心理学総合案内心の散歩道/自殺の心理/三木助・中島
2000年1月、落語家の桂三木助さん(43)、元衆議院議員の中島洋次郎さん(41)が自殺されました。どちらも、本来とても有能で、環境にも恵まれ、前途有望な方でした。(2009.2.28桂枝雀さんに関する内容等を加筆)
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自殺といのちについて考える全てのひとのために*
桂三木助さん
桂三木助さんは、名人といわれた三代目桂三木助の長男。落語会のエリートともいえる出身です。加えて、現代風のライフスタイルで、かつては「落語会の新人類」ともてはやされていました。
しかし、同年代の成長に焦りを感じていたという人もいます。最近は、高座を無断で休むことがあったり、深酒や、睡眠薬の使用もあったようです。そして、自宅ベランダで自殺。「私の力の無さを痛感する」というメモが残されていました。
(2009.2.28の報道によると、2000年12月に医師から「うつ病の可能性が高い」と診断されていたちうことです。三代目としてのプレッシャーも大きかったと語る人もいます。やはり中年期の自殺はうつが絡んでいることが多いようです。→うつ病の人との接し方
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うつ病の人との接し方*
中島洋次郎さん
中島洋次郎さんの父親は元文部大臣、祖父は富士重工の前身中島飛行機の創業者であり、政治家となっていくつもの大臣を歴任しています。洋次郎さんは、慶応大学卒業後、NHKを経て、国政選挙へ。クリーンなイメージで、見事当選。再選も果たして、防衛政務次官にまでなります。
しかしその後、収賄罪、詐欺罪などで逮捕され、有罪判決を受けます。さらに、生まれたばかりの子どもを亡くしてしまいます。関係者によれば、ひどい落ち込みかたで脱殻状態だったそうです。
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松岡利勝農水大臣の自殺から考える自殺予防の心理*
才能豊かな方々
落語家の桂三木助さんも、政治家の中島洋次郎さんも、お二人とも、名門に生まれ、才能に恵まれ、若くして成功の階段を駆け登ります。しかし、そこで挫折。名門に生まれるのは、恵まれた環境とも言えますが、大きなプレッシャーとも言えるでしょう。
お二人が人より弱い人間だとは思いません。平凡な人間よりよほど強い人だったことでしょう。しかし、エリートにとっての挫折は、とてつもなく大きな重荷となるのでしょう。
活躍されている方ほど、休むことは難しいのです。芸の道や、政治の世界で活躍する人にとっては、なおさらでしょう。本当は、命を大切にし、休むことが必要なのですが。
多くの自殺者がそうですが、お二人とも、自殺の直前はとても心の弱った状態だったようです。もしも、精神科を受診していたら、結果は違ったものになっていたかもしれません。
*
「私の力の無さを痛感する」 そうですね。人はみな弱い。どんな名門出身でも、才能あふれる人でも、同じです。 才能が無限にあるわけではないし、失敗することもあるし、心が弱ることもあります。みんな同じです。俺は強いんだなんて虚勢を張る人ほど、弱いものです。
本当は、人は自分の弱さを知ることで、強くなれると思います。
弱いから人生を終わりにするのではなくて、弱いからこそ、自分をいたわることもできるし、人をいたわることもできる。自分を愛し、人を愛することもできる。弱さを知り、受け入れることで、逆に生き生きと力強く、生きていけると思うのです。
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落語家 桂枝雀さん
(2009.2.28補足)落語家桂枝雀。天才だと思います。桂枝雀さんの落語芸は、見ている人すべてを笑わせました。そして同時に、破天荒なオーバーアクションでしたが、しかしただ単に客にこびるのではなく、うるさ型の客をもうならせる鬼気迫る芸だったと思います。落語に新しい形をひとつ加えました。いえ、落語そのものを変えていく力さえあったと思います。
また、芸の見事さに加え、人間愛を持っている方でした。そのあたたかく優しい人柄も、人気の原因の一つでした。
しかし、実は枝雀さんは、ブレイクする前に一度うつ病を発病されていました。治療を受け、回復し、高座にもどり、そして大ブレイクしていくわけですけれども、後に再発します。(うつ病は治る病気ですけれども、同時に残念ながら発病しやすい病気でもあります。)
1999年4月19日、人気絶頂の中、芸人桂枝雀(59)は自ら死を選びます。遺書はありませんでした。動機はわかりません。おそらく、自殺の一番の理由は「うつ病」なのだと思います。それに加えて、桂枝雀のストイックなまでの芸に対する厳しさが、自殺の原因にもなったかもしれません。周囲からの絶賛をよそに、このころの枝雀さんは自分の芸に悩んでいました。
天才肌の芸術家、作家、芸人が、すばらしい作品や芸を残しつつ、自ら死を選ぶことは、珍しいことではありません。(そして心やさしい方が死を選ぶことも)
有名人で、才能豊かだからこそ、その早すぎる死は大きく報道され、私たちに衝撃を与えます。最期は大変残念な形でしたけれども、その作品や芸の価値が少しでも下がるわけではありません。そして同時に、その方がどんなに偉大な人であったとしても、私たち社会はその大変残念な最期から、自殺予防の動きを進めていかなくてはいけないのではないでしょうか。
自ら死を選ばれた才能豊かな人々も、本当はもっとすばらしい仕事をしたいと願っていたはずなのですから。
桂枝雀さんの死に際し、遺書はありませんでしたが、1枚のメモが残されていました。そこには、病から回復したら実行しようとしていた20日間の連続独演会のためのネタ順が書かれていたそうです。
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