心理学総合案内・こころの散歩道/犯罪心理/善良さ


少年の善良さ、凶悪さ、病理性、

そして供述、犯行メモとバモイドオキ神


被害者のことを考えると

 殺されてしまった淳君と、彩花ちゃん。そしていまだに心の体の傷が癒えない被害を受けた子供達。社会的な影響を語る前に、まず、この子供達のことを考えると、胸が痛みます。私にも子供がいます。マスコミやインターネットを通じて、ご家族や身近な関係者らの声を聞くと、なおさらのこと、子供を失い、傷つけられたご両親の気持ちが伝わってきます。「A少年のことも同じようにぶん殴ってやりたい」そんなふうにおっしゃるハンマーで殴られた子のお父さんのお気持ち、私にも共感できます。

 一方、少年の両親も、その激しい落ち込みぶりに、万が一のことがないよいに警察が気をつけて見ているほどだということも伝わってきます。週刊女性(8.12)は、被害者側の親の声を掲載するとともに、「中3少年A、残された家族の地獄」と題して加害者側の家族のことも伝えています。

 いつになったら、この人達は癒されるのでしょうか。少年Aが、この世からいなくなればよいのでしょうか。そうではないと思います。私は、この方々のために何もできません。しかし、私のできることとして、こうしてみなさんに向かって発言しています。ほんの少しでも、何かの役に立てればよいと願っています。


少年の凶悪さ

 いまさら言うまでも無いほどでしょう。全く関係のない自分より弱い者を狙った残虐な犯罪。遺体へのむごい仕打ちと犯行声明文。反省の色も全くない。被害者のご家族だけでなく、多くの人が激しい怒りを感じるのは、もっともです。快楽殺人や猟奇殺人と言われる犯罪には、私たちは普通の殺人以上の強い怒りを感じるものです。

 週刊新潮(7.31)は、「淳君殺害「少年」の恐るべき「供述」」と題する記事の中で、「常人には、理解しがたい残虐な犯行」として、「〜淳君の頭部の損壊状態は尋常ではなかった。〜犯人の年齢をとやかく言う前に、これが彼のやった現実なのだ。」と伝えています。つまり、「少年」だからといっても赦されることができないほどの、ひどい犯行だったということでしょう。


少年の善良さ

 その一方、少年は、もともと動物好きの優しい子だったという証言もあります。「良い子」の仮面をかぶっていた面もあるでしょうが。それだけとは思えません。

少年の家の向かいに住むおばあさんが、阪神大震災の時に、少年と弟が一緒に助けに来てくれたと言っています。あの優しい子が、こんなひどいことをしたなんて信じられないとも語っています。

 先日、テレビ朝日の「朝まで生テレビ」のなかで、少年の小学校6年生の担任の声が紹介されていました。「クラスでイジメがあったとき、イジメられっ子を一番かばっていたのは、あの子だったのです。クラスの子達は、みんな知っています。どうしてそのことがマスコミに出ないのでしょう。」

 少年にも、善良な面が会ったことは事実でしょう。

今、こうして書きながら、目に涙がたまってきました。「ああ、そんな子が、どうしてみんなを不幸にするようなことをしてしまったんだろう。」


心の病

 正常と異常の同居、善良さと凶悪さの同居、私たちは、驚き戸惑いますが、心の病とは、そういうものだとも言えるのです。一方で、ごく普通に社会生活をし、優しさを持ち、その一方で、私たちには理解できないような異常性を持ってしまう、そういう心の病もあるのです。

 これは、体の病も同じです。いかにも健康そうに見える、スポーツマンの体の中で、もう手遅れになるほどガンが進行していることもあるでしょう。いつも元気はつらつだった人が、病気で寝たきりになることもあるでしょう。こんなとき、私たちは驚きますが、でも理解することができます。

 ところが、心の病になると、私たちは混乱し理解できなくなってしますのです。体の病に対しては、同情やいたわりを示せても、心の病には嫌悪や怒りを感じてしまうのです。

 ときどき、女性の下着を何千枚も盗んだひとがつかまります。ワイドショーがおもしろおかしく伝えます。たいていの場合、犯人はおとなしくて評判も悪くない人で、普通の社会生活を送っている人です。これも広い意味での心の病です。

