心理学総合案内「こころの散歩道」/犯罪心理学/神戸小学生殺害事件/鑑定結果
9.30の新聞報道によると、少年の精神鑑定の結果は、人格障害の一種である「行為障害」とされ、精神病ではなく、心神喪失や心神耗弱の状態ではなかったとしています。処分については、精神医学的治療が可能な医療少年院送致が望ましいとの内容になっているようです。
さらに10.1の報道によれば、行為障害に加えて、「性的サディズム」も見られたようです。
人や動物に対する攻撃 、所有物の破壊 、嘘をつくことや窃盗 、重大な規則違反 などの行為が見られる反社会的な人格障害の一種です。
相手に心理的、身体的苦痛を与えることによって性的に興奮する(快楽を感じる)ものです。
(家裁での調査や鑑定作業のなかで「殺害時や遺体の切断の際に性的に興奮していた」「そうした光景を思い浮かべて興奮を覚えた」などと話していたことが判明しました。)
この説明は、DSM4(アメリカ精神医学界が制定した「精神疾患の診断・統計マニュアル」4訂版)に基ずくものです。DSMは、アメリカの精神科医が診断の時に使うバイブルのようなものですが、日本の精神科医や心理学者全員がこれに従っているわけではありません。日本における伝統的な病名を使うこともあります。行為障害は、「精神病質」に近いでしょうか
「松江警察署」のホームページにDSMの診断基準が紹介されています。(力作です)
心の病を大きく分けると、精神病(統合失調症(精神分裂病)など)、神経症(ノイローゼ、恐怖症など)、そして人格障害などがあります。(「いやしの道」参照)
人格障害とは、病的なほど極端な性格のゆがみです。様々な種類の人格障害があります。
行為障害の診断基準を見て、ただの乱暴ないたずら小僧ではないかと感じた人もいるようです。私たちの性格は一人一人違います。そして私たちは、多少は、乱暴であったり、ウソつきであったりします。
人との性格の違いは、個性です。しかし、その性格の違いが、とても大きく、違いというよりは、「ゆがみ」であり、そのための周囲の人が困ったり、自分自身が困ったりするほどになると、それは病的であると考えられて、人格障害と呼ばれます。
精神鑑定の結果、責任能力があったかどうかの判断が重要です。一般的に善悪の判断がつかず、責任能力がないとされるのは、精神病の場合であり、人格障害の場合は、善悪の判断がつき、責任能力があるとされます。
人格障害者も法的責任を負うべきだとは思いますが、個人的には、人格障害による犯罪に、ただ刑罰を与えるだけという処分には、あまり賛成できません。しかし、もし性格障害者に刑罰を与えないとすれば、多くの犯罪者に刑罰を与えることができなくなり。
人格障害ということだけなら、医療少年院ではなく、一般的に少年院ですが、今回の場合、重症の行為障害であることに加えて、「性的サディズム」とか「解離性障害」などの病名も出ているため、医療少年院になったのでしょう。(10.1)
鑑定書は関西の精神科医二人が作成しました。少年の症状は、年齢相応に社会の決まりごとを守ることができず、むやみに他人の人権を侵害する「破壊的行動障害」で、なかでも長期間継続る「重症の行為障害」とされています。家庭や学校での、特別な環境が障害を引き起こすこともありますが、今回の鑑定では、特にそのようなものは指摘されなかったようです。
また、犯行時に異常に興奮しているところから、他者を苦しめることで快感を得ていたことを強調しているようです。
挑戦状などで「もう一人の自分」を意識していることら「人格面の統合がうまくできていない」と鑑定し、「分裂病の前段階」とも疑わるが、幻覚や思考障害を伴う狭義の精神病ではないとされています。
当初から専門家らが述べてきたように(それを引用したこのホームページで主張してきたように)、人格障害(性格障害)であり、快楽殺人(殺人に快感を覚え、殺人自体が目的)であるというわけです。
さらに、新聞報道によれば、「関係者によると「(少年は)精神科医の治療を受けなけ分裂 病に進む可能性もある」」といわれています。
ニュースを読んで
上の文章は、おもにウェブ上の朝日新聞の記事を参考にしました。昨日(10.1)のテレビニュースなどでも、DSMの診断基準などが紹介されていました。心の病については、ただでさえわかりにくいのに、さらに次々と新しい言葉や考え方が出てきて、とても理解しずらいものになっていると思います。
また、本来、明らかにされるべきではない鑑定内容が、このように報道されてしまうことにも疑問を感じます。「行為障害」だけならまだしも、その先の報道には、特に疑問です。
気をつけないと、少年の人権を侵害するだけではなく、彼の更生の妨害となったり、さらに社会一般の心の病への誤解や偏見が強まることによって、かえって同種の犯罪を誘発する可能性さえ感じます。(偏見や誤解が適切な治療や保護を妨害し、患者を孤独にし、その結果として犯罪が発生する可能性)
今回の事件とその報道を通して、この先の同様の事件が減るように考えるべきだと思います。このサイトでは、ニュースの解説、特に基本的な部分に関する解説を通して、人間理解を深め、犯罪の防止にも役立つような情報発信をしたいと思っています。
心の病に関する基本的な理解なしで、新しい言葉に振り回されたり、かなり複雑な精神鑑定の内容を理解しようとす流ことは、多くの誤解を生む危険すらあると思います。精神鑑定で扱われるケースは、一般の病院で扱うケースから見て、かなり珍しいケースも多いですし、鑑定の作業も、医療場面での一般的な診断と比べて複雑です。精神医学や心理学の入門的なテキストにあるような典型的な例とは異なることも多いようです。
(昨日、ニュース23を見て、メールを出しました。:
・メールの内容
・ニュース23ホームページ
10.1の番組中の「多事争論」コーナーで、「〜その心の闇というものは私たちが持っているものと、相当に地続きにあるのではないでしょうか。」と語られています。人格障害に関していえば、たしかにその通りだと思います。( 10.2. 17:00 )
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