殺人心理学、殺人者の心理。
心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理「心の闇と光」/神戸


やっぱり死刑が必要か


「人はなぜ、人を殺すのか」

現代版殺人心理学入門

小田晋 1996 はまの出版


上記の本をもとに殺人の心理と刑罰による殺人の抑止について考えます。

殺人の動機としては、功利的動機の他に、広い意味での「復讐」そして「被害妄想」があります。

少年の「親殺し」

 少年が金属バットで親を殺す事件などが報道されますが、中流家庭の子どもが親を殺すなど、損得勘定では考えられないことです。このような事件には、やはり特殊な心理が働いていると考えられています。

 子どもは、親に叱られれば、こんな親なんかいなければいいと思いますが、しかし一方で親の優しさを感じることもあります。先日の「NHKスペシャル」で、中学3年生の少年達がインタビューに答えていました。その中で、
「親を殺したいと思うときもある、でも、また優しくされたりすると......。」
と照れ笑いをしている子がいました。正常な感情です。

 子ども達は、自分を痛めつける「悪い親」のイメージと自分に優しい「良い親」のイメージとを一つにまとめあげて、親のイメージを作っていくのです。ところが、中には、このイメージの融合に失敗する子がいます。すると、「悪い」親のイメージだけが病的に広がっていき、ついには、殺人に至るのです。

 親殺しに限りませんが、人は、親のような自分にとって頼りになる大切な人(依存対象)から冷たくされたり、裏切られたりすると、激しい悲しみと共に、「恨み」の感情がわき起こり、時には、殺人まで犯してしますのです。

 また、小田氏は、これらの病的な動機の上に正常で日常的な誘発動機(きっかけ)があると述べています。

(親子関係については、この犯罪心理のページでも展開する予定ですが、このホームページの中の「子ネコの道(心理学入門)」の「こころの発達」のページもご覧下さい。)


イジメがなくならないのは、罰しないから

「イジメがはびこるのは、いじめっ子が罰せられないため」だと述べています。いじめっ子の心の中には、様々な問題があるでしょうが、イジメが継続してしまう原因の一つには、たしかに報酬と罰の問題があると思います。

 どんなイジメをしていても、教師にばれることはなく、逆に、イジメられっこに掃除を押しつけたり、お金を持ってこさせたりしていれば、イジメに対して罰ではなく、報酬が与えられているのですから、その行動は持続するはずです。(このホームページのやる気研究所」参照)。

 もっとも、小田氏が例にあげているアメリカの話は、いじめっ子に体罰を加える話などではありません。
イジメられっ子が転校しなくてはならないのは逆だとして

「カウンセラーがいじめっ子の側を徹底的に調査し、その結果、たいていの場合、いじめっ子が転校する」

ということを紹介しています。


刑罰は犯罪の抑止力になる

 一般に、いわゆる識者が集まると、死刑は廃止すべきだとか、重い刑罰を科しても犯罪は減らないといった主張が多くなされます。これに対して、小田氏は、「死刑の犯罪抑止力は完全に否定されているわけではない」と述べています。

 ただし、犯罪時にそこまで考えるのは、計画犯だけであり、激情犯はそこまでは考えないとも述べています。

 そして、「人が犯罪を犯さないのは、意識的、無意識的に存在する賞罰への恐怖だという主張も、論破されているわけではない」と述べています。

 わたしも、同感です。複雑な人間心理や人間社会のことは、誰にも良くわからないのです。科学者の言うことは、全て仮説だとも言うことができます。でも、ただ分からないと言っているわけには行かないので、いろいろなデーターや信念に基づき、各自が意見を述べるしかないと思うのです。

 また、氏は決して安易な死刑論者等ではなく、「犯罪者への処罰の基準は、責任能力の有無である」と述べています。

ですから、重い精神の病気で善悪の判断が付かない場合などは、責任能力がないわけですから、処罰をするべきではないことになります。

氏によれば、古代から「狂気乱心の者を罰しないのは、人類共通の考え」だそうです。

 ただし、氏の別の場面での発言を聞くと、被害者やその家族の側の恨みや復讐心を無視すべきではないと述べています。おそらく、この種の事件に多く関わってきたからこその発言だと思います。本書でも「人間の復讐心は捨てられない」と述べています。

 今回の事件に関連して言えば、年齢と責任能力の関連についてが問題となりますが、本書ではこのことにはふれられていません。

小田氏は、安易な死刑廃止論や人権の名の下に安易に刑罰を与えないことに対しては批判的なようですが、それでも、

「殺人に対する最強の抑制は宗教である」

と述べています。


死刑全書

原書房 1996 ISBN4-562-02769-X

「人類は、能力の限りを尽くし、多様で残酷な死刑方法を生み出してきた。」


 『図説死刑全書

 実は、今回の事件とは別の動機で購入した本ですが、死刑に関する思想や法律ではなく、死刑の技術的な側面を扱った本です。

 現実的には、多くの国では残虐な方法による死刑などは行われていませんが、もし、厳しい刑罰が犯罪を抑制するなら、そしてそれを第一に考えるなら、できるだけ見せしめになるような死刑の方法が効果的になるはずです。

 本書には、古今東西の様々な死刑方法が写真や挿し絵付きで紹介されています。(念のために申し上げますが、立花隆氏や読売新聞紙上でも紹介されている真面目な本です。)

 
 動物刑、首切り刑、突き落とし刑、飢餓刑、磔刑(はりつけ)、生き埋め、串刺し刑、皮はぎ刑、切断刑、解体刑、切り裂き刑、粉砕刑、火刑、車刑、四つ裂き刑、溺死刑、ギロチン、銃殺、ガス室、電気椅子、絞首刑、などなど。

 
 具体的な死刑方法は、ここではご紹介しませんが、現在の日本の方法である絞首刑と、少年への刑罰と、死刑による犯罪の抑止について、関連する部分をご紹介いたします。


「子どもの絞首刑」

「イギリスは、おそらく最も多くの子ども達を絞首台に送った国である。子どもの絞首刑は1833年までつづき、インクを盗んだ9才の少年の公開処刑をもって終わる。」

「ヨーロッパの数カ国がすでに死刑を廃止していた時代、イギリスの法律は「悪意の明らかな証拠」がある場合は、7才から絞首刑を適用しうると定めていた。」

「1800年、ロンドンで、小間物商の帳簿を偽造した10才の子供を詐欺罪で絞首刑に処した。翌年には、スプーンを一本盗んだアンドリュー・ブランニングを処刑。1808年、テェルムズフォードでは、7才の子供を放火犯として処刑。同じ年、同じ罪で、13才の子供を処刑。19世紀前半にはこうした例は限りない。」


「死刑による見せしめの効果」

「〜処刑用具であり見せ物用具である絞首台は、〜ほぼ全ての町や村に常置されていることが多かった。住民は耐え難い恐怖に襲われそうだが、実際は逆であった。〜かえって無関心にさせてしまったのだ。〜絞首刑は、「気晴らし」「娯楽」になっていった。」

「公開絞首刑が見せしめにならないもう一つの例は、1820年のものだ。250人の死刑囚に関するイギリスの調査によれば、そのうち170名が1回以上処刑の現場を見たことがあるという。1886年の同様の調査では、絞首刑を宣告されてブリストル監獄に拘留された167人のうち、処刑を見たことがない者はたった3人だった。」

(現代の心理学の研究方法から考えれば、この調査からそう単純に結論は出せませんが。)


キーワード:犯罪心理学、殺人心理、殺人の心理、死刑問題、死刑存続、死刑廃止、殺人者の心理、人を殺す心理

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