
当サイト内の関連ページ少年犯罪の心理、非行の犯罪心理学
「空虚な自己」と攻撃性 :現代日本の若者にとって暴力とは
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さまざまな注目犯罪から学ぶ犯人の心理、被害者の心
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2008年9月緊急発行 『誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』 |
2008年8月発行 『人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則 』 |
2000年 『なぜ少年は犯罪に走ったのか』 |
2001年 『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』 |
2000年 『なぜ少女は逃げなかったのか:続出する特異事件の心理学』 |
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・ 『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」 ・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等) |
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