心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理学/神戸小学生殺害事件/「神戸小学生殺害事件:事件の背景とこれからの教育を考える」月刊「児童心理」(金子書房)1997年11月号別冊
要約
・この神戸小学生殺害事件は、教育問題や人権問題ではない。責任の所在のすり替えは、報道の誤りである。このような誤りは、類似事件の続発防止にもマイナスだ。
・事件の特徴:1)快楽殺人(絵師欲と破壊衝動が結合した病理的犯罪)、2)劇場型犯罪(メディアによる報道を喜ぶ)、3)社会挑戦型犯罪(自分の犯罪を社会への挑戦、復讐と表現したがる)、4)オカルト的傾向と超能力信仰
・少年法改正:1)年齢の上限を18才とする。2)年少少年も刑事処分する。3)検察官の立ち会い。4)検察の抗告権を求める。5)精神的に異常な犯罪にたいしては、治癒と危険性の低下を立証してから退院させる。6)治療的保護観察の必要性。
コメント
神戸小学生殺害事件の原因
この事件の本質は、少年の病理性にあるというのは、多くの精神科医、心理学者が指摘することで、このホームページでも当初から主張してきた通りです。でも、社会学者やマスコミは、現代社会や教育の問題にしたがる人が多いようです。
事件発生から1年ということで、先日も多くのマスコミが取り上げていましたが、 内容はやはり社会や教育の問題が多かったように思います。
類似の犯罪を防ぐためには、この少年のような精神の病理性を持った人を早期に発見して適切な治療をすることです。社会や教育の問題は、また別の問題です。
少年法・精神保険福祉法
少年法に関しては、適用年齢を狭めるなどの改正への主張を行っています。うっかり読むと、単に犯罪少年への厳罰を主張しているように思えますが、他の場所での発言なども含めて総合的に考えると、氏が単純な厳罰主義者ではないことはわかります。
ただ、これまでの氏の仕事を通して、多くの被害者のことも知り、そこから少年法の不十分さを感じている点があるようにも思います。
快楽殺人などの病的な犯罪への法的対処は、確かに不十分なのでしょう。他の少年犯罪のような更生がスムーズに進むのも難しいでしょうし、26才まで医療少年院に入っていれば、危険性が無くなるという保証はありません。
ある人は、精神保険福祉保健法により「自傷他害」の恐れのあるもの(精神障害者)は、「措置入院(強制入院)」させることができるから大丈夫だと述べています。しかし、氏はここで措置入院の実態を示し、今回の事件に関しては、現状の措置入院制度でも不十分だとしています。
私は、以前、東京都の精神科救急に関するアルバイトをしていました。「措置入院」に関しても実際にいくつもの事例を見てきました。
理屈の上では、少年Aの快楽殺人の恐れがあるならば、医療少年院出所後も強制入院です。しかし、現実的には、性格障害者が長期にわたって措置入院させられることは、ありません。
ただし、今回のケースはあまりにも社会の注目を集めてしまいましたから、場合によっては入院させることもあるかもしれません。
以前、羽田沖でエンジンを逆噴射させて飛行機を墜落させた機長がいました。事件後、精神障害により精神病院に入院しました。後に、普通であれば退院できる状態になったのですが、世間をあまりにも騒がせた事件ということで、かなり長期に渡って入院し続けたようです(この情報が正式に公表されたわけではないので、未確認情報、うわさです)。
このような話を聞いていると、精神障害者への恐れを感じる人がいるかもしれません。しかし、精神障害者のほとんどは、危険など無い人たちです。健常者の方が、よほど乱暴で攻撃的でずる賢い危険な人たちはたくさんいると思います。
被害者を出さないようにする、社会秩序を守る、これはもちろん大切です。しかし、だからといって患者を危険視して、閉じ込めておくことだけを考えるのは間違っていると思います。(小田先生のこの点については、もちろん門外漢の私などより十二分にご理解のことと思います。)
社会のためにも、精神障害者のためにも、精神障害者による犯罪が防止されることを、心から願っています。
→次のページへ進む酒鬼薔薇聖斗の「聖なる実験」、透明な存在、社会学と心理学
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