ちょっと待って、誰かに話をして!
東京都内のマンションで、福岡県内の女子高校生二人が飛び降り自殺しました(15日)。16日になって、音楽グループ「野猿」の解散が自殺のきっかけではないかと大きく報道され始めました。二人は熱心なファンで、野猿の解散コンサート(「撤収コンサート)を聞くために上京していました。
報道によると、「野猿が解散するならどうなってもいい」などと話していたといいます。残されたメモには、 こんな言葉がありました。
「死ぬ理由もないけど生きている理由もない」
「しいて言えば疲れた」
「ありがとう」
「お世話になった」
ノートの最後には、太い文字で「撤収」とありました。
周囲は、明るい生徒であり自殺の原因がわからないと話しています。
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子どもの自殺、青年の自殺の特徴と予防方法
さて、現在私たちの国日本では、年間3万人以上の自殺者がでます。普通の自殺であれば、大きく報道されることもないでしょう。今回は、音楽グループの解散という大人から見れば「訳のわからない理由」が出てきたため、大きく報道されています。
各メディアが大きく扱い、自殺した現場の映像も何度も出ています。私は、亡くなられたお二人のご冥福を心からお祈りしたいと思いますし、ご遺族にはお悔やみ申し上げたいと思います。しかし同時に、この状況で一番考えなくてはならないことは、「次の自殺」を防ぐことです。
大きくて、センセーショナルな自殺報道は、次の自殺を誘発します。
大きく注目された自殺のあとで、自殺の件数が増えるのは、研究者らの間ではすでに定説です。大人の場合でもそうなのですが、青少年の場合は、特に他からの影響を受けやすいために注意が必要です。
大きく報道された自殺のあとで別の自殺が続くと、マスコミの扱いはさらに大きくなり、ますます他の自殺の危険性が高まるという悪循環が始まります。
自殺報道は、あくまで冷静に行うことが必要です。不用意な感情的報道や、自殺の方法や現場映像を細かく何度も報道することは控えなくてはなりません。もちろん、報道の意義や必要性を否定するものではありませんが、自殺報道の危険性を常に考えた報道をすべきだと思います。
特に、最初の自殺と似たようなケースは、要注意です。今回の場合であれば、同じような女子高生、音楽ファン、残されたメモに共感できてしまうような人々です。
自殺の方法も、よく真似されます。今回の場合は、マンションの非常階段が使われましたが、「マンション」とか「非常階段」は注意が必要です。
「命を大切に」といった教育ももちろん必要ですが、それだけではなく、個々の生徒へのケアが必要な場合もあります。普段から自殺をほのめかしている人、これまでに自殺未遂をしたことのある人、最近精神的に不安定な人などです。
このような注意が、単なる取り越し苦労で終われば幸いです。でも、どうせ大丈夫だろうと思っていて、取り返しのつかないことになるよりは、取り越し苦労をしたほうがずっと良いと思うのです。
マスコミが取り上げているほど、今回のケースが特殊なケースだとは思えません。詳しい事情はわかりませんが、グループの解散は、おそらく単なるきっかけでしょう。(自殺の原因は単純ではなく、複雑です。様々な原因がからんでいます。)
また「生きる理由がない」といった大人から見れば理解できないような自殺の理由も、青少年の自殺の理由としてはよくあるものです。直前まで元気にしていたのも、まるでおつきあいでしたような複数人の自殺も、青少年の自殺としてはめずらしくありません。
もちろん、だからそれでもよいというのではありません。この悲しい出来事をとおして、少しでも青少年の心に近づき、自殺を予防する必要はあります。ただ、それほど珍しいケースではないのですから、冷静な報道をしてほしいと望んでいるのです。
(ファンの少年少女にとって、グループの解散は大人が考えるよりもずっと大きなショックであり、精神的に不安定になることもあるようです。大人から見れば、大したことではなくても、ファンの少女たちにとって衝撃的出来事です。)
自殺が大きく報道されると、死を考えているのは私だけではないのね、などど思ってしまいます。中には、それなら私も、などと考えてしまう人がいます。
ちょっと待って! ちょっと待って! ちょっとでいいから、待って!
あなたの気持ちを誰かに話してください。友達でも、家族でも、いのちの電話にでも。
(話を聞いた人は本気で聞いて、どうぞその人を受け入れて下さい。)
死を考えているあなた。
自分は一人ぼっちだと思っていますか?
違います。違いますよ!絶対に違うよ!
誰かに話をしてください。
今は少し、心が弱っているのかもしれません。でもね、少し休んで、誰かに話をして、ほんの少し心が強くなると、たとえ苦しい現実はまだ何も変わらなくても、生きる意欲がわいてきます。
あなたにも、生きる意欲がわいてきます。
特に、若い皆さん、どうぞ親よりも長生きしてください。
あなたの人生にもきっと素晴らしいことが起こると、私は信じています。
そして、あなたが大好きな、そのアーティストは、あなたがそんなことをすることを、望んでいますか? それとも、あなたが明るく正しく元気に生きて、作品を楽しみ続けてくれることを、望んでいますか?
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