心理学総合案内「こころの散歩道」/犯罪心理学/神戸小学生殺害事件/鑑定結果の理解と問題


神戸小学生殺害事件から考える
精神鑑定結果の理解と問題点


心の病への一般的理解

 一般の方々の心の病に関する理解は、残念ながらとても不十分です。たとえば、神経症(ノイローゼ)、心身症、精神病人格障害、(パーソナリティ障害)などの区別を、どのくらいの方々ができるのでしょうか。医学や心理学の専門知識を要求しているわけではありません。もっと常識的な理解であっても、どれほどできるでしょうか。

 私たちは、同じ腹痛でも、食べ過ぎ、食中毒、胃炎、胃潰瘍、胃ガンなどを区別して理解しています。各々の病気を理解し、適切な処置をとろうとします。ところが、心の病に関しては、本当にまだまだ不十分な理解しかしていません。

 また、現在では、身体障害や身体の病気に対する偏見は、ずいぶん減ってきたように思います。いまどき、ハンデキャップのある人達を露骨に指さして、侮辱するような人達はほとんどいないでしょう。しかし、心の病に関しては、あからさまに、バカにしたり、避けたりすることが、日常的に行われています。

(すいません。ちょっときつい失礼な文章になってしまったようです。でも、この問題になると、つい語気が荒くなりがちです。)

このような現状の中、突然、行為障害とかDSMとか、難しい言葉が飛び交いました。


精神鑑定の難しさ

一般の医療場面でも、精神分裂病の初期症状と神経症との区別などは、難しいこともあります。しかし、典型的な症状が現れれば、診断は比較的簡単です。診断名をつけるために、何カ月もかけることは普通はしません。とにかく、治療を始めます。

 ところが、精神鑑定の場合は、次のような難しさがあります。

1 作病の可能性(容疑者が精神障害者のふりをしている可能性)

2 現在の状態ではなく、過去の、犯行時の状態を推測しなければならない難しさ

3 「典型的」ではない、珍しい症例の場合。


アートとしての精神鑑定

 精神鑑定の多くは、簡易鑑定です。それほど重大な事件ではない場合、典型的な症状が出ている場合などは、1回の面接で、結果を出せる場合もあります。

ところが、長期間にわたって行い、しかも複数の異なる結果が出ることもあります。

 教科書に出ているような典型例を想定して、普通に考えた場合、とても精神分裂病とは思えないのに、精神鑑定のベテランの方の調査によって、分裂病であることがわかることがあります。意見の分かれることもあります。

 多くの心の病は、レントゲンでも、脳波でも、CTでも、血液検査でも、電子顕微鏡を使っても、客観的な病気の証拠は出てきません。

だから、精神鑑定は、「科学」に基づいてはいるけれど「アート」だという考えもあります(福島章)。これは、福島先生のオリジナルではなくて、臨床心理学的な判断は、アートだと表現する人達がいます。

 それでは、精神鑑定や臨床心理学はダメなのかと言えば、そうではないでしょう。司法解剖をして死因を推測する場合なども、「アート」といえるかもしれません。天気予報も、最新科学技術を駆使しても、最後に人間が天気予報を出すときには、「アート」と言えるかもしれません。


今回の神戸の少年に関する鑑定結果

 行為障害と言うだけでは、何もわからないとか、行為障害(子供への診断名)と性的サディズム(大人への診断名)との間には矛盾がある(精神科医町沢氏)といった意見もあります。もっと、精神病に近いものだろうという意見もあります。

 このように、興味深いディスカッションは、いろいろできます。また、もし成人の事件であれば、人格障害なら一般的に有罪、精神分裂病で責任能力がないのなら無罪ですから、これは大問題です。

 しかし、今回のケースでは、それは大問題にはなリません。福島先生は、鑑定人が主張したいことは、専門家の治療が必要だと言うことだろう述べています。

 私は、本当の精神鑑定結果の中身をあれこれ推測する気はありません。一般論としてならば、様々な心の病や精神鑑定に関する事柄はとても興味深いことです。

しかし、今回のケースに限って言えば、
「少年は広い意味での心の病であり、その病は、簡単に治るものではない。専門家の時間をかけた治療が必要だ」
という理解で良いように思います。

どちらにせよ、彼を刑罰にかけたり、死刑にすることはできないのですし、鑑定結果は、本来公開されるべきものではないのですから。

そのうえで、今回の事件をきっかけに、より良い社会を作り、不幸な被害者や加害者の発生を防ぐための議論をするならば、それはとても良いことだと思います。

当サイト内の関連ページ
精神鑑定とは何か

 


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