 1度か2度ならともかく、何百回、何千回と犯行を続ければ、いつかは捕まることは予想できそうです。2枚か3枚のパンツならともかく、部屋いっぱいの盗品の下着が出てくれば、マスコミにどんな扱いを受けるか、自分の仕事や家族はどうなるか。予想はできるでしょう。しかし、それでも犯行をやめることができない。たしかに彼は犯罪者ですが、その心の病の面を考えると、私は彼をバカにしたり、必要以上に責める気持ちにはなれません。

(簡単に解説すると、女性自体よりもその持ち物に執着してしまうフェティズムかもしれません。または、普通は社会に受け入れられる形で適度に解消される性への欲望を、あまりにも強く押さえすぎ、それが犯罪的行為となって爆発的に現れたともいうことができるでしょう。)


少年の心の病

 今回の少年の場合、殺人自体を目的とした殺人と言われるように、殺人に快楽を感じています。私は、「性格障害」(人格障害、病的性格、人格異常)という心の病気だと考えています。ただし、まだ誰にも本当のことは分かっていません。

 小田晋先生は、性格障害と考えているようです。福島章先生は、当初は人格障害の前段階に当たる「行為障害」としていたようですが、週刊朝日(8.8)によると、犯行メモが明らかになった後は、「類破瓜病」精神病と人格障害の中間類型ではないか」と分析しています。

 実は、一般の患者さんへの診断でしたら、このような複雑なことにはならなくても、判決に影響を与えるような犯罪の場面では判断が難しくなります。また、精神鑑定に関する本を読みますと、一般の精神医学の教科書に出てくるような典型的な精神障害とは異なるパターンが登場します。それで、専門家の間でも、意見が分かられようなことは、珍しくありません。

 

 ただ少年は、何らかの心の病を持っているとは、言えるでしょう。「教師に殴られ「学校に来るなと言われた」から学校には行けない」というも、少年の作り話だと分かりました。神戸地検によれば、「人を殺してみたいという欲望を持ち、犯行におよんだ。」「学校での生活や教育、少年が持っていたホラービデオや本、家庭などと犯行との因果関係もない」とされています。結局、私たちに理解(共感)できるような犯罪の動機はなかったわけです。

 この犯罪が、心の病のためであるならば、私は、彼をその残虐な行為のゆえに一方的に責めたてる気にはなれないのです。ましてや、そのご家族を責める気などにはなれません。もちろん、被害者側の気持ちを無視することはできません。また、心の病と言っても、善悪判断がつかないような状態での犯罪ではないでしょう。彼に責任が全くないわけではありません。

 しかし、心理学者としての理論的結論と言うよりも、人間の心について考えているも者の、むしろ直感的な気持ちだとさえ言えるでしょうが、一時的には感情的になって怒りや憎しみを感じても、でもほんの少し冷静になれば、やはり、心の病を持つ人を責めたてる気にはなれないのです。


バモイドオキ神

 犯行メモにあったこの奇妙な神について、多くの人が論評しています。オウム真理教事件の場合には、宗教的な信念があって、そこから生まれた犯罪といえるでしょう。しかし、今回の場合は、殺人自体が目的の快楽殺人であり、まず、殺人への欲動があって、その後で奇妙な宗教的表現が出てきたのだと思います。小田進先生も「〜快楽殺人の場合、個人宗教のようなものをこしらえて、自ら犯罪を説明するケースは少なくない。」(週刊新潮7.31)と述べています。


長文につきあっていただき、ありがとうございました。

心の病については、このホームページの「いやしの道」に、入門的な解説があります。


次のページへ進む
淳君殺害の「真相」を闇に葬ったマスコミの罪

前のページへ戻る

「犯罪心理:心の闇と光」の表紙へ戻る

「犯罪心理学:心の闇と光」の目次へ戻る

「心のニュースセンター」へ戻る

こころの散歩道(心理学総合案内トップページ)

心理学 総合案内 こころの散歩道 (心理学講座)

心理学入門社会心理学心のいやし・臨床心理学やる気の心理学マインドコントロール| ニュースの心理学的解説自殺予防の心理学犯罪心理学少年犯罪の心理宗教と科学(心理学)プロフィール・講演心療内科リンク|今日の心理学 |