心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)/心理学トピックス/成人年齢引き下げ・少年法と少年犯罪

成人年齢引き下げを心理学的に考える3

少年法と少年犯罪の心理から

2009.7.31

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ルールを破る子どもたち(思春期、青年期)

 思春期青年期は問題を起こしやすい時期です。日本だけではなく、世界中でその傾向は見られます。

さらに言えば、集団で生活している動物達を見ても、未成熟な子どもには群れのルールを破る行為がしばしば見られでしょう。

 たとえば、子ザルがボスザルの食べ物に手を出したり、ボスザルが座るべき場所に登ってしまったとします。そんなとき、子ザルは激しく叱られて罰を受けるでしょう。子どもだからといって何をしても良いわけではありません。

子どもにもルールを教える必要は当然あります。しかし同時に、大人のサルならば決して許されずボスザルとの対決になるような行為を犯しても、子ザルならば許されます。

子ザルは罰を受けるでしょうが、追い出されはしません。もしも子どもでも大人と同じ基準で罰するようなことをすれば、子ザルは次々と群れから追い出され、その群れは滅んでしまうでしょう。動物たちは自らの種を絶滅させるような、そんな愚かなことは本能的にしないのです。


少年法の精神

私たちの人間社会においても、子どもは大人とは異なる特別な扱いをされてきました。法的には、少年法です。

少年法の目的は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」ことです。つまり、少年達が健全に育ち、社会の中で適応的に生きていけることを目指しています。

この少年法の下、日本における戦後の少年犯罪検挙者数は3回もしくは4回の増減を繰り返してきたと言われています。

殺人などの凶悪犯罪は、現在ではピーク時の4分の一まで激減しています。日本は、先進諸国の中では例外的に少年凶悪犯罪が減少してきた国なのである。

マスコミ報道では、少年犯罪の増加凶悪化がしばしば叫ばれますが、統計的長期的に見れば、そのような事実はありません。もちろんどのような法律も、数十年の年月を経れば、改善すべき点はあるでしょう。少年法も長く慎重な論議がなされてきたと言えます。

社会を揺るがした少年犯罪事件

 しかし、日本中を震撼させ日本の犯罪史に残る少年犯罪が起きてしまいました。

1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件です。切断された被害者男児の頭部が、酒鬼薔薇(さかきばら)と名乗る犯人の犯行声明文と共に中学校の校門に置かれていた事件です。後日逮捕された容疑者は、中学2年14歳の少年でした。

同じ事件でも、逮捕された容疑者が少年であった場合には、マスコミ報道が大きくなります。特にこの事件は社会の様々な分野を巻き込み、これまでの長年にわたる論議を吹き飛ばし、少年法改正は厳罰化の方向へ大きく舵を取ることになったといえるでしょう。

言うまでもなく、この事件は極めて凶悪な少年事件です。大人達は動揺し、「たとえ中学生の少年でも、こんな犯罪を犯したやつ死刑だ」という世間の声があちこちから聞こえてきました。

 犯罪に怒りと不安を感じるのは当然です。しかしこの時は、まるで大人達が集団ヒステリーを起こしているようにも思える光景でした。

もちろん、殺人はきわめて大きな問題行動す。しかし同時に、子どもが問題行動を起こしたときに、その子どもを社会から排除しようとするのもまた、大人の問題行動ではないでしょうか。


守られていない子どもたち


 少年とはいえ、凶悪犯罪者を安易に擁護するつもりはありません。しかし子どもが子どもを殺すという最悪の事件が発生し、大人達の中に少年法に基づく処遇や犯罪心理学的な考察さえ「甘やかし」と誤解する多くの人々が出現していまいました。

しかもこのような風潮のもと少年法が厳罰化の方向で改正され、今も社会の方向性は変わっていないように思われます。被害者のことを考えても、加害者のことを考えても、子ども達が守られていないと感じざるを得ません。

少年法は子どもを甘やかしているか

 少年法は子どもを甘やかしているでしょうか。

たとえば未成年の「少年」であるならば、将来罪を犯すおそれのある少年を、「ぐ犯少年」として補導することができますが、まだ罪を犯していない「成人」を補導することはできません。

犯罪のにおいがする危険な場所を真夜中に歩いていたら、未成年の少年なら補導されるかもしれませんが、まだ犯罪を犯していない成人なら捕まることはありません。

 また、たとえば「少年」がレイプ事件を起こせば、少年審判の関係者一同が少年に反省を求める方向で動きます。しかし「成人」の事件であれば、検察側と弁護側が対決し、弁護側は被害者女性側の責任をも追求しようとするでしょう。

少年法は、必ずしも子どもをあまやかしてはいません。

心の成熟と法的成人

 心理学的に見れば、二十歳未満でも精神的には成熟度が高い人もいれば、また一方、成人でもまるで少年のような未成熟な人々もいます。

何歳までを少年とすればよいのかは、多様な意見が考えられるでしょう。たしかに世界の主流は、18歳成人です。

しかし、多くの誤解に基づく「少年を甘やかすな」という風潮の中で少年法適用年齢が引き下げられるのには、反対です。

今回の議論の中でも、一部には、「20歳未満でも大人並みの犯罪を犯せば大人と同じ罰せよ、しかし同時に20未満の青年には子どもなのだから選挙権など大人並みの権利は与えるな」という意見さえ見られます。このような考えをする大人自身の考え方の成熟が、今求められているのではないでしょうか。

自立が遅れる日本の子どもたち

青年達に自立を促すことは、大切なことです。

世界の国々が成人年齢を引き下げたのは、1960年代から70年代にかけてのことでしたが、当時は若者の自立を促すのに最適な時期だったのでしょう。世界中の若者が政治に関心を持ち、行動していた時代です。

しかし、日本はこの時期を逸してしまいました。日本文化では、「子どもは宝」として子どもをとてもかわいがります。「添い寝」や「おんぶ」の文化は、その表れです。子どもをかわいがることは、もちろん良いことですが、子どもをかわいがる文化に加えて経済的な豊かさをもったとき、日本における子育ての問題が顕現化してしまったといえるでしょう。

日本の子ども部屋は、西洋文化の子ども部屋とは異なり、物質的には何でもあるといいます。また学生時代はもちろん、「パラサイト・シングル」と呼ばれる親に依存し続ける独身の子ども達や、結婚後さえ親を経済的にたより続ける人も少なくありません。

多くの青年達が政治的言動を行っていた大学紛争の時代にも、成人年齢を引き下げなかったのが日本です。現在、成人年齢引き下げ問題が論議されてますが、青年達自身からの議論は盛り上がっているとは言い難いでしょう。

まとめ

 私たちは何歳を成人と見なし、成人としての権利と義務を与えるのが良いのでしょうか。どうすれば、若者の自立を促すことができるのでしょうか。今回の論議が、安易な成人年齢引き下げではなく、青少年問題に関する冷静で熱心な議論として国民全体に広がっていくようにしなければならいと思います。
そして、何より青年達自身から世界標準に合わせて日本の成人年齢を引き下げてほしいという声が上がるように、私たちが青年達を支援していきたいと思うのです。

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