犯罪報道と犯罪心理学
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新潟毒茶事件容疑者逮捕の
犯罪報道から考える

ー私たちは事件から何を学ぼうー


  

 逮捕された容疑者も先日起訴され、これで報道もひと段落でしょう。このホームページでは、マスコミ報道と模倣犯罪の問題について考えてきましたが、今回は、逮捕されたときの各新聞の扱いについて考えてみました。

 どこも、とても大きな扱いでしたけれども......

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99.2.11 新潟毒茶事件 容疑者逮捕!

翌日の朝刊にどこも大きく記事が掲載されます。

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読売新聞

 一面トップ記事。 容疑者の顔写真と、顔を隠して護送されていくときの写真付き。社会面にも大きく載っています。

毎日新聞

 一面トップ記事(写真はなし)。 社会面にも大きく掲載。コートで顔を隠して連行されていくときの写真付き。

産経新聞

 一面トップ記事。 逮捕前に通勤していたときの大きな写真付き。
社会面にも大きく掲載。連行中の写真付き

新潟日報(地元紙:当然ながら一番大きな扱い)

 一面トップ記事 正面からの顔写真と、連行中の大きな写真付き。
社会面にも大きく掲載。新千歳空港で、うなだれて飲み物に口をつけようとしている大きな写真付き。

(前のページにも書きましたが、これが、実にいい写真なんですよ。後悔や不安や寂しさや、色々な感情が入り交じった複雑な表情で、じっと考え込んでいる様子。写真撮影できないはずなのに、どうやって撮ったんだろう。素晴らしい写真で、賞を差し上げたいぐらい。)

 それ以外に、記者会見の様子や、事件直後に警察に呼ばれ自宅を出るときの様子や、この半年間の事件と捜査の様子を示す写真が、数ページにわたって出ています。記事の質量ともに、一番読みごたえがありました。全社をあげて力を入れて、この半年間、取材してきたんでしょうね。拍手、拍手。

(地元民としても誇らしく思います。また、しばらく前、私のホームページ上の活動が、新潟日報のコラム欄で紹介されたのですが、たぶん、逮捕間近かという情報の中での、掲載だったのでしょうね。)

朝日新聞(ここだけ扱いが違う)

 一面には出ていましたが、トップ記事ではありません。写真はなし。四段抜きの見出しですから、決して小さな扱いではありませんが、他誌と比べてみると、ぐっと地味な扱いです。

社会面にも出てきますが、ここでも容疑者の顔写真はなし。記者会見の写真が出ているだけ(う〜ん、この写真じゃインパクトないなあ)。


毒物連鎖

 各紙とも、その後起った一連の毒物事件についても触れています。朝日の日本地図入りの図などは、とても見やすくてgood。

 ところで、各紙とも、毒物連鎖とか模倣犯とか言っているのに、そこでマスコミがはたしてしまった役割(報道による模倣犯罪の誘発)について全然触れていないのは、疑問。

 わずかに、新潟日報の記事中の識者の声の中で、メディアの責任がいくらか言及されている程度でした。
(少しだけとはいえ、他紙がほとんど触れていない話題なので、大いに評価できると思います。)


各紙を比べて

 朝日新聞の扱いが他紙より小さく、顔写真もないのは、朝日の考え方の問題のようです。(朝日は、他の事件でも、人権を考慮して、コートで顔を隠した連行中の写真を掲載したりしないようです。)

 たしかに、とても大きな関心を集めた事件でしたが、考えてみると、被害者が数日入院した「傷害事件」です。

 他紙の扱いは、まるで連続強盗殺人犯が逮捕されたような大きな扱いでした。今回の事件は、一連の毒物事件の中で、大きく報道され、そのために大きな関心を生みましたが、そうでなかれば、本来もっと小さな扱いのニュースでしょう。

 大きく報道されたことで、読者である私たちは、実際以上に大きな犯罪だと感じてしまったのではないでしょうか。

 たしかに、記事として面白く、素晴らしい写真であっても、それで良かったのか、という疑問もぬぐえません。

 このように書いたからといって、前述のいい記事、いい写真を載せた記者の皆さまの努力を、決して否定するものではありません。

 また一方、こういうときに顔写真を載せない新聞が、顔写真を載せないからという理由で、もしも販売部数が落ちることでもあれば、それは読者である私たちにとって、とても恥ずかしいことだと思います。


実名、顔写真報道と、犯罪抑止

 どの立場の人も、新たな犯罪の防止という点では、一致できるでしょう。では、実名、顔写真報道が、犯罪抑止にどの程度効果的かと考えると、たいした効果はないように感じます。

 もちろん、逮捕されたという報道、犯罪は割に合わないという情報は、とても大切で、犯罪抑止の大きな力になると思います。しかし、顔写真や、連行中の惨めな姿を映しても、あまり効果はないでしょう。

 かつて、公開処刑が行われたときにも、それによる犯罪防止効果はあまりなかっただろうと思います。

 そういう写真は、犯人に怒りを感じている人たちの、心をすっきりさせる効果はあるでしょうが。

 こんな悪い男が、こんなに悪いことをしたと書いても、あまり意味はないでしょう。(悪い人が悪いことをした。悪いことをするのは悪い人。というのは、同義反復で意味がないと、誰かが言っていました。)

 もちろん、基本的には、犯罪を犯しても逮捕されるぞ、という情報はとても意味があると思います。

 しかし、必要以上に、極悪人に仕立て上げ、辱めをあたえて、その個人だけを責めても、どれだけの効果があるでしょう。むしろ、社会の本当の問題が見えなくなってしまうことすらあるでしょう。

(新潟日報などいくつかのマスコミは、今回の容疑者を「極悪人」に仕立て上げるということはありませんでした。)

 確かに彼は悪いことをしました。責任を取ってもらわなかればなりません。でも、それは法に基づいてなされます。政治家でも、特別な社会的実力者でもない個人を責め立てて、それで問題が解決したような気になってしまうことの方が、むしろ問題ではないでしょうか。

 犯罪は起きてしまいました。そして、膨大は報道がなされます。だとしたら、その犯罪から何かを学び取っていくことが必要ではないでしょうか。それが、犠牲者の被害を無にしないことにもなると思うのです。

 今回の事件に関しては、詳しい情報がないので、具体的なことはわかりませんが、もしかしたら、彼は「ギャンブル依存症」だったのかもしれません。もしかしたら、中間管理職として、大きなストレスを感じ、プレッシャーにつぶされてしまったのかもしれません。

 警察の調書には、経理のごまかしが発覚するのを恐れて、といった直接の(表面的でわかりやすい)「動機」が書かれますが、実際の「動機」は、本人にも良くわからないことが多いのです。

 どのような彼の心の闇があったのか、そして、どのような社会の闇の部分が彼を突き動かしたのか、簡単にはわかりません。

 もちろん、だから彼の行為は許されるというのではありません。でも、彼個人だけを責め立てるのではなく、その事件を通して、社会全体が良くなり、同じような境遇の犯罪予備軍が犯罪者になってしまわないような社会を作っていくことこそが、大切ではないでしょうか。

 犯罪報道をするのであれば、報道をするだけの意義が必要だと思うのです。

(参考:浅野健一 著 『犯罪報道の犯罪 (新風舎文庫) 』 『犯罪報道の犯罪 (講談社文庫)


補足

 マスコミ批判は簡単です。でも、あまり意味がないと思います。ほとんどの記者の方は、正義感をもって仕事をしていると、私は信じています(甘い?)。

 私たちみんなで、良いメディアを育てていきましょうよ。


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